全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 あの厳しい猛暑もどこへやら。秋の夜長は布団にくるまってぬくぬくと、またはあったかいミルクティーなどお供に、いにしえの英国イケメンズに思いをはせてはいかがでしょうか。というわけで今回取り上げるのは、C・J・サンソム『暗き炎 チューダー王朝弁護士シャードレイク』(集英社文庫)です!

 時は1540年、ヘンリー8世統治下のロンドン。法廷弁護士マシュー・シャードレイクは、親類の少年を殺した容疑で捕まった少女、エリザベスの弁護をすることになります。目撃者で、従妹でもある少年の姉二人の証言が決め手となり、無慈悲にも拷問による死刑の宣告が下されます。無実を信じる優しい叔父のジョーゼフがいくらとりなしても黙秘を続け、自ら生きる気力を失っていくエリザベス。しかし、ときの摂政クロムウェル直々のとりなしにより、刑の執行まで12日間の猶予が与えられます。エリザベスを救うには、その間に真犯人を見つけなければ! クロムウェルは猶予の見返りに、幻の秘密兵器「ギリシャ火薬」を探し出すようシャードレイクに申しつけます。

 英国史の中でもとりわけ有名なエピソードに事欠かないヘンリー8世の時代ですが、16世紀の庶民のロンドンといえば、まず思いつくのは犯罪が横行し、悪臭が漂い、不潔で怪しいイメージ。主人公シャードレイクはもともと財務関係を専門とし、背中が曲がっているという身体的なハンディもあるため、危険な陰謀が見え隠れする今回の任務には一人では荷が重い。そう判断したクロムウェルは、目付役件用心棒として家来のジャックを供につけることに。

 かくして、錬金術師も目をつけた怪しい火薬の争奪戦、それを政治に利用せんとするクロムウェルの謀略、次々と現れる怪しい人物、ほのかに芽生えた恋心……などなど、冒険活劇風のテイストを持ちながらも、少年殺害事件の裏には恐ろしい真相が隠されていたという、読み応えたっぷりの歴史ミステリーです!

 翻訳ミステリーは名前や地名が覚えにくいなどという方もいるようで、それが歴史ものだったりすると更に敬遠する向きも多いのはわからないでもないですが、そこでつまずいて読まず嫌いはもったいない! 今やNHKの大河ドラマだって若手人気俳優やアイドルが出る時代。本国BBC製作の『THE TUDORS 〜背徳の王冠〜』では、歴史の教科書で見たヘンリー8世(デカ頭にてんてんまゆげ、下ぶくれのおちょぼ口)とは似ても似つかぬ美形(ジョナサン・リス・マイヤーズ)が演じ、他も肖像画思いっきり無視のキャスティングで大人気なわけですから、これはもう毎度おなじみ腐女子の皆様の妄想力で、あっと言わせる豪華配役版の『暗き炎』を演出してみてはいかがでしょうか。

 というのも、今回初登場のジャック・バラク、この人の描写が妙に細かいというか、ベタ褒めというか、とにかく「ちょ、ちょっと素敵なんですけどマジで!(動悸)」てなぐらいな作者の一押しっぷり(笑)。この”乱れた茶色の髪”を持つ”端正だが精悍で力強い顔立ち”な、”肩が広く腰が引き締まった戦士の体つき”の”荒々しい魅力”を備えた”筋骨たくましい”28歳が、”心配性で陰気な気質”で思慮深い38歳とコンビで事件を解決していくという、バディものとしてはもう文句のつけようがない設定! ちなみに私はシャードレイクをルーク・エヴァンス、ジャック・バラクをトム・ハーディでキャスティング。ああなんてゴージャス(笑)。

 暴走ついでに、他にはどんな登場人物がいるか、括弧内にマイ煩悩炸裂キャスティング付きでご紹介したいと思います。

 もと修道士でムーア人の薬剤師、ガイ・モルトン(ジム・カヴィーゼル)に、”繊細な細い顔”、”異様なまでの邪気のない青みがかった灰色の大きな目”をした”普段は愛嬌のある顔”だが、”ときに危険な別人”の法廷弁護士、ゴドフリー・ホイールライト(トム・ヒドルストン)や、”長身で肉付きの良い”ガタイ、”よく響く低い声”で”赤みがかった薄い髪は頭頂部を隠す”上級法廷弁護士、ゲイブリエル・マーチャマウント(マーク・ストロング)に、”頑丈な顎”を持つトマス・クロムウェル(クライヴ・オーウェン)などなど。他にも、下働きのサイモン(エディ・レドメイン)や、ジョーゼフ叔父さん(ティモシー・スポール)とかきりがないです(笑)。更に”端正な顔”のリチャード・リッチや、お金持ちのノーフォーク公とかまだまだ沢山出てきますので、ぜひご自分版超豪華バージョンで読んでみて下さいませ!

 なお、シャードレイクのシリーズは本国で現在5作目まで続いているようです。本作はまだ2作目ですので、日本でも続編を期待しましょう。あ、そういえばバラクは解錠師でもあるんですけれど、越前さん、偶然ですか?(笑) そしてやはりバラクの人気は高いようで、カール・アーバンがいい!と書いている海外のファンサイトを見つけました。これもいいチョイス(笑)。

 クロムウェルといえば、続編『罪人を召し出せ』もまたブッカー賞を受賞した、ヒラリー・マンテルの『ウルフ・ホール』(共に早川書房)。長編ですが、ページを繰る手が止まらないほどに面白く、読書の醍醐味を120%味わわせてくれる素晴らしい作品です。『暗き炎』の中でシャードレイクは、「読書は気持ちを静め、現実の煩わしさからはるかかなたへ連れ去ってくれる。」と言っていますが、まさにその通りであり、なおかつ気持ちを高めてもくれる傑作だと思います。『暗き炎』を気に入った方はぜひ読まれることをおすすめいたします!

 最後にひとつトリヴィア的なことを。作中に出てくる、スミスフィールドの聖バーソロミュー小修道院・・・ってどこかで聞いたことありませんか? もうおわかりですね! 『SHERLOCK/シャーロック』に出てくる聖バーソロミュー病院は、12世紀にこの修道院とともに設立されました。その後、まさに『暗き炎』の時代にヘンリー8世が再建したということです。やっぱり歴史ものも要チェックですね!(笑)

♪akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 Twitterアカウントは @suttokobucho

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