こんにちは。♪akiraでございます。しばらくお休みをいただいておりましたが、この度趣向を変えて連載を再開することになりました。現在月刊誌「本の雑誌」で、ジャンルにこだわらない本を一冊とそれにちなんだ新作映画を一本紹介する〈本、ときどき映画〉というコラムを担当しているのですが、紹介できなくてもったいないなあと思う作品が毎月たくさんあるんです。そんなわけで、最近読んだミステリをいくつかと、それらの作品とは関係ないけれどとにかく面白いのでぜひ!という新作映画をご紹介するコーナーを今月から始めさせていただくことになりました。題して〈本、ときどき映画 Web出張版〉。どうぞよろしくお願いいたします。

*今月のびっくり本*
アメリー・アントワーヌ『ずっとあなたを見ている』(浦崎直樹訳/扶桑社ミステリー)


結婚して三年目、ガブリエルの妻クロエは三十歳の誕生日を前に海で溺死体となって発見されます。スポーツインストラクターで誰にもまして健康だった彼女が……。最愛の伴侶を失いひたすら悲しみのどん底でうつろな日々を送っていたガブリエルは、ある日若い女性エマと知り合います。趣味も服装もクロエとは対照的な彼女との出会いは少しずつガブリエルの孤独を紛らわしていきます。エマに惹かれていることをようやく認めた頃、想像を遥かに超えた出来事がガブリエルを襲うのです。
いや〜、ガブリエルもでしょうが、読んだこっちもそりゃ驚きましたよ!!! ていうか、なぜあの人はこんなことがアリだと思えるのか、そこが一番謎。さすが扶桑社ミステリー、サラ・ピンバラ『瞳の奥に』とはまた違うベクトルに突き抜けた展開で、読後しばし呆然としました(笑)。

*今月のバディ本*
アンドリュー・シェーファー『ホープ・ネバー・ダイ』(加藤輝美訳/小学館文庫)


2018年、トランプ政権時代に米国で刊行されて騒然となった、バイデン&オバマを主役にしたバディ・ミステリ。今となっては旧&現役大統領案件に。物語は引退後のバイデンが地元デラウェア州の自宅で「バラクから全然連絡が来ない……。忘れられちゃったのかなあ(哀)」とたそがれているシーンで始まります(本当です)。そこに護衛を伴ったオバマが突然颯爽と現れ、アムトラックの車掌が今朝列車に轢かれて死んだという知らせを持ってきます。彼の机にバイデン家の住所が残されており、元副大統領のストーカーを疑った警察がシークレット・サービスに連絡してきたというのです。ところが故人はバイデンの長年の友人であり、死因に不審な点があるため、元ホワイトハウスコンビが急遽探偵となって事件を調べ始めます。
在職中からその仲のよさが評判だった二人なので、フィクションとは知りつつもほんわかしてしまいます。白髪が増えたとはいえ、今も節制を怠らずひたすらカッコいいオバマに対し、動きはヨロヨロ、ジャンクフードに目がなく、地元ですら元副大統領と気付いてももらえない(そしてやや鉄オタ)バイデン。著者としてはまさか次期大統領になるとは考えずに書いたのでしょうが、これを読んでからニュースなどで大統領が映ると、つい足元に目がいってハラハラしてしまいます。

*今月のイチオシ本*
ネレ・ノイハウス『母の日に死んだ』(酒寄進一訳/創元推理文庫)


オリヴァー&ピアのシリーズ9作目。出るたびに分厚さが増してくるような気がするのは私だけでしょうか。ところが不思議なことに、読み始めたらやめられなくて「あれ? もう終わり?」ってなるんですよねえ。今回の事件の発端は、郵便配達員が見つけた老人の遺体。ところがその屋敷で別の遺体が次々に発見され、大事件に発展します。関係者のほとんどがその主人夫妻に引き取られた里子たちでした。調べが進むうちに、この家に隠された邪悪な秘密が浮き上がってきます。
 このシリーズを読むたびに毎回「オリヴァー、だめじゃん!」とイラッとしてきたのですが、7作目の『生者と死者に告ぐ』では全く怒らずに済み(?)、前作『森の中に埋めた』に至っては心からオリヴァーに同情するという読者(自分)の心境の変化に驚くばかり。しかし今回はピアがとにかくもう気の毒で! ピアのファンのかたは心して読んでいただきたい! このメインの物語と並行し、スイス人の若い女性が人探しをする物語が進むのですが、その到達点にはかなり驚かされました。3年前に刊行された本書の続きがようやく本国で11月に発売されると訳者あとがきにあったので、次作の最新作も邦訳を楽しみにしたいと思います!

*今月の新作映画*
『世界で一番美しい少年』(12月17日より公開)

巨匠ルキノ・ヴィスコンティ監督が50年前に撮った映画『ベニスに死す』の少年タジオ役で一躍世界中にセンセーションを巻き起こしたビョルン・アンドレセン。最近ではアリ・アスター監督の『ミッドサマー』に出演していた彼は、『ベニスに死す』以前、そしてその後から現在まで何が起きてどういう人生を歩んできたのか。今の彼と周囲の人々へのインタビュー、そして貴重なアーカイヴ映像で綴られたドキュメンタリーです。(池田理代子氏がオスカルのモデルは彼だったと明かすシーンも登場します。)自分があの映画を名画座で初めて観たのは高校生の頃だったのですが、当時こんなことが起きていたのかと知って、とても衝撃を受けました。ある意味、この映画が警鐘になれば、そして彼の心に平安が訪れてくれればと切に願います。

 
■タイトル:世界で一番美しい少年
■公開表記:12月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開
■マルシー:© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021
■配給:ギャガ
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監督:クリスティーナ・リンドストロム & クリスティアン・ペトリ
出演:ビョルン・アンドレセン 『ベニスに死す』(71) 『ミッドサマー』(20)
製作国:スウェーデン/英語・スウェーデン語・仏語・日本語・伊後/2021/シネスコ/5.1chデジタル/98分/字幕翻訳:松浦美奈/映倫G 
後援:スウェーデン大使館
オフィシャル・サイトhttps://gaga.ne.jp/most-beautiful-boy/

 
 

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム<本、ときどき映画>を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho










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