田口俊樹
翻訳ミステリー大賞は今年で最後となりますが、そろそろ投票の呼びかけがあると思いますので、今年もよろしくお願いします。ついでに宣伝。ハーラン・コーベンの『偽りの銃弾』(田口俊樹/大谷瑠璃子共訳)がネットフリックスでTVシリーズ化され、1月1日から配信されています。一話を見ただけですが、テンポよく今後の展開に大いに期待を持たせるすべり出し。こっちもよろしく!
〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕
白石朗
その今年は、スティーヴン・キングが『キャリー』でデビューしてから五十周年にあたる #キング50周年 の年。1月初旬には長篇『アウトサイダー』が文庫化されました。つづく春先には、凄腕暗殺者の最後の仕事のてんまつを描く異色中の異色のクライムノヴェル『ビリー・サマーズ(仮題)』が拙訳で控えています。その後もニューヨークを舞台に死者と会話できる能力をもつ青年が主人公のサスペンス『Later』が土屋晃さんの翻訳で準備中。さらにはかつて販促用の非売品として邦訳されたきりで入手困難がつづいていた中篇『コロラド・キッド』を含めて三中篇をあつめた日本オリジナルの作品集の作業も進んでいます。
そして今年はまた、最後の翻訳ミステリー大賞の年でもあります。近日中にサイトで予備投票の告知があると思います。予備投票にはどなたでも投票できますので、なにとぞひとりでも多く。のみなさまのご協力をお願いいたします。
〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング『異能機関』。同じくキングが凄腕暗殺者の最後の仕事をテーマにした超異色作 Billy Summersは邦訳刊行待機中。ツイッターアカウントは @R_SRIS〕
東野さやか
いまさらながら、よしながふみさんの『大奥』を読んでいます。そう、男女の立場が逆転した江戸の世を描いたコミックです。きっかけはNHKでドラマ化されたこと。コミック十九巻を読むのは大変だなー、ドラマ版を見てすませちゃおうと安易な気持ちで見始めたら、ハマりました。とくに後半の医療編から幕末編がすごすぎて、これは原作を読まねばとなった次第。
とりあえず後半が始まる七巻以降を大人買いして読み始めたものの、気になるところがあって前の巻を、そこでまた気になるところがあってひとつ前の巻を……。けっきょく一巻から順番に読み直して、いまやっと九巻まで来ました。マシンガントークでまくしたてる、ハイテンションな平賀源内が登場するたび、ドラマで演じた鈴木杏さんの姿が思い浮かんでしまいます。実際にはずいぶん違う見た目なのに、原作そのまんまと思わせてしまう演技がすばらしかったです。
〔ひがしのさやか:最新訳書はM・W・クレイヴン『グレイラットの殺人』。その他、スロウカム『バイオリン狂騒曲』、チャイルズ『クリスマス・ティーと最後の貴婦人』、クレイヴン『キュレーターの殺人』など。ツイッターアカウント@andrea2121〕
加賀山卓朗
恥ずかしながら知らなかったのですが、たまたまこの日は赤穂浪士討ち入りの日でした。皆さん何かしらそれにちなんだものを演じ、締めは主任の神田伯山師匠による『南部坂雪の別れ』。最高でしたね。血判状の四十七士の名前を読み上げるだけで泣けるとは。吉良邸に向かう大石内蔵助に降る雪が眼前に見えるようでした。
じつは私の亡父の誕生日がこの14日だったのです。武士道の人だったので、討ち入りの日を意識しないはずはないのですが、私は本人の口からそんな話を聞いたことがなかった。そこで母親に電話で確認してみると、やはり「討ち入りの日やけんぜったい忘れん」と言っていたらしい。昔はテレビでかならず忠臣蔵をやっていましたからね。まあ、もともと父とはあまり世間話をしなかったのです。いま思えば、教育勅語を額装して畳の間に飾っていたりしたから、まじめに政治の話なんかしたら言い合いになったかもしれないな。末廣亭の出し物だけでなく、そんなこともいろいろ考えた年の瀬でした。
〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳〕
上條ひろみ
〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』、エリー・グリフィス『見知らぬ人』など。ハンナシリーズ第二十四弾『トリプルチョコレート・チーズケーキが噂する』は一月十一日発売です。よろしく!〕
武藤陽生
本年もよろしくお願いいたします。
〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位1%(2%からさらに上達しました。まあ、大したことないんですが……)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕
鈴木 恵
引きつづき『源氏物語』(潤一郎新訳)を読んでいるところ。大晦日にちょうど、光源氏と紫の上が物語の表舞台から退場しました。しみじみとした「幻」の巻がいいですね。これでまだ全体の10分の7ぐらい。まさに大河小説です(大河といっても、わたしが今これを読んでいるのは今年のNHK大河ドラマとは無関係。たまたまですからね。沽券にかかわるから言っときますけど)。
かなり読みすすんでから気づいたんですが、原文には複数形を表わす「ども」という接尾語がたくさん使われています。驚いたのは、「心」とか「心の準備」なんていう抽象概念まで「ども」で複数形にしていること。「御心どもをなやまし」とか、「さるべき御心まうけどもせさせ給ふ」とか、書かれているのです。
これは便利ですよね。英語にかぎらないでしょうが、翻訳なんかやっていると、複数形を表わすのに苦労することが間々あるんですが、「ども」を使えば一発で解決です。「心たち」みたいに、「たち」をモノにつけるのは気持ちが悪くてできないわたしですが、「ども」なら使えます。使いたい。使って楽になりたい。いつかわたしの訳文でそんな「ども(ども)」を見かけたら、こいつ、誘惑(ども)に負けたな、と思ってやってください。