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*今月のゴシックミステリ本*
ローラ・パーセル『かたどられた闇』(国弘喜美代訳/早川書房)


 舞台は19世紀半ばの湯治場バース。かつては温泉地として栄えていた街は、見る影もなく朽ちていくばかり。主人公アグネスはいまや時代遅れとなった切り絵作家として、年老いた母と甥の面倒を見ながら細々と暮らしていましたが、ある日彼女の店に警官がやってきます。遺体で発見された男がアグネスのお客だったというのです。それから数日後、今度は海軍将校の溺死事件が起こります。被害者に心当たりがあるアグネスは第一発見者のマートルを訪ねると、彼女は幼い妹のパールと行う降霊会で生計を立てていることを知ります。最初は懐疑的だったアグネスでしたが、その後も自分と関わった人々が相次いで殺されたことで、パールの不思議な力で犯人を探し出そうと決心します。煤けて黒ずんだ街並みと同様、まわりを暗い影に覆われ、精神的にも肉体的にも追い込まれるアグネスとパールの物語は、ページが進むにつれてどんどん不穏さが増していき、やがて過去に葬られた悲しい秘密が明らかにされることとなるのです。ゴシック・ホラーの香り漂うミステリの本書、表紙はもとより、カバー下の装丁もとても美しいのでぜひ見てみてくださいね。

*今月の一念発起本*
ルー・バーニー『7月のダークライド』(加賀山卓郎訳/ハーパーBOOKS)


 主人公のハードリーは23歳。唯一の家族は同じ里親の家で育った兄のプレストン。金銭的な理由もあって大学を中退し、今の仕事はひなびた遊園地でホラーアトラクションのキャスト。休みの楽しみはマリファナで……と、良くも悪くも毎日をなんとなく気ままに過ごしていましたが、ある日駐車違反の罰金を支払いに市庁舎に行ったことが彼の人生を変えてしまいます。明らかに栄養不足で痩せ細った子ども二人を見かけたハードリーは、近くに大人がいないのを不審に思い声をかけてみると、姉と弟と思われる二人の身体に意図的なやけど跡を見つけます。ショックを受けた彼の前から、おそらく母親であろう女性が二人を連れて行ってしまい、ハードリーは急いで児童サービスに虐待を通報しようとしますが……。ここからハードリーが自分でもまったく思いもよらなかった行動へ。見知らぬ子供たちを救わんと、人生最大のミッションを敢行するのです! 読了後にまず思ったのは、「これ、ホリー・ジャクソン『卒業生には向かない真実』と両方読めてよかった!」です。ネタばらしになってしまうので詳細は伏せますが、本書のクライマックスである人がとった行動は、『卒業生……』の某場面と比べずにはいられませんでした。帯には”青春ノワール”とありますが、ハードリーの自然体の明るさと意外なたくましさ(肉体的にあらず)はまさしくユーモア青春物語として読み応え抜群です。どうノワールなのかはぜひ本書を読んで確かめてください!

*今月のイチオシ本*
ネレ・ノイハウス『友情よここで終われ』(酒寄進一訳/創元推理文庫)


 待ちに待った刑事オリヴァー&ピアのシリーズ10作目は、なんと舞台が出版業界! 事件のはじまりは辛口で有名なベテラン編集者ハイケの失踪。家には血痕が見つかり、拉致や殺人の可能性も出てくるのですが、そもそもそれが発覚したのは、ハイケを心配した文芸エージェントが、ピアの元夫で法医学研究所所長のヘニングに連絡したことがきっかけ。シリーズ読者の皆様なら「なんでヘニングが文芸エージェントと?」と思うのではないでしょうか。なんとヘニングは売れっ子ミステリ作家になってたんですよ! しかも作中に出てくる彼の作品というのが、主人公のモデルはピアとオリヴァー。でもって本書のシリーズがそのままヘニングの作品群となっているという、ファンにはたまらない設定になっているのです。それはそれとして、もちろん本書の謎と驚きの真相は期待以上なのですが、それ以外にもオリヴァーが相当深刻な状況に陥ったりとか、ヘニングのせいでピアが困ったことになったりとか、600ページ超えなのに一気読みさせてしまう面白さ! シリーズ初期の頃は毎回イラッとさせられていたオリヴァーですが、最近は気の毒としか言いようのない出来事がてんこ盛りで同情しきり。ノイハウス先生、読み手の心を掴むのがほんとに上手いなあと思ってしまいます(笑)。本書でちらっと言及されますが、本国では1作目から前作『母の日に死んだ』までドラマ化されています。最新作でピア役の俳優が変わりましたが、オリヴァーはずっと同じ役者なのでイメージが出来上がっているのかも。いつか日本でも観られるといいなあ。

*今月の新作映画*
『アーガイル』(2024年3/1(金)公開)


 かっこよくてスタイリッシュで無敵で凄腕のエージェント”アーガイル”が、悪の組織を相手に華麗に活躍する大人気小説『アーガイル』シリーズの作者エリー(ブライス・ダラス・ハワード)は、実は大人しくて引っ込み思案。飼い猫アルフィーと自宅でゆっくり過ごすのが一番好きという地味な人間なのですが、偶然にも新作の内容が実在するスパイ組織の活動と一致してしまったせいで、平凡だった人生が突然予想もしなかった驚きの展開に! 危機一髪のエリーの前に現れた、自らスパイと名乗るエイダン(サム・ロックウェル)の正体は? そしてエリーを追う謎の一団の目的とは一体? 



 監督は『キングスマン』シリーズのマシュー・ヴォーン。3作目の『キングスマン:ファースト・エージェント』はシリーズ中最も正統派のスパイ映画でしたが、さて本作は? 予告編のヘンリー・カヴィルのゴージャス感と舞台のキラキラ度、ド派手なアクションシーンなど見どころは沢山ですが、物語にあっと驚く仕掛けが施されているので、ミステリファンのみなさまにはきっと楽しめること間違いなし。エル・コシマノ『サスペンス作家が人をうまく殺すには』が好きな人には絶対オススメ! ポスターヴィジュアルにもなっている猫のアルフィーがめちゃくちゃ可愛いんですが、なんとこの子はマシュー・ヴォーン監督の実の飼い猫だそうです。困ったような表情がたまらなくキュートなので、猫好きなかたはくれぐれもお見逃しのないように。


 



タイトル『ARGYLLE/アーガイル』
3月1日(金)全国公開
配給:東宝東和
クレジット:© Universal Pictures
 
キャスト:ヘンリー・カヴィル、ブライス・ダラス・ハワード、
  サム・ロックウェル、ブライアン・クランストン、
  キャサリン・オハラ、デュア・リパ、アリアナ・デボーズ
  with ジョン・シナ and サミュエル・L・ジャクソン
監督:マシュー・ヴォーン
脚本:ジェイソン・フュークス
製作:マシュー・ヴォーン、アダム・ボーリング、
  ジェイソン・フュークス 、デヴィッド・リード
製作総指揮:アダム・フィッシュバック、ジギー・
  カマサ、カルロス・ペレス、クラウディア・ヴォーン
 
北米公開日:2月2日(金)
原題:Argylle

公式サイトhttps://argylle-movie.jp/
公式X@universal_eiga
公式TikTok: @universal_eiga
公式Instagram: @universal_eiga
#映画アーガイル



 
◆映画『ARGYLLE/アーガイル』予告編<2024年3月1日(金) 全国公開!>◆

 

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho








 

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