その日、読書会は午後からだというのに早くも午前中から集まった半数以上の参加者たちは浜松名物(?)炭焼ハンバーグレストラン「さわやか」にいた。地元でもかなりの人気店のため行列が出来ることもしばしば。開店直後に入店せねば!と名古屋読書会でお馴染みのK氏が早めに行動してくれた結果、待つこともなく無事に全員分の席を確保できた(その節はありがとうございました。他人の振りをしようとして申し訳ありませんでした!)。
あらかた食べ終わって満足感漂う中、何故か運ばれてくる二つのげんこつハンバーグ(250g)。驚く周囲を尻目に平然と迎える女子2名。それを見ておもむろにメニューに手を伸ばす男子1名。
「お? ヤル気か?!」と思ったその時、聞こえた言葉は「すみません、デザート追加で!」
げんこつじゃないのかよっ!!
周囲が呆気にとられたまま、追加されたげんこつハンバーグとデザートはきれいに平らげられたのだった……。
午後、集合時間近くなり、続々と会場へ集まり直す参加者たち。この時さわやかに行かなかった参加者が「焼き肉臭っ!!」と言っていたのが印象的だったなぁ……。
当初の予定よりも人数が増えた事もあり、参加者はまず2グループに分かれて着席。前半はグループトーク、後半は全体トークのタイムスケジュールで動くことに(このシステムは完全に名古屋読書会型)。
期せずして、今回が初めての読書会です!と言うピカピカフレッシャーズ(棚橋先生含む)な顔触れのグループと、名古屋でもお馴染み☆読書会ベテランメンバーのグループになった。
……実は狙ってました? 世話人Bさん。
そんなこんなで、自己紹介を皮切りに『わたしが眠りにつく前に』読書会はスタートしたのだった。
設定について
「オープニングシーンが素晴らしい女子発想! すごくリアルだと感じた」
「毎朝、鏡を見る度に若いつもり(10〜20代)でいたのに現実(40代後半)を突き付けられるとか、怖すぎる」
……うん、それは恐怖。まさにホラーだわ。
「記憶喪失モノは多くあるけど、寝たら忘れるって設定が面白いよね」
「コレは設定の勝利でしょう! よくある話をここまでサスペンスフルにするなんて」
「いわゆるミステリとは違って事件はなくて、嘘をついているのは誰か? の謎はありますけどね」
そうなんです。課題書はミステリではなく、サスペンスなんですよね。
「てゆーか、寝たら忘れるって解ってるのに寝ない努力をしてないよね、クリスティーンは」
「短時間なら忘れないって言ってるんだし、もっと徹夜するとか、昼寝程度の時間で小刻みに寝ればいいのにねー」
……確かに(笑)
「日記が日記ぽくないですよね」
「地の文なのか、そうでないのか判りにくくて……」
「クリスティーンが作家だから、日記と言うより小説。彼女の第二作って感じなのかも」
「ミステリのセオリーとしては日記は疑うもの。って事で終始疑って読みました」
作者について
「最後まで(訳者後書きまで)作者が男性だと気付かなくて、驚きました」
「女性への描写が割と辛辣なので男性ッポイとは感じました」
「ほぼ初対面の男を、同居してるってだけで受け入れるとか……このあたりの描写で作者は男性と言われても違和感なかったですね」
「SJのイニシャルだからか、女性だと思い込んでましたね」
S・J・ローザンとかS・J・ボルトンとかいますしね。わかります。
「後書きの時点では思いつかなかったんですが、男性作家の女性一人称でエラリー・クイーンの『Zの悲劇』がありましたね(棚橋先生談)」
翻訳ミステリに限らなければ、古くは紀貫之、近代では太宰治、現代でも北村薫とか女性一人称で書いてますね。
本のつくりについて
「登場人物紹介が『私』しかいないのがすごい」
その辺、どういう理由があったんでしょう?
「担当編集に相談されて、いっそのこと主人公だけにしたらと提案したんです。その方が作品に含みをもたせられるかなと思いまして。もしかしたら全て主人公の妄想なのかもしれないとか、疑わしい人物は一人なのか複数なのか、とか(棚橋先生談)」
「ヴィレッジブックスと言えばロマンス専門レーベルの印象が強いので女性の顔が表紙になってるとコレもロマンスかなと思っちゃいますよね」
「原書はこんな感じです(と、原書を見せてくださる棚橋先生)」
表紙にはしわひとつ無い若い女性の開いた片眼が、裏表紙には眼の周りに小じわが目立つ中年女性の閉じられた片眼が印刷されてとても印象的な装丁になっていた。
「……正直、この表紙の方が買いたくなるね」と、おっしゃるかたも。
ここで名古屋から参加の大矢さんからも一言。
「ヴィレッジブックスはロマンスやコージーの他にも素晴らしいミステリ作品を出版してるんですよ。見逃されがちだけど」
そんな作品をレジュメにも少しですがピックアップして載せました。
他にもいろいろと、そりゃもういろいろと熱い意見交換が交わされたが、それをココに書いてしまうと盛大なネタバレになってしまうので自粛したい。
全体トークの終わりに記憶喪失モノ関連でオススメをピックアップ。
「ロマンスでは記憶喪失は王道で数あるんですけど、特にあげると『私でない私』サンドラ・ブラウン、『本日も、記憶喪失。』ソフィー・キンセラ、『マッケンジーの娘』リンダ・ハワード、〈愛の国コルディナ〉シリーズ/ノーラ・ロバーツですね」
「他に翻訳モノなら『シンデレラの罠』セバスチャン・ジャプリゾ、日本の作品だと『今日を忘れた明日の僕へ』黒田研二、『ドグラ・マグラ』夢野久作、『レベル7』宮部みゆき、『むかし僕が死んだ家』東野圭吾、『僕を殺した女』『透明な一日』北川歩実、あたりかな」
「映画だと『メメント』とかオススメです」
「あ! 島田荘司『異邦の騎士』も!」
最後の最後に棚橋先生からS・J・ワトソンの次作情報を教えて頂けて、本当に充実した読書会だった。
さわやかから数えれば3次会になる打上げ懇親会でもお酒とお料理とおしゃべりを楽しんで、無事に浜松読書会第一回は終了したのだった。
追記
読書会後、数日経って課題書原作の映画が日本でも公開される事が発表された。
邦題は『リピーテッド』となり、5/23公開予定とのこと。クリスティーンを演じるのはニコール・キッドマン、脇をコリン・ファース、マーク・ストロングの2人が固め、製作総指揮リドリー・スコットと来ればどんな作品になったのか、楽しみでならない。
(浜松読書会世話人・山本三津代)