みなさま、こんにちは。春、三月。ひな祭りに卒業式。まだ肌寒いですが、少しずつ春本番へと近づいている今日このごろ、花粉症対策は万全ですか?

 ちまたで人気の「五代様」こと俳優のディーン・フジオカさんは、生まれも育ちも日本だそうですが、花粉症のせいでアメリカの大学に進学し、以後海外に拠点を置くことになったとかならないとか……それで朝ドラの撮影も花粉の季節がはじまるまえに終わらせて、日本を脱出したのでしょうか。そこからの五代様ロス……花粉症、影響大ですね。

 さて、お待たせしました! 二月の読書日記はコージー特集ですよ〜。今回は新シリーズと長寿シリーズをあわせてご紹介。コージーミステリはシリーズものがほとんどですが、何作目から読んでも作品の雰囲気さえ気に入れば問題なく楽しめると思いますので、一作目から読まないとだめなんじゃないの? などと考えずに、お気軽にどうぞ!

■2月×日

 クーポンを賢く使ってお買い物! うーん、正直ちょっと苦手かも……だって、クーポンって、安いからってついいらないものまで買わせられてしまうイメージがあって、なんとなくあんまり魅力を感じないんだよな……せっかく『フランス人は10着しか服を持たない』のおかげで少しずつ断捨離に成功し、ようやく買い物欲も抑えられるようになってきたというのに、また「買わなきゃ損!」みたいなモードになってしまったらどうしてくれるのよ(影響されすぎだろ)。と言いつつ、やっぱり気になりますね、クーポン。

 リンダ・ジョフィ・ハルの『クーポンマダムの事件メモ』は、そのクーポンのお得で賢い利用法をブログで伝授するクーポンマダムが、なぜか殺人事件に巻き込まれて、事件解決のために奮闘するお話。シリーズ第一弾です。

 夫のフランク(財テクの専門家なのに!)が投資詐欺にあって蓄えをすっかり失ってしまったせいで、セレブ主婦から一転、節約主婦になったマディは、クーポンを駆使して節約する楽しさに目覚め、ブログ「クーポンマダムの節約サイト」を開設するまでに。

 ある日マディはモールで万引きにまちがえられ、感じの悪いショップマネージャーのレイラとやりあうが、その後レイラは突然倒れ、病院に搬送されるも死亡してしまう。殺人の容疑をかけられたマディは、身の潔白を証明するため、モールの警備員グリフと謎解きに挑む。

 スーパーでクーポンを使って大量の家庭用品を買うシーンでは、なぜクーポンが苦手なのかよくわかった。クーポンごとにちがう条件を頭に入れて、底値表と照らし合わせて、いくつ買えば長期的にどれだけお得か計算して……って、複雑すぎるよ! わたしには絶対無理。しかもマディは事件についてあれこれ考えたり、容疑者リストを作りながらこれをやってて、マルチタスクにもほどがある。案の定、計算をまちがえて予算オーバー。あ、じゃあこれはやめます……って、レジでうしろに並んでる人にとってはすごくメーワクじゃない? お詫びにクーポンをあげたりしてるけど。瞬時に対応できるレジの人のスキルもすごいわ。

 あと、大量買いがお得なのはわかるけど、地下室が備蓄品だらけってどうなの……と思ったら、突然のホームパーティを備蓄品と創意工夫で切り抜けたのはお見事。あれはなかなかできないわ。ブログに書きたくなるのもわかる。

 登場人物が多くて最初はかなり頭の中がごちゃごちゃするけど、後半の謎解きはかなりおもしろくて引き込まれます。読んでいるうちに、まじめで努力家なマディに思わず感情移入。節約に励むのも殺人事件の解明に奔走するのも、何もかも夫のためなのに、その夫はといえば……最後までびっくりポンな展開で、飽きさせないお買い物ミステリ。クーポンに対するイメージもちょっと変わった。やっぱりお得なのね。

■2月×日

 クレオ・コイルの『億万長者の究極ブレンド』は〈コクと深みの名推理〉シリーズ十三作目。このシリーズ、カバーイラストやなかのカットがすごくかわいいのもポイント高いよなあ。

