今回は、日本でもお馴染みのデイヴィッド・L・ロビンズが描く、米空軍の特殊救難部隊隊員が活躍するシリーズを取り上げます。

 第一作の The Devil’s Waters (2012)では、ソマリアの海賊、ユースフ・ラーゲが武装集団を率いるシャイフ・ロボウより貨物船〈ヴァルネア〉を乗っ取るよう、依頼を受ける。

 数週間後、準備を整えたユースフは部下を引き連れて〈ヴァルネア〉を襲い、乗組員たちを人質に取ってソマリアの領海へと向かう。

 しかし知らせを受けた米国政府は〈ヴァルネア〉を阻止するため、ソマリアと国境を接するジブチ共和国の米軍基地に駐留している特殊救難部隊に急遽戦闘任務を命じ、その上部隊を率いるウォーリー・ブルーム大尉は、直属の上官を越えてAFRICOM(アメリカ・アフリカ軍)司令官より直々に「人質救出より積荷奪還を優先すること」及び「ユースフ・ラーゲ殺害」の二点を厳命される。

 詳しい状況を知らされないまま、部隊は〈ヴァルネア〉へ急行するが……

 第二作、The Empty Quarter (2014)の舞台はイエメン。

 かつてアフガニスタンでソ連軍と戦ったサウジアラビア人のアリフ・アル・バハズィクは、帰還後母国の王政を批判したため妻のナディアと共にイエメンへ逃れていた。

 アリフの義父にあたるサウジアラビア総合情報庁長官、ハッサン・ビン・アブドゥルアズィーズ王子は自宅で命を狙われる。犯人が最後に電話をかけた相手がアリフであることを突きとめたハッサンは、アリフの殺害をCIAに依頼、同時にナディアを連れ戻すべく行動を開始する。

 この暗殺未遂事件はアリフではなく、彼に接触したAQAP(アラビア半島のアルカイダ)のガリブ・トゥジャル・バージャラールが独断で起こしたものだった。それを知らず、ナディアを奪われたアリフはガリブを問い詰め、ガリブが手配した男たちと共にすぐに追跡に移る。

 一方、ナディアを連れ去ったイエメンの工作員、カリル・アル・ディンはサウジアラビアへと向かっており、その車にはCIAの指示によって在イエメン米国大使館館員のジョッシュ・コーフィールドも同乗していた。

 追手の存在に気づいた、従軍経験のあるコーフィールドは直ちに救難信号を発信、サウジアラビアの空港で待機していた特殊救難部隊に出動命令が下る。

 第三作、The Devil’s Horn (2015)の舞台は南アフリカ共和国へと移る。

 特殊救難部隊の面々はプレトリアでの航空ショーに参加していたが、指揮官のブルーム大尉と副官のガス・ディナルド曹長はクルーガー国立公園に墜落した無人機に装着されていた米国製ミサイルを極秘裏に回収するよう命じられる。

 満足な装備も準備できないままクルーガーに向かった二人だが、既にミサイルは奪われた後だった。公園監視員のプロミスが、密猟者たちの元締めであり、大叔父にあたるジュマに連絡したため、隣国のモザンビークへと運び出されていたのだ。

 米国政府はミサイルを奪還するべく、南アフリカ共和国の情報機関の協力を得て元軍人でもある国立公園のベテラン監視員ニールスをブルームたちの許へ向かわせる。

 このシリーズの特色は、戦闘ではなく救出を目的とした部隊を主役に据えている設定にあります。

 特殊救難部隊は Guardian Angel(守護天使)や PJ(Pararescue Jumperの略)とも呼ばれ、その名のとおり、あらゆる場所へパラシュート降下し、軍人はもちろんのこと、情報組織の工作員、米国大使館館員や政府開発援助に携わっている民間人、更に求められれば現地住民の救出・救護を行う部隊です。

 そのため戦闘能力に加えて救命・救護能力も高く、武器だけでなく救急医療用器具を携えての出動となり、任務が洋上であればゾディアックボート、地上であれば全地形型車両と共に降下するあたり、かのサンダーバード(国際救助隊)を髣髴とさせます。

 隊員の中には陸軍や海軍の特殊部隊から移籍してきた者もいるなど、個性的な猛者揃いですが、このシリーズでは彼らのみならず、救難部隊と敵対する人物たちに焦点があてられていることも大きな特徴です。

 ユースフ(The Devil’s Waters)やアリフ(The Empty Quarter)、そしてプロミス(The Devil’s Horn)といった面々の視点に加え、彼らを取り巻く社会環境まで語られることで物語に奥行きが加わっています。

 特に第三作 The Devil’s Horn は、ほとんどプロミスや彼女の上司にあたるニールスの視点から描かれ、前二作とは雰囲気の異なる内容です。

 このシリーズでは大国間の思惑や自分を取り巻く社会状況によって翻弄される人々と、最小限の情報しか与えられないまま出動し、彼らに関わることとなる特殊救難部隊の行動が描かれ、いずれも作者の力量が存分に発揮されたものばかり。

 少し変わったアクション作品が好きな方にお薦めです(個人的には、初めて読んだ The Empty Quarter が一番気に入っています)。

寳村信二(たからむら しんじ)

20世紀生半ばの生まれ。2015年の掘り出し物と言える映画は『ワイルドカード』(監督:サイモン・ウェスト)、『はじまりのうた』(監督:ジョン・カーニー)、『バクマン。』(監督:大根仁、なんと二度も鑑賞)でした。 

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