全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 今回は、冒険小説の大傑作との呼び声も高い、ギャビン・ライアル『深夜プラス1[新訳版]』(訳・鈴木恵/ハヤカワ文庫NV)をご紹介します。筆者は高校生の時に旧訳版を図書館で借りて読み、これは手元におきたい! と速攻で思いました。が、ある特殊なトラウマにより注文できず、購入できなかったという暗い過去が……。その頃エド・マクベインの“87分署シリーズ”に超はまっており、少しずつ買いそろえておりました。ある日、『10プラス1』を書店で注文したところ、なぜか書店員の人から何度も繰り返しタイトルを聞きかえされ、そして渡された注文票の控えには——

 エド・マクベイン『天ぷらスワン』と書いてあったのです!!!(正真正銘の実話)

 その衝撃は“プラスワンの悲劇”としてトラウマとなり、以来、書店注文から遠のきました……というわけで今回の新訳版がどんなにありがたかったことか!(泣)

 そんなスットコな逸話はおいといて、とっとと本文に入りますね(汗)。

 パリのカフェで雨宿りをしていたイギリス人に電話が入る。彼の名前はルイス・ケイン。かつてはキャントンという名で知られていた、元特殊作戦執行部員だ。呼び出した相手は弁護士のメルラン。ある男を約束の期限までに車でリヒテンシュタインに送り届けてくれという。凄腕のドライバーであるケインには簡単な仕事にみえたが、一万二千フランという高額の報酬にはそれ相応の危険が伴うだろうと推測できた。だが実際は彼の予想をはるかに上回った命がけの仕事だったのだ。

 仕事を受けるかどうかで、ケインは報酬ともうひとつのことを確認します。依頼主マガンハルトは、今話題のパナマ文書に絶対載っていそうな大富豪の実業家。その彼が人目を避けて国境を越えるには訳がありました。なんとレイプの容疑がかけられ、警察に追われていたのです。それを聞いたケインは、その容疑が濡れ衣であることと、他人の金を巻き上げるためにリヒテンシュタインへ行くのではないということを、メルランにはっきりと問いただします。うわーかっこいい!!! 仕事を選り好みしないプロフェッショナルもステキですが、卑劣な犯罪者を助けることはお断りという、ケインの美学とでもいうべき姿勢にウットリです。

 引き受けたケインは、護衛役として雇われたアメリカ人のガンマン、ハーヴィー・ラヴェルに会いに行きます。このくだりでケインとラヴェルの外見が描写されますが、ケインの方は、ブルーグレーのレインコートに、茶色のジャケット、青いシャツにダークグレーのズボンと、非常にシックな装い。これは”実際はイギリス人だけどフランス人らしく見えて、でも完全にフランス人っぽいというわけでもないので、いかにもフランス人がイギリス風だと考えて身につけるようなボタンをつけてみた”という、大変まわりくどいコーディネートを考えていたのを想像するとちょっと微笑ましいのですが、「軽い」「絹のように見える」という形容に、作者ライアルのおしゃれに関するこだわりが感じられます。

 一方、長身痩躯のケインに対し、がっしりしたラヴェルは5センチほど背が低く、短いごわごわの金髪で、赤いチェック柄のグレーのジャケットにズボンとニットタイという、いかにも、”とりあえずそこにあったものを着てみました”的な格好で登場。職業上目立たない方が望ましいとはいえ、もうちょっと気を使えよ! みたいなニュアンスが感じられたのは私だけでしょうか。というのも、その後ケインは出会った敵を「五十手前の太った男で、去年のレインコートと昨日の無精髭をまとっている。」などと完膚なきまでに酷評。銃だけでなく、おしゃれにも信念を持ってほしいという作者の意気込みを(勝手に)汲み取りました。

 落ち合う場所に着いた二人は、高飛車でいけすかない雇い主の他に、その秘書であるヘレン・ジャーマンという女性も連れていくと知らされて驚きますが、そこはプロ中のプロ。頼まれた仕事を遂行すべく、危険なドライブが始まります。そうそう、このミス・ジャーマンといい、後半出てくるある女性といい、足手まといだったり、危機に瀕してわめいたりするようなありがちな女性像ではなく、クールでセリフも行動もかっこいいんですよ!

 四人が乗った車は、敵に追われ、行く手をふさがれます。カーナビも携帯もない時代、次々に襲いかかるトラブルを、技と経験と機転で乗り越えなければなりません。銃撃戦やカーチェイスが臨場感たっぷりに描かれ、字面だけで迫力満点なのですが、それもそのはず、訳者あとがきに書いてあるように、ライアル先生は技術的なことに関してはひたすら徹底して正確に執筆していたとのこと。自ら銃火器を使ってCSI顔負けの実験をしていたそうです。

 で? 腐成分はどうなのよ! と思った方々、お待たせいたしました! 

