中国にいて驚かされることの一つに一般書店でもアマゾンなどのネットショッピングサイトでも本を定価より安く買うことができることがあげられます。
例えばこの本の定価は32元(約500円)ですがアマゾンでは現在約30%OFFの約23元で売られています。一般書店ではだいたい10〜20%ぐらいの値下げ幅です。
更に日本人が驚愕するのが電子書籍の異常な安さです。
上記の本をまた例に挙げますと電子書籍の定価がすでに紙媒体の60%OFFに12元に設定されていますが、Kindleだと更に値引きされてなんと紙媒体の約80%OFFの6元という値段で売られています。
海外の作家の本も同様で、『容疑者Xの献身』がKindleだと定価の約80%OFFになっています。
日本の値引き率が一体何なんだろうと思ってしまうほどでの安さで一体どんな利益配分になっているのかわかりませんが作家の生活が心配になる値段です。とは言え無料でダウンロードされる海賊版と比べたら売り上げになるだけいいのかもしれません。
このように電子書籍が安価で場合によっては無料で読めるという環境にあるせいか、私が生活している北京の地下鉄などでは紙媒体よりも携帯電話などで電子書籍を読む人の割合が多く感じられます。もしくは彼らが読んでいるのは電子書籍ではないネット小説かもしれません。ネット小説もまた驚かされるほど多く、ジャンルとしては中国系ファンタジー小説や恋愛小説が主なのですがミステリ小説のジャンルもきちんと確立されてなかなか侮れません。
そこで今回は中国ミステリのネット小説を無料で読むことができるサイトを紹介します。
この天涯社区はBBSやブログが主なのですが『天涯文学』というカテゴリにはネットユーザーによる歴史、ファンタジー、青春、ホラー小説などが投稿されていて、その中に『懸疑推理』(直訳するとサスペンスミステリ)のジャンルがあります。
中には実際に出版までに至った作品があり、例えば以前本コラムの第8回で取り上げた紫金陳の『高智商犯罪』シリーズももともとは『謀殺官員』シリーズという名前でここに連載しており、その結果天涯文学が選ぶ2012年度の十大作者及び十大作品に選ばれました。また、実際にあった事件をもとにしたサスペンス小説『十宗罪』も蜘蛛という作家がここで連載していたネット小説でありますが、今ではウェブドラマ化まで決定している有名作品となりました。
ここでは閲覧数やお気に入り数を見ることができてどの作品に人気があるのか一目瞭然です。またキーワード検索もできるので意外な名作を発見できるかもしれません。とは言え一通り見た限りだとサスペンス色が強い作品が大半を占めているようで、トリックのある密室殺人が発生する…ようなミステリは少なそうです。(キーワード検索で詭計(中国語でトリック)や密室を入力してみましたがあまりヒットしませんでした)
もう一つはライトノベルサイト『軽文軽小説』(直訳するとジュニアノベル・ライトノベル)です。
少年少女向けのネット小説サイトでオリジナル作品もあれば同人作品もあります。タグの数を見ればジャンルがどのくらい細分化されているのかわかるでしょう。そして、『日常』とか『百合』とか『戦争』などのタグに紛れて『推理』タグがあります。
さすがライトノベル投稿サイトだけあって面白いタイトルの作品が多く、学園青春ミステリの『我的青春Flag無縁無故被抜了』(オレの青春のフラグがなんの理由もなく折られた)や、学園ハーレムミステリの『普通男生与魔法戦姫的学園戦争』(普通の男子と魔法の姫の学園戦争)など読者の興味を引きそうな作品があります。
そしてこのサイトでは作者のやる気を出させるために少額ではありますが様々な賞を設立しています。過去の受賞作品を見てみるとそのほとんどがファンタジーだったり学園モノだったりしますが『推理』タグのついている作品もきっちり授賞されています。更に現在は『耀星賞』という大賞が設立されて優秀作品には書籍化を含む特典の授与が予定されています。
その他にミステリに関係したライトノベルのニュースに中国の青少年向け雑誌『意林・軽小説』が作品を募集していることがあげられます。
http://www.weibo.com/ttarticle/p/show?id=2309403978658854383525
要項に青春学園モノとサスペンスミステリを合体させた『青春懸疑』(青春サスペンス)を主に募集していると書いてあり期待させられるのですが、注意事項に低俗なものや暴力的描写がある作品は対象外と書いているのが気になります。中国で少年少女を対象にしている以上作品に制約がかけられるのも仕方ありませんが、ライトノベルというジャンルでこの規制を設けるのが果たしてこの分野の将来のためになるのかは疑問です。
この制約だらけの中国でどんな作品が生まれるのか楽しみではあるのですがそのジャンルの魅力自体を殺しかねない制約がついてしまっては元も子もありません。とは言え雑誌とは違いネットだと人気の有無がすぐにわかりますし、誰でも参加できますし、実験的な作品が生まれる土壌でもありますから今後も注目していきたいです。
阿井 幸作(あい こうさく) |
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中国ミステリ愛好家。北京在住。現地のミステリーを購読・研究し、日本へ紹介していく。 ・ブログ http://yominuku.blog.shinobi.jp/ ・Twitterアカウント http://twitter.com/ajing25 ・マイクロブログアカウント http://weibo.com/u/1937491737 |
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