今月もこんにちは! ものはためしで着る毛布なるものを買い、寝ながら読書に大変重宝しています。

*今月のハラハラてんこもり本*
エル・コシマノ『サスペンス作家が殺人を邪魔するには』(辻早苗訳/創元推理文庫)


 若い相手に走った夫と離婚したフィンレイは、幼い子ども二人の世話をしながら新作の執筆に苦しんでいたところ、なんとオンラインの匿名掲示板に元夫スティーヴンの殺害を依頼する書き込みを見つけてしまいます。おまけにどうやらプロの殺し屋っぽい人間が依頼を受けてしまうのです! たしかに夫にはひどいめにあったものの、子どもたちと一緒の時に狙われでもしたら……。同居するベビーシッターのヴェロと二人で、なんとかして殺害計画を阻止しようとしますが、相手の正体もわからず気は焦るばかり。おまけにラブラブな年下彼氏は友人たちと旅行に行ってしまい、音沙汰もない状況。ヴェロまでが何かを隠しているようで、フィンレイの気は休まりません。ロマサス作家が殺し屋と勘違いされてさあ大変なシリーズ第二弾は、正体不明の殺し屋に先回りして夫の殺害を阻止するという超難関ミッションに挑戦する羽目に。ワニ町シリーズとはまた違った味わいのドタバタサスペンスの本書、一作目よりも面白さ倍増でした! ぜひ前作から。

*今月のマジ怖本*
ジェイソン・レクーラック『奇妙な絵』(中谷友紀子訳/早川書房)


 陸上選手として将来が期待されていたマロリーは、ある事故が原因でドラッグ依存症になってしまいます。厳しいリハビリを頑張って依存症を克服した彼女は、5歳の男の子テディの住み込みのベビーシッターとして新生活を始めます。ところがある日、お絵描き好きのテディの絵に不気味なものを見つけます。日を追うごとに絵はどんどん恐ろしくなり、タッチも子どものものとは思えないほどリアルで詳細になっていきました。マロリーは昔行方不明になった女性の噂を聞き、テディの絵がそれと関係があると思い始めるのですが、面接の時にテディの両親から非科学的なものは一切受けつけないのが雇入れの条件と言われていたため、困った彼女は近所に住む老女に相談するのですが……。とにかく絵が!絵が怖い!!!(泣)でも怖いからといって先に絵だけ見ようとしてはダメなんですよこの本は!

*今月のイチオシ本*
コラン・ニエル『悪なき殺人』(田中裕子訳/新潮文庫)


 1月のある日フランスの山中で、失踪していた女性の遺体が発見されます。物語は5人の異なる登場人物により、それぞれの立場で事件と被害者について語られます。羊飼いのジョゼフを盲目的に愛している既婚者アリスに始まり、被害者とどのように関係があったのかが次々に明らかになっていきます。一見何のつながりも見えないようなことがらが前後の語りの中に隠されていて、ラストには、まさかそんな! という驚きが待っています。なお本書読了後、未読でしたらクワイ・クァーティ『ガーナに消えた男』(渡辺義久訳/ハヤカワミステリ)もオススメです。本書は映画化され『動物だけが知っている』というタイトルで東京国際映画祭で上映されたのち、『悪なき殺人』として一般公開されたのですが、筆者は残念ながら未見です。吉野仁氏による読み応えたっぷりのあとがきにあるように、今は配信でも見られないのですが、いつかまた見られる時が来る前にぜひ原作を読んで、本ならではの緊張感を味わってください。なおこの作品の監督・共同脚本者ドミニク・モルの新作『12日の殺人』が来年3月に日本公開されるという情報が入ってきました。ノンフィクションベースのミステリだそうで、楽しみですね!

*今月の番外編本*
モーリーン・ウィテカー『シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット』(高尾菜つこ訳・日暮雅通監修/原書房)


『ポワロと私』に続き、海外ミステリドラマファン垂涎の一冊が出ました! これでホームズのファンになったという人が続出したグラナダTV版シャーロック・ホームズで主演を演じたジェレミー・ブレット。ブレット本人と関係者が語るドラマの現場や撮影秘話、俳優ジェレミー・ブレットの生涯や人柄などが、ふんだんなカラー写真とともにぎっしり詰まっていて、ホームズファンにはたまりません!!! この本がすごいのは『ポワロと私』と同じくドラマの全てのエピソードについて言及されているところです。これを読んだらまたドラマを見直したくなること間違いなし! 実は自分は本書にも出てくるウィンダムズ劇場のお芝居“The Secret of Sherlock Holmes”を観ているのですが、リアルホームズ(違うのはわかってますが!)が目の前でしゃべってる! と興奮のあまり、ほとんど内容を覚えていないのがつくづく残念です……。写真を見るだけでも楽しい本書、ぜひ手に取ってみてください。なんたって原題が“Jeremy Brett is Sherlock Holmes”ですから!
 
*今月の新作映画*
『きっと、それは愛じゃない』(12月15日(金)公開)

 恋愛映画好きというわけではないのに、クリスマスが近づくとなぜか急に『ラブ・アクチュアリー』が観たくなる。そんなあなたに絶対お勧めしたいのが、リリー・ジェイムズ主演の『きっと、それは愛じゃない』です。



 ドキュメンタリー映画監督のゾーイ(リリー・ジェイムズ)は、実家の隣に住むパキスタン出身の一家の次男の結婚式に呼ばれ、久しぶりに会った幼馴染で医者のカズ(シャザド・ラティフ)から、お見合いするつもりだと聞かされます。両親の勧めた相手と結婚することが正しいと言い切るカズに、いまどきお見合い? と疑問を持つゾーイ。ところがプロデューサーに次作の構想にダメ出しをされ、慌てて口から出たのが「両親がパキスタン出身のロンドン生まれの男性が見合い結婚をするまでのドキュメンタリー」。その咄嗟のアイディアが気に入られてしまい、ゾーイはカズに頼み込んで撮影を開始します。



 愛の無い結婚を疑問視するゾーイでしたが、実はいままでつきあってきた相手すべてに嫌な思いをさせられていました。それでも運命の相手と恋に落ちることしか考えられなかったのです。楽しいラブコメの合間に、英国でムスリムとして生きていくカズの心情や、映像業界で生きていく女性に課せられるハードル、伝統や宗教を守りたい親たちの葛藤なども描かれていて、観終わったあとにいろいろと思い返すことが多い作品だと思います。クラム・ラーマンのジェイ・カシームシリーズが好きな人にも観てほしいなあ。


 


タイトル『きっと、それは愛じゃない』

●12/15(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
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配給:キノフィルムズ
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© 2022 STUDIOCANAL SAS. ALL RIGHTS RESERVED.
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監督:シェカール・カプール(『エリザベス』)
出演:リリー・ジェームズ、シャザド・ラティフ、シャバナ・アズミ、エマ・トンプソン、サジャル・アリー
2022 / イギリス / 英語・ウルドゥー語 / 109分 / カラー / スコープ / 5.1ch
字幕翻訳:チオキ真理 / 原題WHAT’S LOVE GOT TO DO WITH IT? / G
© 2022 STUDIOCANAL SAS. ALL RIGHTS RESERVED. 
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ

公式サイトhttps://wl-movie.jp/


 
■映画『きっと、それは愛じゃない』予告編|12.15(金)公開■

 
 

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho







■映画『悪なき殺人』予告編■

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