 実はラヴェルはある深刻な問題を抱えており、それは一歩間違えば彼自身だけでなく、ケインら全員の命を危険にさらすことになります。それについてある人から意見を求められたケインの答えはというと、

「おれはあいつの古い人生の一部だ。二日前まで会ったこともなかったが、それでもやっぱり一部なんだ。あいつはおれを銃と結びつけてる。銃を遠ざけろというのなら、おれも離れなきゃならない」

 このセリフでお察しいただけるかと!!!

 ラヴェルの問題は、とある有名な西部劇でも同じパターンで使われているように、かなりの萌えポイントなのですが、未読の方の興を削がないよう、ここでは内緒にしておきます。そしてラスト、その問題に彼らはどう対処したのか。冒険小説というジャンルが未経験の方でも、たとえばジョン・ウー映画のファンだったら、あの場面は絶対にグッとくること間違いなしです。

 随所で明らかになるケインの仕事に対する姿勢は、この作品を不滅たらしめたともいうべき矜持に満ち溢れています。たまらないセリフが満載の作品ですが、訳者の鈴木恵さんが得意とする、ユーモア溢れるリズミカルな訳文も大きな読みどころですので、どうぞお楽しみに! それにしてもあの老人描写……ライアル先生、何か底知れぬ恨みでもあるのでしょうか(笑)。

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 さて、高額の報酬でヤバい荷物を送り届けるといえば、以前この連載でもご紹介した『トランスポーター』シリーズが有名ですが、カーアクション+αで99分ぶっちぎりの最新映画『アウトバーン』もオススメ! 

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 始まりはドイツ、ケルンのクラブ。アメリカから来たケイシー(ニコラス・ホルト)は、ヤバい仕事で日々をのらりくらりと過ごしていましたが、同じくアメリカ人のジュリエット(フェリシティ・ジョーンズ)と出会い、激しい恋に落ちます。それからは地道に生きていく決心をした彼でしたが、ある日、ジュリエットが重い病気にかかっていたことを知り、手術費を稼ぐため、手を引いたはずの危険な裏稼業に手を出してしまいます。

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 観始めてすぐピンときたのですが、これ、本筋は『トゥルー・ロマンス』のオマージュなのですね。そんな主人公二人の純愛が、速度無制限のアウトバーンを舞台にしたド迫力のカーチェイスや激しい銃撃戦をくぐり抜け、ラストまで失速することなく一気に駆け抜けていくという、スピード感あふれるロマンチックアクション映画です。

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 それだけでも十分面白いのですが、忘れちゃいけないのは、悪の親玉の二大巨頭。ギンギラのヒモファッションで全身を固めたマフィアのイカれたボスをベン・キングズレー、ヨーロッパ有数の巨大企業のトップであり、なおかつ麻薬組織を牛耳る冷血な黒幕をアンソニー・ホプキンスが演じています。この二人が直接対決するシーンがすごいんですよ! マハトマ・ガンジー VS ハンニバル・レクターというありえない頂上決戦!! しかもキングズレー、どう考えてもホプキンスに“可愛さ余って憎さ百倍”としか思えない逆ギレっぷり。対するホプキンスも、いいかげん落ち着いたらどうなんですか! と言いたくなるほど大人気ない攻撃を仕掛けてきます。こんな猛毒ジジイ2人に睨まれた恋人たちの運命は? 最後に笑うのはいったい誰? 気になる答えは劇場で!

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6月10日(金)より、TOHOシネマズ 六本木ヒルズ、TOHOシネマズ 新宿ほか、全国ロードショー!

【スタッフ】

製作:ジョエル・シルバー、ベン・ピュー、ブライアンカバナフ・ジョーンズ、ロリー・エイトケン、ダニエル・ヘッツァー

脚本:F.スコット・フレイザー、エラン・クリーヴィー

監督:エラン・クリーヴィー

【キャスト】

ケイシー:ニコラス・ホルト

ジュリエット:フェリシティ・ジョーンズ

マティアス:マーワン・ケンザリ

ゲラン:ベン・キングズレー

ハーゲン:アンソニー・ホプキンス 

配給:アスミック・エース

協力:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

公式サイトhttp://autobahn.asmik-ace.co.jp/

■G指定

原題:COLLIDE/2016年/イギリス・ドイツ/上映時間:99分/カラー/スコープサイズ/5,1chデジタル/字幕翻訳:風間綾平

♪akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

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