
田口俊樹
〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕


白石朗
この映画を見ていて連想したのがアメリカのジャーナリストのジョン・ハワード・グリフィン。テキサス生まれの白人ジャーナリストであるグリフィンは、1959年、黒人になりすまして深南部を旅行することで人種差別の実状を身をもって取材し、その体験を『私のように黒い夜』というルポルタージュとして刊行したのですね。
……といっても、ぼくがこの人の名前を意識したのはつい最近。翻訳を担当した本に言及があって、あわてて調べた泥縄の知識です。前記ルポルタージュの邦訳が大先輩・平井イサク氏の訳業であることも知りませんでした。
その本はスティーヴン・キングの長篇『ビリー・サマーズ』。四月上旬に文藝春秋から刊行予定です。狙撃の名手にして凄腕の殺し屋ビリーが引退前に請け負った最後のひと仕事。はたしてその成否は? という開幕からストーリーはだれも予想もしなかった方向へと突き進んでいきます。驚くぞ、きっと。キング作品の忠実なる愛読者諸氏はもちろのこと、ノワールやクライムノヴェルの愛好家諸兄姉にもおすすめの一冊。
同書発売にあわせて、本篇試し読みや文藝春秋の名物編集者・永嶋俊一郎氏による本書解説、さらに永嶋氏と不肖白石の対談などが収録された無料電子冊子も刊行の予定。本篇ともども広く江湖のごひいきを願いあげます。
〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング『異能機関』。同じくキングが凄腕暗殺者の最後の仕事をテーマにした超異色作 Billy Summersは邦訳刊行待機中。ツイッターアカウントは @R_SRIS〕

東野さやか
ところで、サロンでセットしてもらったときは、かっこいいじゃん、と思ったのですが、自宅でセットするとモンチッチにしかならないのはどうしてでしょう? いつもながら、美容師さんは偉大だと思いました。
〔ひがしのさやか:最新訳書はシェルビー・ヴァン・ペルト『親愛なる八本脚の友だち 』。その他、クレイヴン『グレイラットの殺人』、スロウカム『バイオリン狂騒曲』、チャイルズ『クリスマス・ティーと最後の貴婦人』。ツイッターアカウント@andrea2121〕

加賀山卓朗
翌24日には、なんとたまたま雑誌の企画でコスビー氏ご本人にインタビューをすることになり、オンラインで2時間近くお話をうかがいました。どんな質問にも丁寧かつ的確に答えるかたでしたよ。武術が大好きらしく、ブルース・リーのサイン入りの黄色いスニーカーを見せてくれました。
でも、個人的にいちばん興味深かったのは、「悪人を書くより善人を書くほうがむずかしい。悪人はルールに縛られないが、善人はルールを守らなきゃいけないから」という趣旨の発言でした。その困難な課題に挑戦するために、最新作の All the Sinners Bleed を書いたそうです。じつを言うと、訳すうえで主人公の性格をちょっとつかみかねる箇所があったのですが、この話を聞いて自分なりに方針が定まりました。掲載は今月下旬に発売される週刊文春WOMANですので、ご興味があったらのぞいて(いや、買って)みてください。
〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳〕

上條ひろみ
〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』、エリー・グリフィス『見知らぬ人』、『窓辺の愛書家』など。最新訳書はフルーク『トリプルチョコレート・チーズケーキが噂する』〕

武藤陽生
ふとTOEICを受けようと思い、試験に向けた英語の勉強をしています。僕が最初にして最後にTOEICを受けたのが実に17年以上前。そのときは「450点も取れたら上出来かな」と思っていたのが、予想外にも700点超という(自分にしては)びっくりするくらいの高得点で、「俺ってもしかして英語の才能がある?」と勘ちがいしたのが翻訳を仕事にしようと思ったきっかけでした。今思えば700点というのは「英語ができる」とはとても言えない点数なのですが、その大いなる勘ちがいに導かれたように感じています。それはともかく、TOEICはリスニングとリーディングで合計2時間という実に長丁場の試験なんですね。模擬試験を受けてみたのですが、それだけで精魂尽き果ててしまいました。体力と集中力の衰えを実感しつつも、本番がんばります。
〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位1%(2%からさらに上達しました。まあ、大したことないんですが……)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕

鈴木 恵
創元推理文庫から復刊された北上次郎さんの『冒険小説論』。ちょっとだけよと仕事中にページをひらいたら、のっけからデフォーの『ロビンソン・クルーソー』とスティーヴンソンの『宝島』が出てきてうれしくなる。この二冊、わたしも子供の頃から大好きで、どちらも多数の邦訳が出ているにもかかわらず、とうとう自分でも訳させてもらっちゃった本なのです。
でも、北上さんは『ロビンソン・クルーソー』を「ヒーロー小説として読んだ場合」、冒険より教訓のほうに「力点がズレていることは否めない」として、クルーソーをヒーローとしては論じてくれていないのである。そこがわたしはちょっと残念。終盤のクルーソーにはどこか、映画《椿三十郎》の三船敏郎の趣さえあると思っているので。
もしかしたら北上さんとってクルーソーとは、巻末の霜月蒼さんの言葉を借りれば、北上さん自身が「友にしたいと思うような者」ではなかった、ということなのかもしれない。この『論』をもう少し早く読んでいたら、北上さんとどこかでクルーソーについておしゃべりができたかもなあ、と机の前で遠い目をしております。