全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
突然ですが、一番美しいと思う男優は誰ですか?
当然千差万別のお答えがあるでしょうが、好みの問題は別として、『太陽がいっぱい』(’60/仏)のアラン・ドロンは、この世のものとも思われないほど美しかったという意見には賛同して下さる方も多いのでは(ですよね?)。原作はパトリシア・ハイスミスの『リプリー』(河出文庫)。ご存知の方も多いと思いますが、結末を含め、登場人物の設定等などがいろいろと改変されていました。1999年にはより原作に忠実な『リプリー』(アンソニー・ミンゲラ監督、マット・デイモン主演)が作られたものの、あの気怠く退廃的なルネ・クレマン版の完成度には追いつけなかったように思います。
原作の幕開けはニューヨークのバー。小切手偽造などの詐欺で糊口をしのいでいるトム・リプリーに、造船所を経営するグリーンリーフという初老の男性が声をかけます。ヨーロッパに絵の勉強に行った一人息子のディッキーを、連れ戻して欲しいと言うのです。他の友人たちから断られた挙げ句、知り合いというだけで、ろくに素性も知らないトムに白羽の矢を立てたのですが、日々の生活に嫌気がさしていたトムは、気前の良い報酬につられて喜んで引き受けます。
語り手は作者なのですが、同居人のだらしなさや、欧州に向かう船での友人たちのふるまいなどは、あたかもトム自身が発しているように、それはそれは憎々しく、侮蔑をこめて描かれているのが面白いです。そんな町を捨て、陽光きらめくイタリアの小さな港町で再会したディッキーは、ハンサムで自信家の男でした。以前数回会っただけのトムを覚えていない彼は、最初トムをいぶかしみますが、同郷ということもあり、父親の報酬で共に遊び回るうちに気を許し、トムも彼のことを特別な感情で見るようになります。ところが、近所に住むアメリカ人のマージは、ディッキーとの間に邪魔者が入ったとばかりにトムを毛嫌いし、彼をゲイであるとほのめかし、ディッキーから遠ざけようとするのです。そうした三角関係の日々が長引くにつれ、当然マージに対してトムは憎しみを募らせてゆくのですが、特に凄まじいのは、一人取り残されたトムがディッキーの部屋で彼の洋服を身に着け、鏡に向かってディッキーの声音でマージに対して罵り、さらには彼女の首を絞める振り(エア殺人?)をするくだりです。
そしてある日、2人でサンレモへ小旅行に出かけた際に事件が起こります。邪魔なマージ抜きで楽しく過ごすはずだったトムでしたが、ふとしたことから、自分に対するディッキーの不当な扱いに腹を立て、彼をボートに誘い、沖で殺してしまいます。仏映画版ではナイフを用意しており、明らかに計画的な殺人ですが、原作では、事前にざっくりと計画を立てたものの、むしろ陸から離れて2人きりの今なら「殴りつけることも、跳びかかることも、あるいはキスをしたり、海に投げこんだりすることもできるのだ。」と、自分が優位に立つことに満足を得られただけではなく、結局は手近にあったオールで執拗に殴り殺すのです。このように場当たり的な犯行だったにも関わらず、運が味方になったのか、トムの犯行は発覚せず、さらにはディッキーになりすまして彼に送られた小切手を換金し、豪遊を続けます。
この小説で大変興味深いのは、この後も続く恐ろしい犯罪に関して、トムがまったく罪悪感を感じておらず、むしろ享楽的な人生の汚点であると思っているところです。そして、おそらく愛していたであろうディッキーの喪失に対し、ちっとも悲しいと思っていない。なぜならそれは、外見や話し方、さらには趣味や語学能力までも、いまや自分自身がディッキーそのものになってしまった、つまりは究極の自己愛で完結したからではないか。そんな想像さえしてしまう耽美な雰囲気を醸し出しているこの作品は、発表から60年近く経った今でも古くささを感じません。もし映画しか観たことがなければ、ぜひ読んでみて下さい。
見知らぬ人間が生活に入り込んでくるというサスペンスは『リプリー』以外にも沢山あげられますが、一方、入り込んで行った先で恐ろしい目に遭う、という作品も。そこで10月25日公開の新作映画『トム・アット・ザ・ファーム』(2013/カナダ)をご紹介します。
ケベックにある人里離れた農場に、若い男がやってきます。友人である農場の次男が事故で死に、その葬儀に出席するためです。老いた母親は次男の彼女について聞きたがりますが、実は男は彼の恋人でした。粗暴な長男は真実を知っていたにもかかわらず、友人であると母親に嘘をつくよう男に強要し……。
監督、脚本、主演を務めるグザヴィエ・ドランはなんと25歳という若さ! 20歳で撮った『マイ・マザー』も、ほかにはない雰囲気の一風変わったミステリで非常に面白い作品でした。今作は舞台劇からかなり脚色をしたとのことです。導入場面から恐ろしいほどの緊張感が漂い、本気で目を背けたくなるような暴力シーンも。ラストに至るまで一瞬も気が抜けない極上のサスペンスです。
プレスシートによると、米ヴァラエティ誌で絶賛された際、「可塑的なアイデンティティーと、エロティックに高まっていく男同士の対立関係は、ハイスミスを暗示させる。本作の主人公の名前が、いわくつきのアンチヒーロー、トム・リプリーと同じであるのは偶然とは思えない」と評されたそうです。なお、両作品ともトムは広告代理店勤務(リプリーは自称ですが)、そしてリプリーとドラン監督は25歳、と偶然も3つ続けばもしかして……?
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♪akira |
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BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。 Twitterアカウントは @suttokobucho |