 ニューヨークはグリニッチビレッジの老舗コーヒーハウス、ビレッジブレンドのバリスタたちは、聞いたこともないコーヒーを注文するヘンな客に悩まされていた。マネジャーのクレアが客に対応する。

「ユンヨンは?」「コーヒーと香港式ミルクティーを七対三の割合で混ぜたもの」

「ボンボンは?」「エスプレッソに甘いコンデンスミルクを加えたドリンク」

「アントチーノは?」「エスプレッソを一ショットと同量のスチーム・ミルクを混ぜたもの」

 さすがクレア、コーヒーカルトクイズは全問正解。コーヒードリンクって、ほんといろいろあるんだなあ。

 ヘンな客はIT業界の若き億万長者エリック・ソーナーで、金に糸目をつけない究極のコーヒー、ビリオネアブレンドを開発してほしいという。

 そして、そのエリックに言い寄られちゃうクレア。大人の余裕で適当にあしらいつつも、相手はIT億万長者ですからね、奥さん。会員制の高級レストランで食事。パリでシェフ修行中の娘に会いたいと言えばプライベートジェットでひとっ飛び。自宅にはJ・D・ロブの近未来ロマサス〈イヴ&ローク〉シリーズに出てくる家事ドロイドみたいなのがいるし。ゴージャスな暮らしに、しばし現実を忘れちゃいます。

 お金に糸目をつけない究極のビリオネアブレンドのためのコーヒーツアーがまたすごい。ウガンダからタイ、インドネシア、ハワイ、エルサルバドル、ハイチ、ジャマイカ、コスタグラバスって、ほとんど世界一周ですよ。コーヒーハンターのマテオにとってはいつものことみたいだけど、今回はクレアとエリックも同行。究極のコーヒー豆と引き換えに、途上国のインフラ整備に必要なお金を億万長者にどーんと出させちゃうなんて、やるなあマテオ。

 というわけで、個人的にマテオの株が急上昇。コージーになぜかよく出てくる、別れたのに未練がましい元夫って苦手なんだけど、今回はじめてマテオいけてると思った。チャラ男っぽいと思いきや、ワイルドでたよりになるのよね。でも夫よりは恋人向きかなあ。

 クレアはニューヨーク市警の刑事から連邦捜査官になったマイクとまだラブラブだけど、遠距離恋愛でちょっと雲行きがあやしいし、どうなることやら。マテオは再婚しちゃってるから、一発逆転とはならないと思うけど。

■2月×日

 コーヒーとくれば紅茶。ローラ・チャイルズの『スイート・ティーは花嫁の復讐』は、アメリカ南部のチャールストンを舞台にした〈お茶と探偵〉シリーズの十四作目です。

 インディゴ・ティーショップはオーナーのセオドシア、ティーブレンダーのドレイトン、シェフ兼パティシエのヘイリーの三人だけでよくまわしていけるなと思うほど繁盛している店で、地域のイベントにもかならず参加。お茶と軽食だけでなく、店内で販売しているグッズも充実していて、お茶の成分を配合したオリジナルのスキンケアブランドまで開発。オンラインショップでも販売し、地元のブティックにも卸しているというから、セオドシア、かなりのやり手です。こういうステキ女子のライフスタイルが、これでもかと提示されているので、ときどきちょっとうっとうしくなることもあるけど、男で苦労していたりするので、許せる(何様!)。

 さて、今回はセオドシアの友人デレインが敏腕弁護士ドゥーガンと結婚することになり、その結婚式直前に花婿が死体となって発見される。いろいろ突っ込みどころは多いけど、よくあるテンプレですね。そういやデレインって、いつも変な男に引っかかってるような気が……せっかく必死でスピード結婚にこぎつけたのに。

 そんなデレインの気分を落ち着かせてくれた、ドレイトン特製のスイート・ティーは、「エジプト産のカモミール・ティーにハイビスカスの花、ローズヒップ、それに蜂蜜をちょっぴりブレンドしてある」すてきなお茶。ハーブティーのブレンドです。

