全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
今回はあの大人気シリーズの最新作であり、ギャング! 銃撃戦!! おまけに美老人!!! という夢のような要素がぎっしり詰まった、スティーヴン・ハンター『Gマン 宿命の銃弾(上下)』(公手成幸訳/扶桑社ミステリー)をご紹介します。しかも本書、なんと本国アメリカですらまだ刊行されていない、文字通りの世界最速発売なのですよ! 翻訳ミステリー界においては超画期的な出来事と断言できますが、驚くのはまだ早い! ご存じの方も多いようにハンターは著名な映画評論家であり、二度の候補を経て、2003年に評論部門でピューリッツァー賞を受賞しました。なにがすごいって、そんな著者が本書を書いた理由というのが、マイケル・マンが監督し、ジョニー・デップが主演した2009年のアメリカ映画『パブリック・エネミーズ』に激烈にムカついたから!!!
そげな理由が執筆の原動力になったのか! と驚いたのですが、もっと驚くことに、“俺の愛するデリンジャー役にデップとかマジありえねえ! マン許さん!!”と本書の謝辞で延々とdisってるんですよ!(注:“ ”内はハンター先生の心情をおもんぱかった筆者の意訳です)
いや〜、謝辞スペースがこんな風に使われたのは初めて見ました。そして日本版下巻の表紙では、ジョン・ミリアス監督版『デリンジャー』で主役を演じたウォーレン・オーツの写真が使われていて、扶桑社さん、いい仕事してますね!
そんなわけであらゆる点において必読の本書、1934年に実在したセレブギャング達が続々と登場するのですが、彼らのつながりが全くもって濃厚なブロマンス風味なのです!!
興奮のあまり前置きが長くなってしまいましたが、あらためて本書のあらすじをば。
伝説のスナイパーであり、長年受けた銃創やらなにやらでガタがきた身体を抱えるボブ・リー・スワガーもいまや71歳。アーカンソー州にある自宅の地所から、80年ほど前に埋められたと思われる拳銃や地図や現金、そしてFBIが発足する前に1年間だけ存在した司法捜査局のバッジなどが見つかりました。それらが祖父チャールズのものだと知ったボブ・リーは、尊敬する父アールがかたくなに口を閉ざして語らなかった祖父の過去を探ることを決意します。
禁酒法時代の終焉を迎えたアメリカは、終わりなき不況に苦しむ中、各地で銀行強盗が勃発していました。前述したようにこの作品には、実在した人物——ジョン・H・デリンジャー、ベビーフェイス・ネルソンことレスター・ギリス、チャーリー・“プリティボーイ”・フロイドなどの犯罪者たちと、メルヴィン・パーヴィスやサム・カウリーなど捜査側の面々——が次々に登場し、実際に起きた事件がドキュメンタリータッチで描かれるのですが、創作上の人物であるチャールズがその中の一員として活躍します。粋な帽子にスーツを着込み、トミーガンで武装して派手に銀行を襲う強奪犯たちが、庶民や子供たちの間で野球選手と同じぐらい有名になった当時。中でも義賊と言われたジョン・デリンジャーは別格の人気を誇っていたため、法の番人たちにとって彼の逮捕は悲願でした。そこでのちにFBIとなる司法捜査局は、ポーク郡の保安官だったチャールズに白羽の矢を立て、Gマン=政府の捜査官に任命します。発見されたチャールズの遺品の謎と、80年前のさまざまな出来事とがだんだんと重なり合い、ラストでは読者の誰一人予想しなかったであろう真実が明かされます。
ドンパチ系はあまり……という方もいらっしゃるでしょう。たしかにハンター作品は、ガンマニアというかガンフェチというか、とにかくライフルと拳銃に対する愛がダダ漏れで、ボブ・リーの口を借りてひたすら語りまくるのですが、そこらへんが全然理解できないと思ったら、読み飛ばしてノープロブレム! 勝手に語らせておけば本人は満足するので気にしないでいいと思います! なので、銃関連に興味がない方は、真面目な文脈に突然出てくる面白い描写(例:「魚雷ほどでかい葉巻」<どんだけデカイんだよ! とか、「祖父の拳銃だったら、なにかを語りかけてくるかもしれない」「この拳銃を通してコミュニケーションがとれるかもしれない」<なにこのファンタジー)の数々にツッコミを入れるのもよいのではないでしょうか。
そして! 本書一押しの腐要素に言及しますと、通称ベビーフェイス・ネルソン、レスター・ギリスのデリンジャー兄貴への愛がストレート過ぎるんですけど!!
「ジョニー! 最高だ! いつだってそうなんだ!」
とか他多数。最愛の妻子はいても兄貴は別格のようで、とにかく俺の理想! 男の中の男! って感じに過剰な愛情表現を隠さないギリスには、思わずほおが緩みっぱなしになること間違いなしです! そして同じく一味でギリスと長いつきあいのチェイスは——
数年前、レノでレスに出会い、よくわからないままに使い走りをやるようになった時から、どうしたわけか彼に愛を向けてきたという男だ。
——などと書かれていたりします。うーんリリカル。他にもサービス満点の萌えどころが随所に発見されますので、ぜひお手元に付箋など用意して、めいっぱい楽しみながらお読み下さいね!
最後に、あえて超ピンポイントな方面に向けてオススメしますが——
映画『マグニフィセント・セブン』(2016)を愛する方々には必ず読んでいただきたい!!! 絶対に損はさせません!
さて、今やFBIといえば、地元警察とあつれきを起こしたり、超常現象を解明したりといろいろ大変ですが、5月13日公開のアメリカ映画『バッド・バディ! 私とカレの暗殺デート』(2016)では、あらゆる手段で一人の殺し屋を追いつめるエージェントが出てきます。
といっても主人公は、追われる殺し屋のほう。ラブラブだったはずの彼がクズな二股男だとわかり、激しく落ち込むマーサ(アナ・ケンドリック)。泥酔してもカラ元気を出しても気が晴れない彼女の前に、謎の男(サム・ロックウェル)が現れます。不思議な出会いをした彼らは、お互い驚くほど気があい、あっという間に恋に落ちました。理想の新カレ登場に運命を感じたのも束の間、なんと男が凄腕の殺し屋だとわかりマーサは悩みますが、自分に備わっていた恐るべき才能を男が引き出したことで、二人の運命は劇的に変化するのです。
脚本のマックス・ランディスは、前作『エージェント・ウルトラ』でも、アクションとコメディの中にロマンス要素を絶妙に配分。地続きである本作も、アクションシーンの斬新さは言うまでもなく、マーサと殺し屋の関係が大変微笑ましく描かれています。男は、殺し屋を雇うような人間は殺した方がいい、という特殊な倫理観の持ち主。どうやら彼と過去に何かあったと思われるFBI捜査官(ティム・ロス)らと、敵対する殺し屋軍団に狙われた彼は、マーサを護りきることができるのか? 『ザ・コンサルタント』に続いてアナ・ケンドリックのキュートな魅力満載の本作、ぜひ劇場でご覧ください!
●映画『バッド・バディ!私とカレの暗殺デート』予告篇
タイトル:『バッド・バディ!私とカレの暗殺デート』
公開情報:5月13日(土)より 新宿シネマカリテほか全国ロードショー
クレジット:© 2016 Right Productions, LLC
配給:パルコ、ハピネット
出演:アナ・ケンドリック、サム・ロックウェル、ティム・ロス、RZAほか
監督:パコ・カベサス
製作・脚本:マックス・ランディス
原題:Mr.Right/アメリカ映画/カラー/95分/シネスコ/字幕 安本煕生
♪akira |
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BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。 |