田口俊樹

 いつも老人ネタでなんですが、ワクチン。近頃は人に会うこともなく、私の場合、他人との交流は、翻訳学校のオンラインの授業、競馬仲間と昔の教師仲間とのメールのやりとりにかぎられるんですが、メールのほうはみんな爺さんなんで、どうしてもこの話題になります。打つか打たないか。今のところ、すでに打った、これから打つが六割、打たないが四割ですね。私は先を争うことなく、順番が来たら打とうと思ってます。そう言えば、『患者よ、がんと闘うな』の近藤誠さんの『新型コロナとワクチンのひみつ』。これ、面白かったなあ。スペイン風邪が世界的に大流行した一番の要因が当時の夢のような新薬、ペニシリンにあったなんて、みなさん、知ってました? いずれにしろ、近藤さんはアンチワクチンで、自然免疫推奨で、コロナに早くかかりたいなんてまで言っておられますが、競馬仲間の中には自分は打ちたくないんだけど、仕事をする上では打たざるをえない、なんてやつもいて、案外、この問題は複雑かもしれません。ただ、このあと接種が進むと、ワクチン警察みたいな人たちが現われ、打たない人を攻撃しはじめる、なんてことにだけはならないといいな、なんてね、ちょっと思ったりもする今日この頃です。

〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕

 


白石朗

 テレビ朝日のドラマ『泣くな研修医』 を録画でぼうっと見ていたら、ある患者が主人公格の研修医くんに(よんどころない事情で)大事な私物をおさめた箱を託すシーンでした。その少しあとで研修医くんが箱をあけると、いちばん上にあったのが、金森達氏のカバー装画も懐かしいハヤカワ文庫SF版のクリフォード・D・シマック『都市』(林克己・他訳)だったのですが、あれ、なにかの伏線だったのかな? ということで続きも見ることにします。  当サイトの人気連載「書評七福神の今月の一冊」『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト 2011-2020』として書肆侃侃房より刊行されました。一騎当千のつわものたちが薦める合計520冊の圧倒的ラインナップ。本文のおもしろさはもちろん、特筆すべきは、巻末に書名・著者名索引とならんで訳者名索引があること。翻訳者としても翻訳書を愛読する者としてもありがたい、粋なはからいですね。

〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング&オーウェン・キング『眠れる美女たち』。〈ホッジズ三部作〉最終巻『任務の終わり』の文春文庫版につづいて不可能犯罪ものの長篇『アウトサイダー』も刊行。ツイッターアカウントは @R_SRIS〕

 


東野さやか

 わたしが住む沖縄県では現在、新型コロナウイルス感染症対策として緊急事態宣言が発令中。そのため、県立と市立の図書館が休館しています。館内閲覧はもちろん、予約本を受け取ることもできません。困るのは、事典や図鑑など、禁帯出の本の閲覧ができないこと。図書館の本を参照することはそう頻繁にあるわけではないものの、こういうときにかぎって調べる必要が出てくるんですよね。
 それより切実に困っているのが、図書館からちょっと足をのばしたところにあるケーキ屋さんに行く口実がなくなったこと。ケーキを買うために図書館に通っていたと言っても過言ではないわたしにとって、これは大きな痛手です。おかげで、緊急事態宣言が出てからの一週間ちょっとで一キロやせました。 

〔ひがしのさやか:最新訳書はジョン・ハート『帰らざる故郷』(ハヤカワ・ミステリ)。その他、チャイルズ『ラベンダー・ティーには不利な証拠』、クレイヴン『ストーンサークルの殺人』、アダムス『パーキングエリア』、フェスパーマン『隠れ家の女』など。ツイッターアカウント@andrea2121〕

 


加賀山卓朗

 個人的に、翻訳書で訳したかたがエンジョイしているところ(「ここ訳すの愉しい!」「笑える!」「この本に出会えてよかった」などなど)はほぼ100パーセント感知できると思っています。たとえば、デイヴィッド・ゴードンの『二流小説家』やアンディ・ウィアーの『アルテミス』は、そういう気持ちがビンビン伝わってきた。
 最近それを感じたのが、サーシャ・フィリペンコの『理不尽ゲーム』。主人公の祖母や友だちの台詞がノリノリです。とはいえ、物語の背景は非常に暗くて重い。主人公も事故で10年間昏睡状態になるという設定だし、舞台はルカシェンコ大統領の独裁政治が30年近く続いているベラルーシですからね。メディアは政権擁護一色で、民衆デモはたちまち弾圧され、不正選挙がまかり通る。人々はあきらめムードのなかで、それでも前向きに生きようとしていますが……。本邦含めて身近な国がこうならないことを祈るばかりです。

〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳。最近の訳書はスウェーデン発の異色作で意欲作、ピエテル・モリーン&ピエテル・ニィストレーム『死ぬまでにしたい3つのこと』〕

