今月もこんにちは! 今回ご紹介4冊のうち2冊に白身のオムレツが出てきました。美味しいのかな……。それはともかく、今月ついにすべてが女性作家の作品です。やったー!

*今月のシニア暴走本*
ジャナ・デリオン『幸運には逆らうな』(島村浩子訳/創元推理文庫)

 みんな大好きワニ町シリーズ第6弾! 7月4日の独立記念日。カーターが怪我で休んでいる隙を狙い、町長になった宿敵シーリアがリー保安官を解任するという暴挙に出た直後、湿地で爆発音が。もしやシンフル・レディース・ソサエティの“咳止めシロップ”密造所が爆発? ところが現場はなんと覚醒剤の製造所で、事故に巻き込まれたウォルターが負傷。意外な人物からの激ヤバな協力を得て、アイダ・ベル、ガーティ、フォーチュンはシンフルの町から違法ドラッグを一掃できるのか? 続出する物騒なトラブル、高カロリーで超美味の南部グルメ、本人はそんなつもりはないガーティの大爆走と、電車内やおしゃれなカフェでは絶対読んではいけないスクリューボールコメディシリーズ。今回も期待以上の楽しさで、なおかつほろっとさせてくれます。嬉しいことに帯にはすでに続刊の予告が! 原題のHurricane Forceは、ルイジアナ名物ハリケーンカクテルも関係するんでしょうか。あれ、美味しいんですけど調子に乗っておかわりするとヤバいことに……。

*今月の時を超えたシスターフッド本*
サラ・ペナー『薬屋の秘密』(新井ひろみ訳/ハーパーBOOKS)

 結婚10周年記念の旅行だったはずが夫の手ひどい裏切り行為が発覚し、単身ロンドンに来たアメリカ人のキャロライン。街を観光中に知り合った人の薦めで、干潮時のテムズ川に出現したものを拾うツアーに参加します。そこで見つけた小さなガラス瓶は、18世紀に路地裏で秘密裏に営まれていた薬屋のものでした。その店で客として迎えられるのは男に苦しめられている女性だけ。店主のネッラは彼女たちを救うために毒を処方していたのです。細心の注意をはらい毒殺の手助けをしていたネッラでしたが、ある日女主人に頼まれて店に来た少女イライザとの出会いで運命が変わります。謎の小瓶を介して18世紀末と現在で生まれたシスターフッド。環境や立場は違えど、女性が直面するさまざまな困難に手を取り合って立ち向かう姿が描かれます。いっぽう男の無理解さというか図々しさもすごくリアルなんですが、本書のあの人、いくらなんでも怖過ぎ!

*今月のまさかの展開本*
ザキヤ・ダリラ・ハリス『となりのブラックガール』(岩瀬徳子訳/早川書房)

 主人公ネラはニューヨークの大手出版社ワーグナー・ブックスの編集アシスタント。職場でたった1人の黒人である彼女は、プライドを持って社内の偏見や無意識な差別を撤廃していこうと地道に努力しているのですが、白人の上司や同僚たちは一向にわかってくれず、不満がつのるばかりの日々。そんなある日、黒人のヘイゼルが新人として入社してきます。2人で旧態依然の出版業界を変えていけると期待したのも束の間、ある事件でネラの評価が下がり、やりたかった仕事がヘイゼルに回されるように。そんなネラに追い討ちをかけるように、机に「ワーグナーを去れ」と書かれた匿名のメモが置かれていたのです。白人作家の作品の黒人描写や白人が期待する黒人像、そして連綿と続く「白人の2倍は努力が必要」な黒人の現実に関するエピソードも辛いのですが、映画『アシスタント』でも描かれた、いいようにこきつかわれるネラの会社での日常がほんとに他人事とは思えなくて……(涙)。帯には『ゲット・アウト』『プラダを着た悪魔』とあり、一体どこからジョーダン・ピール調になるのか謎だったのですが、たしかにこれは! 早くもディズニー+でドラマ配信が始まっています(邦題『アザー・ブラック・ガール』)。偶然にもネラと『薬屋の秘密』のネッラは2人ともNellaです。

