早川書房の異色作家短編集のファンにとっては、今年、『予期せぬ結末』という作家別の個人短編集シリーズが発進したのは、大変うれしいできごとだった。編者は、『異形コレクション』シリーズの名アンソロジスト、井上雅彦。未訳作と個人短編集未収録作品を中心にセレクトされ、気軽に手にとれる文庫での提供というのも、ありがたい。作品の配列も素晴らしいし、食欲をそそる前口上に、わかりにくいオチには親切なガイダンスがあるなど、編者の行き届いたホストぶりも堪能できる。ぜひ、長く続いてほしいシリーズだ。

 第一弾のジョン・コリア『予期せぬ結末 ミッドナイト・ブルー』は、凄まじい切れ味の表題作はじめミステリ短編も多く収録した傑作短編集だったが、続く第二弾は、チャールズ・ボーモント『予期せぬ結末2  トロイメライ』

 チャールズ・ボーモント。1951年にデビュー。ホラーやSFなどを中心に執筆し、50年代後半からは、TVシリーズ「ミステリーゾーン」やホラー映画の脚本を多く手がける。モーター・スポーツ雑誌寄稿から、カー・レースにも自ら出場するなど型破りの活躍をするが、アルツハイマー病に早発性老衰も加わり、急速に老化し、1967年に38歳の若さで他界した伝説の作家。

 我が国でのボーモントの単行本としては、異色作家短編集の中の一巻として『夜の旅その他の旅』(第3短編集)と、後に、『残酷な童話』(第1短編集)の2冊の短編集が刊行されているが、両者には超自然要素やSF仕立ての作品は多くない。ボーモントは単行本になっていない短編に良い物があるという噂もあり、ホラー、SF寄りのセレクトとなった本書は、これまで見えにくかった作家の貌がみえる作品集となっている。

 全体は、二部構成で、ホラー寄りの第一部「黄昏と怪奇と幻想」、SF寄りの第二部「未来と戦慄と星空」の間に、間奏として、ダークなクライム短編「殺人者たち」が挟まれる、全13編。

 村を訪れる死神という運命への孤独な抗いを寓話的なタッチで描いた「とむらいの唄」、

 「邯鄲の夢」を思わせるような設定で、ビザールな悪夢が襲いかかる「トロイメライ」、

 捕獲した小怪獣の成長の恐怖とそれを上回る戦慄の結末が待つ「フリッチェン」、

 死の床の男が神父に語る尋常ならざる生。異端者の魂の問題を巡って余韻嫋々の「終油の秘蹟」

など思わず引き込まれる話術のセンス溢れ、一読忘れ難い短編が並ぶ。

 笑いが失われた社会の秘儀を描くスラプスティック短編「秘密結社SPOL」やエロティックな幽霊譚「幽霊の3/3」など作品のバラエティにも富み、デビュー作「悪魔が来たりて-?」から最晩年の「老人と森」まで収録されるなど、至れり尽くせりの構成である。 

 奔放で多様な短編群を世に送ったボーモントだが、多くの短編で、ある種の侵入者を描いているのが印象的だ。先に挙げた短編も何らかの意味で、あるコミュニティへの侵入者を描いているし、『夜の旅その他の旅』の「越してきた夫婦」「淑女のための唄」「叫ぶ男」、『残酷な童話』の表題作や「昨夜は雨」などもそう。南部の黒人差別という社会派的なテーマを扱ったボーモントの長編が The Intruder (侵入者)というのも何やら象徴的だ(この長編は、ボーモント自ら脚本も書き、ロジャー・コーマン監督により映画化された。昨年日本でもDVDが発売されたこの映画の中では、俳優ボーモントの名演技も観ることができる)。

 侵入者がもたらす価値観の相対化によって浮上するのは、全体対個というテーマ。編中の「変身処置」の管理社会批判のようにストレートに打ち出される場合もあるが、「とむらいの唄」や「終油の秘蹟」のように、全き世界の魅惑と戦慄、そして侵入者の孤独として表現されることもある。これは、作家の個人的な資質でもあるだろうし、アメリカの同時代を反映する問題意識である。と同時に、21世紀の現代にも通じる普遍的なテーマでもある。編者が「ボーモントは生きている」というのも、作品から滲み出す、世界との不調和の感覚が読者にとっても近しいものでもあるからだろう。

『夜の旅その他の旅』で洗練の高みに行き着いた作家生活はわずか十余年。50年代から60年代の社会をイマジネイティブな恐怖と戦慄で異化し続け、まるで自身が異世界からの侵入者であるかのように去っていったボーモント。本書は、そんな作家の横顔を照らし出してくれる短編集でもある。

ストラングル・成田(すとらんぐる・なりた)

20130314093021_m.gif

 ミステリ読者。北海道在住。

 ツイッターアカウントは @stranglenarita

【毎月更新】クラシック・ミステリ玉手箱 バックナンバー