 


上條ひろみ

「かわいい」より大切なのは「つよい心」。5歳から18歳までの女の子たちの飾らない生き生きとした姿をとらえた写真集、ケイト・T・パーカー『わたしは無敵の女の子』(栗木さつき訳/海と月社)は、どの写真もメッセージも思わず顔がほころぶほど素敵です。まっすぐな少女たちの表情、彼女たちのことばのパワーに、かつて少女だったおばさんも励まされました。

 すべては見かけどおりではない、ということを痛感したジェフリー・ディーヴァー『オクトーバー・リスト』(土屋晃訳/文春文庫)は、結末からはじまって冒頭で終わるという、驚異の逆順サスペンス。予想がことごとく裏切られるのがはがゆくも気持ちよかったです。お家芸のどんでん返しは、まるでうしろに倒れていくドミノ倒しのよう。時間が遡りがちなクドカンのドラマが好きな人にもおすすめ。

 インドで日々精一杯生きる少年の素直な感性と、つらい現実からも目をそむけない姿勢が胸を打つディーパ・アーナパーラ『ブート・バザールの少年探偵』(坂本あおい訳/ハヤカワ文庫HM)と、オーストラリアの田舎町で、過酷な環境にあっても夢を諦めない少年の成長を描いたトレント・ダルトン『少年は世界をのみこむ』(池田真紀子訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)はともにディテールが光る作品。どちらも少年の視点で描かれていて、みずみずしい感性と現実の悲惨さのギャップが衝撃的でした。

 真打はダニエル・フリードマン『もう耳は貸さない』(野口百合子訳/創元推理文庫)で決まり。老いても絶対にブレないバック・シャッツ(89)。「夜中に三回は起きて、生きているのを確認している」など、シニアジョークにも磨きがかかったバック・シャッツ。どうか一分一秒でも長生きしてほしい。

〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』など。最新訳書はハンナシリーズ第21巻『ラズベリー・デニッシュはざわめく』〕

 


高山真由美

 車がないと生活に支障をきたす、アメリカのような場所に住んでいます(大げさ)。先月、車を買い替えました。まえの車は中古で買って15年以上乗ったでしょうか、その間いろいろありまして、フロントガラスの左隅に銃弾を受けたようなヒビが入っていたり(高速道路で飛び石が当たっただけですけど)、当て逃げされてボコッとへこんだドアを何年もそのままにしていたりと、かなりくたびれた感じになっていました。いまの車にはまだ体が慣れなくて、手がギアの位置をまちがえたり、降りる
ときにキーを抜こうとしたりしちゃうんですが、買い替えてからすこしだけ運転が丁寧になったかも。
 車といえば。「悪夢のドライブ旅行」と帯に謳われたジョー・ヒル短篇集『怪奇疾走』が6月17日に刊行予定です。2年まえの中篇集『怪奇日和』も自立する厚さでしたが、今回はそれを超える分厚さです。でも収録短篇がバラエティ豊かなので、最後まで飽かずお楽しみいただけるかと思います。このなかの3篇の翻訳を担当しました。見かけたらぱらぱらしてみてくださいませ。

〔たかやままゆみ:最近の訳書はサマーズ『ローンガール・ハードボイルド』、ブラウン『シカゴ・ブルース(新訳版)』、ベンツ『おれの眼を撃った男は死んだ』など。おうち筋トレはじめました。ツイッターアカウントは@mayu_tak〕

 


武藤陽生

  フリーランス翻訳者は比較的ステイホーム耐性が高いと思いますが、そろそろなんの気兼ねもなく晴れやかな気分で出かけたいものです……何がつらいって、飲み会がないのがつらいですね。誰とも話す機会がないんです。
 確定申告の際、去年の分の接待交際費として1万円くらいしか計上できず、大変びっくりしました。おかげで最近は家でひとり晩酌をすることが多くなりました。お酒はひとりで飲んでもおいしいですね……

〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位2%(まあ、大したことないんですが…)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕

 


鈴木 恵

  題名に惹かれてキム・チョヨプ(金 草葉)『わたしたちが光の速さで進めないのなら』を読んでいるところ。読者に小さな謎が投げかけられて、それが少しずつ解けてくるような作品が多いんだけど、なんというか、どれも優しくて、ちょっぴりもの悲しい。人類だけでなく、異星人や異文明にも、愛情のこもった眼差しが向けられている感じ。異星人との戦いを描く『三体』シリーズもすごいけれど、こういうSFもなくちゃね。

〔すずきめぐみ:働きものの翻訳者。映画好き。最近いちばん笑った映画は《パーム・スプリングス》。最近のおもな訳書は『第八の探偵』『拳銃使いの娘』『その雪と血を』など。ツイッターアカウントは @FukigenM〕