*今月のイチオシ本*
リサ・ガードナー『夜に啼く森』(満園真木訳/小学館文庫)

 女性の遺骨が見つかったと連絡を受け、ボストン市警のD・D・ウォレン部長刑事はアパラチア山脈に向かいます。遺骨は連続殺人犯ジェイコブの最初の被害者の可能性があるということで、かつてジェイコブに472日間監禁され、今は同じような悲劇にあった被害者たちを救うため自警団となったフローラと、彼女をサポートする犯罪マニアのキースを連れて行き、キンバリー捜査官のFBIチームと捜査を始めます。しかしそこには想像を絶する深く暗い闇が待ち受けていたのです。2人のシリーズ4作目となる本書も、血の通ったキャラクターたちのゆるぎない熱い信念と矜持がしっかりと描かれ、毎回傷だらけになりながらも被害者のため絶対に犯人を捕まえようとするD・Dとフローラの活躍は、読者に勇気を与えてくれます。特に今回は探し求めた真相に行き着いたことでフローラにある変化が訪れるので、シリーズを読み続けてきた読者なら感無量ではないでしょうか。一旦このシリーズは終わりということでとても寂しいのですが、訳者あとがきにあるように、別のかたちでまた会えることを待ちたいと思います。
 
*今月の新作映画*
『オペレーション・フォーチュン』10月13日(金)公開

 フォーチュンでスパイといえばワニ町! と言いたいところですが、ガイ・リッチーの最新作『オペレーション・フォーチュン』はジェイソン・ステイサム扮するMI6の腕利き諜報員オーソン・フォーチュンが、ベックストレームもびっくりするほど経費を使いまくりながら、世界を大混乱に陥れる超危険な秘密ブツ”ハンドル”の奪還ミッションを遂行! 急ごしらえのドリームチームの面々は、何が起きても対応可能な天才ハッカーのサラ(オーブリー・プラザ)、やる気十分の新米スナイパーJJ(バグジー・マローン)、指揮官件お目付役のネイサン(ケイリー・エルウィズ)。重要なカギを握る大物武器商人グレッグ(ヒュー・グラント)に近づくために、スタントも自分でやる世界的大スターのダニー(ジョシュ・ハートネット)を巻き込んで、次から次へと繰り出される敵の刺客をなぎ倒し、はたして彼らの任務は成功するのでしょうか。




 ヒュー・グラントが出るガイ・リッチー作品にハズレなし!(注:個人の感想です)『コードネーム U.N.C.L.E.』では小心者のウェイバリー課長、『ジェントルメン』ではゲスい私立探偵、そして今回は超大金持ちの怪しい武器商人を楽しそうに演じています。『モーリス』『アナカン』の2人が共演という意味でも筆者としては大変ありがたいキャスティングです! ステイサムの豪快アクションが楽しめる肩肘張らないコミカルなスパイアクションで芸術の秋をスタートさせてはいかがでしょうか。




 


タイトル『オペレーション・フォーチュン』
公開表記:10月13日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
コピーライト表記:© 2023 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
  ALL MOTION PICTURE ARTWORK © 2023 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督・脚本・製作:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム、オーブリー・プラザ、ジョシュ・ハートネット、ケイリー・エルウィズ、バグジー・マローン、エディ・マーサン、ヒュー・グラント
【補足情報】
2023年|英・米合作|英語|カラー|スコープサイズ|DCP|114分
字幕翻訳:大西公子|原題:Operation Fortune: Ruse de Guerre|G
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
 
●公式Twitter(@opf_jp)https://twitter.com/opf_jp
●公式HPhttps://operation-fortune.jp/


 

 
■10/13(金)全国公開『オペレーション・フォーチュン』予告篇

 

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho










 

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