今回は元海兵隊員のライアン・デッカーが活躍するスティーヴン・コンコリーの The Rescue(Thomas & Mercer/2019年)を取り上げます。

 マーガレット・スティール上院議員の娘、メーガンが拉致され、海兵隊出身のライアン・デッカーが創立した人質救出を専門とするワールド・リカヴァリー・グループ(WRG)に依頼が舞い込む。
 ロシアの犯罪組織、ソルンツェフスカヤ・ブラトヴァの関与を突き止めたWRGはメーガンが囚われている隠れ家を探し出すことに成功、入念な準備を重ねたうえで突入作戦を決行する。しかし隠れ家は大爆発と共に吹き飛ばされ、突入班と人質は死亡、離れた場所で指揮を執っていたデッカーは責任を問われて投獄される。
 それから2年後、WRG が収集した証拠を基にブラトヴァの幹部、ヴィクター・ペンキンを訴追する裁判が突然閉廷となり、証言する筈だったデッカーもロサンジェルスの拘置所から釈放される。刑務所内で何度も命を狙われたことから、今回の件も組織が刺客を送り込む前触れだと身構えるデッカーの前に私立探偵のハーロウ・マッケンジーが現われる。
 13年前、人身取引の犠牲者になりかけたところを WRG によって救出されたと語るマッケンジーの活躍で襲撃をかわすことができたデッカーは、彼女の協力を得てペンキンを拉致、メーガンは謎の組織によってブラトヴァに引き渡されていたことを聞き出す。
 事件当時の状況からして WRG 内部に情報提供者がいたとデッカーは推理していたが、マッケンジーは WRG の共同創立者であるブラッド・ピアースが当局との司法取引を行なって行方を晦ました可能性があると指摘する。
 デッカーはかつてピアースが話していたコロラド州の寂れた街に潜んでいると見当をつけて、そこへ向かうが……
 
 第1章は救出作戦を指揮するデッカーたち WRG の面々の描写から始まり、第2章では目まぐるしく2年後へと飛ぶ。
 失敗に終わった作戦が立案される経緯は徐々に詳らかになる一方で、デッカーを陥れた組織の正体は序盤で明かされる。その真意は不明ながら、資金も人員も豊富な相手に対して、出所したばかりで徒手空拳のデッカーがどのように立ち向かうのか、読む側は一気に物語の中へ引き込まれる仕掛けとなっている。
 そこで主人公を助けるのが、かつて WRG に救われた過去を持つ私立探偵のマッケンジーだ。
 自分が人身取引の犠牲者になりかけた過去からその撲滅に取り組む彼女は、志を同じくする同志たちと築き上げたネットワークの総力を挙げて敵に挑み、もう1人の主役とも呼べる活躍を見せる。
 そのネットワークには情報収集と分析の専門家チームも含まれており、彼らが探り当てる貴重なデータを元に、デッカーは全米を股にかけて2年前の事件の真相に迫る。
 物語はデッカーとマッケンジーだけでなく、2人を追う FBI のリーヴス、そしてロサンジェルスに身を隠してデッカーを支援するマッケンジーを捕えるべく躍起になっている敵の組織の視点から交互に描かれ、冒頭の緊迫感溢れる突入作戦から出所直後の襲撃へと息つく間もなく続き、デッカーの反撃が始まるとテンポの良い展開で一気に結末へとなだれ込む。
 各章は短くまとめられて読みやすく、アクション満載の痛快な作品に仕上がっている。
 
 スティーヴン・コンコリー(https://stevenkonkoly.com/)はデッカーと同じく海兵隊出身で、これまでに〈Black Flagged〉(5部作)、〈Fractured State〉(2部作)、〈Zulu Virus〉(3部作)、〈Alex Fletcher〉(5部作)と名付けられた4つのシリーズを執筆しており、2022年2月には監視の専門家であるデヴィン・グレイを主人公とするシリーズを新たに始めている。

作品リスト(ライアン・デッカーを主人公とするシリーズ):
 The Rescue(Thomas & Mercer/2019年)本作
 The Raid(同上/2019年)シリーズ第2作
 The Mountain(同上/2020年)シリーズ第3作
 Skystorm(同上/2021年)シリーズ第4作

寳村信二(たからむら しんじ)
昨年、アマゾンのセールで『星系出雲の兵站』シリーズ(林譲治)と『航空宇宙軍史・完全版』(谷甲州)の電子書籍版をまとめ買いして読破。後者は再読になるものの、細かい点はほとんど忘れていた。何はともあれ、至福の一時でありました。

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