■『イド・インヴェイデッド』がブームに

 今年1月から放送されている探偵アニメ『イド・インヴェイデッド』が、中国で日本以上にブームになっており、その人気ぶりに中国人自身も驚いています。この作品はビリビリ動画という動画配信サイトで毎週日曜深夜に中国語字幕版が配信されていて、12話が配信されたばかりの3月16日時点でシリーズ合計再生数が5809.1万回、合計弾幕数が79.5万になっています。

 ビリビリ動画に現在配信されている同時期の人気アニメを比較対象にしてみましょう(どれも3月16日時点)。

『Fate/Grand order 絶対魔獣戦線バビロニア』は合計再生数9555.1万回、合計弾幕数126.3万(20話まで)。
『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』は合計再生数9619.2万回、合計弾幕数166.9万(10話まで)。
『虚構推理』は合計再生数4861.1万回、合計弾幕数76.2万(10話まで)。
『地縛少年花子くん』は合計再生数3999.8万回、合計弾幕数99.3万(10話まで)。

 こうして並べると、人気はあってもそこまで言うほどではないように見えますが、ここで注目したいのは評価者数です。ビリビリ動画では動画内にコメントを弾幕として打ち込める他に、You Tubeのように各動画の下にコメント欄があり、そこにコメントとともに評価を書き込めるようになっています。その評価者数が、『イド』約16万人、『Fate』約11万人、『痛いのは~』約7.6万人、『虚構推理』約3.5万人、『地縛少年』約5万人となっており、『イド』がダントツであることが分かります。
そして現在、『イド』は10点満点中9.9点という非常に高い評価を維持しています。

 なぜ中国でだけ人気が突出しているのでしょうか。Coo-RikuRikuという日本在住の中国人アニメーターは、中国で人気となった最大のポイントはビリビリ動画で配信されていること、と分析しています(↓こちら)。

『イド・インヴェイテッド』の海外人気について

 確かに弾幕以外で視聴者が交流できるコメント欄は、展開が読めず、複数回見ることで新たな事実を発見できる『イド』のようなミステリーアニメに適しているかもしれません。また、日本では地上波以外に多くのサイトで配信されていますが、中国ではビリビリ動画でのみ配信ということも膨大な視聴者数を可視化できている理由でしょう。

 脚本担当の舞城王太郎は中国ではそこまで有名ではなく、中国大陸で正式に出版されている作品は、『ディスコ探偵水曜日』(2012年)と『阿修羅ガール』(2005年)だけのようです(出版年は中国でのもの)。今回のヒットで注目されたり再版されたりすることがあるかもしれません。

 

■厳戒態勢の穴

 中国での新型コロナウイルス感染症が落ち着き、世間にも余裕が見えてきたせいか、ニュースにも変化が起き、世間を鼓舞したり勇気付けたりするようなニュースの中で、三面記事的な内容のものがちょくちょく現れるようになってきました。今回はちょっとミステリー色のある、今の中国だから起きたウイルス関連のニュースを紹介したいと思います。このコラムが発表される前に、もう日本で取り上げられているかもしれませんが……。

 まず一つ目は3月14日に報道された、韓国で商品を代理購入していた業者(国外で商品をまとめ買いして国内で売りさばく業者)が警察に通報されたというニュースです。

 私が暮らしている北京では2月14日から、国内外から北京に戻ってきた人間に対して14日間の在宅隔離措置の要請が出され、管理がより厳格になりました。またその前からも、居住エリアやマンションの部外者の立ち入りが禁止となるなど、外から来る人間に対してかなりピリピリしていました。
 そのような雰囲気の北京で2月18日、警察にある通報が届きます。韓国で商品の代理購入を終えて2月17日に北京に戻ってきた女性が、在宅隔離措置を取らず外を歩いているという目撃情報が警察に寄せられます。警察官が確認をしたところ、その女性は出国さえしていなかったということでした。彼女はご丁寧に、韓国にいるというアリバイを作るために友人や客に対して旅行風景や商品の写真を定期的にアップしており、それでリアリティを水増ししていたのでしょう。
 日本では、感染発覚によって行動履歴が露わになるのではと懸念されていますが、どこにも行っていないことがバレてしまった一件でした。

 実際、2月末には代理購入をするために国内外を往復して逮捕された者も出ています。中国の感染状況が好転しているのとは逆に海外がどんどん深刻になっている今、代理購入業を再開しそうな輩が出てきそうですが、公私の監視の目が厳しくなっておりますので、この完全犯罪を成し遂げるのはなかなか難しそうです。

 

 もう一つは、感染源の一つとされている武漢市の市場に潜伏していた「パラサイト」一家発見のニュースです。

 ウイルス感染源と指摘されている武漢市の華南海鮮市場は、1月1日に閉鎖されました。ところが3月3日に消毒作業に訪れた関係者が、市場内の宿舎に住む顧一家を発見。顧は市場の管理人で、当時は義理の息子と義理の娘、そしてその子ども(全員、顧と血の繋がりがない?)の4人で、武漢が封鎖された1月23日から宿舎にずっと住み続けていました。彼らは武漢に家を持っておらず、市場から追い出されても行くところがないので食材を大量に買い込んで宿舎に籠もっていたそうです。発見後の検査ではなんと4人全員が感染なしということで、現在はホテルに隔離されています。
 43日間どうしていたのか。本当に市場から外に出ていないのか。そもそも彼ら4人はどういう関係なのか。気になる点は多々ありますが、顧は記者からのインタビューに対してあまり語りたがらない様子で、続報は期待できません。

 

 今回の感染拡大による中国国内の警備や管理の厳格化を肌で感じ、現代中国を題材にしたミステリー小説を書くのが今後ますます難しくなるなぁと心配していたのですが、このような状況下で実はこんな事件が起きていたという報道には励まされました。今後もっと三面記事的なニュースが出てくると思いますので、制度の穴とか盲点などを報道することで、ミステリー作家たちに創作の可能性を見せていってほしいです。

 

■最後に、中国ミステリー関連の話題

 1月末に上映予定でしたが今回の事態で延期になり、現在まだ未定のままという、中国コメディミステリー映画『唐人街探案3』が謎解き本のような形式となって登場します。


『唐人街探案3 探偵ノート2』

 映画と同じく東京を舞台にした本作は、日本から送られた国際小包に入っていたノートの謎を解くため、東京の新宿や代々木公園などを実際に探索するという体裁でストーリーが進行します。ノートや各種プリント、東京の地図の他に、事件に関係する花札や絵馬など和風グッズも同封されているばかりか、東京を舞台にした事件のはずなのにヤマタノオロチの伝説も関わってくるようで、いったいどのような「日本」が描かれているのか気になります。

 この企画はクラウドファンディング発で、目標金額がとっくに超えているので間違いなく発売されるでしょう。中国では映画の関連グッズがクラウドファンディングから生まれることがよくあり、またこのような大掛かりな謎解き本も近年次々に発表されています(参照:第65回:誘拐ミステリーで上海観光?! https://honyakumystery.jp/13219)。他にも、中国の故宮を舞台にした謎解き本などもあり、そのどれもが高価で凝った作りになっております。正直、かさばるので何作も買いたくはないのですが、いつかまとめて紹介したいですね。

阿井幸作(あい こうさく)

 中国ミステリ愛好家。北京在住。現地のミステリーを購読・研究し、日本へ紹介していく。

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