 ドレイトンが薀蓄を語るさまざまな種類のお茶はもちろん、毎日ヘイリーが得意げに報告するランチメニューやデザートメニューがとにかくおいしそうなインディゴ・ティーショップ。通常業務のほかに、お茶会のテーマに合ったおもてなしも得意としていて、毎回ドレイトンとヘイリーが知恵をしぼって考えるブレンドやメニューを読んでいるだけで、幸せな気分になります。よくアイディアが枯渇しないなと思うけど、今回とくに印象的だったのは、チャールストン・ハイランダーズ・クラブのランチ! ヒースやタータンチェックをあしらったテーブルセッティングに、スチュアート・タータンとブラックウォッチ・タータンをアイシングで描いたカップケーキ! ステキすぎます。メンバーが男性ばかりというのは意外だったけど、それならキルト着用にすればいいのに。

 いかん、事件そのものより、またお茶や食べ物のことばかりが頭に……とにかく、紅茶党でおいしいもの好きのわたしには堪えられないシリーズ。

 それにしてもドレイトンがゴーストハンターと意気投合するとはびっくり。チャールストンには幽霊伝説がたくさんあるんですね。

■2月×日

 アラン・ブラッドリーの化学大好き少女フレーヴィアシリーズは、コージーと言っていいのか微妙だけど、大好きなシリーズだし、シリーズ第六弾の『不思議なキジのサンドウィッチ』はひとつの区切りとなる作品なので、ぜひ紹介しておきたいと思う。

 幼いころに母を失い、失意の父親と意地悪なふたりの姉、庭師のドガーとともにバックショー荘に住むフレーヴィア・ド・ルースは化学が大好きな十一歳の少女。彼女は大おじターキンが残した実験室で化学実験をおこないながら、鑑識顔負けの知識で殺人事件の捜査に鋭くメスを入れる。でも子供なので相手にされず、ついでに危険な目にもあう。ちなみに時代は一九五〇年代初頭。

 以上が基本情報ね。

 前作のラストでショックなことがあって、バックショー荘の屋根裏にこもっていたフレーヴィアは、映写機を発見し、はいっていたフィルムを得意の化学の知識を駆使して現像することに成功。映像を見ると、フレーヴィアと関係の深いある人の口が「キジのサンドウィッチ」と動いていた。その後フレーヴィアは、あのウィンストン・チャーチルから「きみもキジのサンドウィッチが好きになったんだね、お嬢さん?」と話しかけられる。

 フレーヴィアでなくとも思いますよね、「キジのサンドウィッチ」って何?

 ネタバレしないように説明するのがすごくむずかしいんだけど、タイトルにもなっているこのフレーズ、すごくよく考えられているんですよ。そして、ド=ルース家の秘密がついに明らかに。

 ド・ルース家ってまえからいろいろすごいと思ったけど、やっぱりそんな秘密があったのか。フェリシティおばさんが言ってた「自分の義務は自分ではっきりわかるものだよ、道路のまんなかに引かれている白い線みたいにね」とか妙に意味深だったしなあ……ターおじさんについても、「五酸化二窒素の一次反応についての彼の研究が、いまから六年前の、ヒロシマとナガサキの破壊につながったと示唆されている」とかさらっとすごいこと書いてあって、思わず二度見。

 前作『春にはすべての謎が解ける』でも思ったけど、フレーヴィアちゃん、大人になったなあ。あのフレーヴィアが、いつも反発していた姉たちに対して深い理解を示し、温かい目で見るなんて。父の深い悲しみに黙って寄り添えるなんて。言われなくてもいろんなことがわかってきて、自分が大人になったんだと実感して怖くなるシーンが、逆に子供らしくてかわいいけど、後戻りできないこともわかっている。なんかぐっときます。

 というわけで、ここでいったんフレーヴィアをめぐる状況ががらっと変わりますが、次作からはまたちがう場所と境遇で生きるフレーヴィアに会えますのでご安心を。『赤毛のアン』風に言うと、曲がり角のさきに行くことになるんですね。そこには「一級の化学実験室」があるそうなので、さらなる活躍が期待できそう。

上條ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、マキナニー〈朝食のおいしいB&B〉シリーズなど。ロマンス翻訳ではなぜかハイランダー担。八月にリンゼイ・サンズの新ハイランダー・シリーズ第二弾『愛のささやきで眠らせて』が出ました。趣味は読書と宝塚観劇。

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●〈コクと深みの名推理〉シリーズ


●〈お茶と探偵〉シリーズ


●フレーヴィア・シリーズ