行方不明者の情報を求めるポスターやチラシを見かけると、見覚えのない人であっても行方がわからなくなった日付や場所、年齢などをつい見てしまう。その人が生きてきた人生の分だけその人と関わった人々がいるわけで、当人は無事なのだろうか、帰りを待っている人たちはどんな気持ちで日々を過ごしているのだろうかと思う。ときおりずいぶん年月が経っているケースを見ると、そんなにも長いあいだ誰かがこの人を探しているのだという事実に触れ、待っている人々のためにもこの人が無事であるようにと祈らずにいられない。

 25年前のあの日、みんなで父の誕生日を祝っていた。集まった人々にとって幸せな思い出の一ページになるはずだった。だが、レイラは何の予兆もなく忽然と姿を消した。

 以来、毎年その日になるとステラはレイラが写っている行方不明者のポスターを貼る。以前の古いポスターを新しいポスターに貼り替えることもある。あれからずっとステラは体が半分もぎ取られたように感じながら生きてきた。なぜなら、ポスターのなかにいるレイラはステラだ。ふたりは双子の姉妹だった。

 体が半分もぎ取られたような感覚で過ごした長い年月は、人にどんな影響を与えるのだろう。ステラがレイラのことを思い出さない日はない。気がつけば25年の歳月が流れ、ステラはドッグ・トレーナーの仕事に忙殺されながら、いつもどこかでレイラのことを考えている。ポスターを貼り替えるたびに、なぜレイラがと思う。なぜいなくならなければならなかったのか。外見は瓜二つの自分ではなく、なぜレイラが姿を消したのか、と。

 長い長い時間が流れ、ステラはレイラを探しながらもどこかで諦めていたのかもしれない。だが、ある日レイラ失踪についてNetflixで放送するドキュメンタリーを制作したいという話が舞い込む。25年も経ったいま? 迷いがないわけではないが、これは最後のチャンスかもしれない。あの日、なぜかステラの赤いコートを着て家から出たレイラ。行き交う車のなかに飛びこむように道路を横切るのを見たという人もあれば、彼女は泣いていたと証言する人もいた。それ以上に確かな情報が得られないまま過ぎていった25年。ドキュメンタリーの制作はレイラが失踪したあの嵐の夜、その場にいた人々の記憶を掘り起こすことから始まった。

 25年前にそこにいた人々が集められた。このなかの誰かが何かを知っている。ステラはそう確信した。つまり、誰かがいままで嘘をついてきたのだと。集まった人々は記憶を呼び起こすために必要だから、ステラについて隠していることがあるなら聞かせてほしいと言った。真実を知っているかもしれないこのなかの誰かとのかけひきが始まった。

 ストーリーは1994年と25年後の現在のふたつの流れが交差しながら進む。そこにステラの視点での語りが加わり、人々へのインタビューが挿入され、読者はまるでドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥るだろう。読みかけで本を置くのが難しい作品だ。

 本作は日本未紹介の著者による最新作で、ほかに The Darkest Lies(2017)、Her Last Secret(2017)、The Perfect Friend(2018)、Flowers for the Dead(2020)などコンスタントに作品を発表し、いずれもネット書店では大勢の読者から高評価を得ている。どうやらどうやらじわじわと心理的に追い詰めるスリラーがお得意らしい。ぜひぜひ邦訳を出していただきたい作家である。

片山奈緒美(かたやま なおみ)

翻訳者。大学非常勤講師。大学で日本語、コミュニケーション、異文化理解関連の科目を教えながら、大学院で多文化社会のコミュニケーション研究に取り組む。埼玉県JR蕨駅周辺のクルド人コミュニティが研究フィールド。最近の関心は大学の授業で海外文学を読むことで異文化理解や社会の多様性の受けとめにどんな影響があるかということ。そのため、現代社会の多様な姿を描いたできるだけ新しい作家の作品をつねに探している。
最新の著訳書はリア・ワイス著『スタンフォードが教える本当の「働き方改革」』、日本語口語表現教育研究会著『社会を生き抜く伝える力 A to Z』(第3章担当)など。

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