今月もこんにちは! Amazon Prime Videoの『ジャック・リーチャー ~正義のアウトロー~』、もう観ましたか? トム・クルーズの映画版も悪くないんですが、こっちの売りは何といってもリー・チャイルドの原作どおりにリーチャーがデカい! 強い! そして服装も気にしない! 映画『コマンドー』を初めて観たときの興奮が甦った! と言ったらわかっていただけますでしょうか。

*今月のロマサス本*
サンドラ・ブラウン『欺きの仮面』(林啓恵訳/集英社文庫)

 一見つながりが無さそうな複数の失踪事件。だが被害者の女性たちには常に一人の男性の陰が。失踪と同時にその男は証拠を全く残さずに行方不明となり、被害者の財産も消えているのです。その男を追い続けているFBI特別捜査官のドレックスは、ついにサウスカロライナで容疑者を発見。素性を偽り隣家に引っ越すと、今回はジャスパーと名乗っているその男には若く美しい妻タリアがいました。探りを入れるうちに彼女に惹かれていくドレックスの前で、予想外の事件が起きてしまいます。
 ロマサスの女王サンドラの最新邦訳作は今回もスリル満点、怒濤の展開、ホットなシーンも盛り盛りで、途中でやめられません! 特に本書は犯人の人物像と手口の不気味さが秀逸で、サイコサスペンスのファンも大満足のはず。チームものとしての醍醐味も味わえ、ラストでは思わず「うわぁ、やられた!」と声が出ました。ロマサス未体験の方もぜひ!

*今月のヒストリカル本*
アビール・ムカジー『阿片窟の死』(田村義進訳/ハヤカワミステリ)

『カルカッタの殺人』『マハラジャの葬列』に続く人気シリーズ第三弾。エドワード皇太子のカルカッタ訪問が近づく中、依存を断ち切れないウィンダム警部が阿片窟でひと時を過ごしていたところ、警察の手入れが。慌てて逃走する途中、重傷を負った男の死に遭遇しますが、翌日には幻のように消えていました。ところが同様の傷を負った別の遺体がまた発見されたのです。
 ガンジーが唱える非暴力不服従運動に賛同する人々が各地でデモ等を蜂起していた史実をベースに、心身ともに痛みを抱える英国人警部ウィンダムと、彼の優秀な部下でインド人であることのメリットとデメリットを常に思い知らされるバネルジー部長刑事が、今回も身の危険や政治力に脅かされながらも、身体を張って全力で事件の真相を暴きます。毎回どんどん面白くなっていくこのシリーズ、本書では統治国イギリスの闇の歴史が容赦なく明るみに出されます。クライマックスも手に汗握る大迫力! 続きも超期待!

*今月のイチオシ本*
リサ・ガードナー『完璧な家族』(満園真木訳/小学館文庫)


 ある土曜日の朝、その惨劇は起きました。母親とその恋人、10代の娘と幼い息子が、家に入ってきた何者かの銃撃を浴びて殺されたのです。担当のボストン市警ウォレン刑事は、行方不明の16歳の長女ロクシーと飼い犬2匹の捜索にあたりますが、警察とは別にロクシーを探している人物がいました。それは、かつて卑劣な犯人に拉致され、472日もの間、箱の中に監禁されていた女性フローラ・デインだったのです。
 鬼畜な犯罪に怒りと絶望で打ちのめされながらも、一人の女性の生きる力と勇気に励まされた『棺の女』の続編となる本書は、地獄から生還したフローラが選んだ新しい人生が明かされます。その選択はウォレン刑事には認められないものですが、心の底ではそれで救われる被害者がいることも理解しており、葛藤を抱えることになるのです。続編とはいえ、単独で読んでも全く問題ありませんし、特に、カリン・スローターのファンで今までガードナーの作品を未読だった方はぜひ一度読んでみてください。『棺の女』『無痛の子』も全部推しですよ!

 最後に番外編として、今月はエルヴェ・ル・テリエ『異常 アノマリー』(加藤かおり訳/早川書房)が猛烈に面白かったんですよ! パリ~NY間のフライトで未曾有の乱気流が発生。乗客らは墜落を覚悟し、パイロットは必死で管制塔にSOSを発しますが、なぜか地上の反応がおかしい。実はその理由は……。SFと言えばそうなんですが、本書は謎解き要素も奇妙な味わいもあり、真相が明らかになったときのカタルシスはもちろん、乗客たちそれぞれの運命の向き合い方もしみじみと心に残ります。ジャンルに関係なくオススメの一冊です!

*今月の新作映画*
『ガンパウダー・ミルクシェイク』(3月18日公開)


 凄腕の殺し屋サム(カレン・ギラン)は窮地に立たされていた。組織の仕事を完璧にこなしたところ、殺っちゃいけない相手が混じっていたというのだ。挽回する方法はただ一つ。泥棒から金を取り返し、始末する。楽勝なはずのこの仕事で、予想外の事態が起きてしまう。



『ジョン・ウィック』のホテルがダイナーに、秘密基地が図書館に、なんて、この設定だけでも超魅力的じゃありません?


 その上、最強の殺し屋はぜーんぶ女性、しかも必殺テクニックが一人一人違って、アクション・シーンの魅せることといったら! 格闘技もドライヴテクも超一流のサムの側についたウルトラかっこいい面々は、『ゲーム・オブ・スローンズ』の最強キャラ、サーセイ役も記憶に新しいレナ・へディ、魅惑のカンフー・マスター、ミシェル・ヨー、ティナ・ターナー役も忘れられない頼れる姉御アンジェラ・バセット、『スパイ・キッズ』の素敵ママから『ジェラルドのゲーム』にも臨機応変、カーラ・グギーノらが、女だからとナメてかかるムカつく野郎どもを次々に倒していくさまは胸のすくことこの上なし。大体、組織がヤバい状況になったもともとの原因って、想定してなかったお前らが悪い! きちんと任務を果たした殺し屋に責任かぶせるな! ウィリアム・ボイル『わたしたちに手を出すな』(鈴木美朋訳/文春文庫)が気に入った人にはぜひ!!

■映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』予告編


 
作品タイトル:『ガンパウダー・ミルクシェイク』
公開表記:3月18日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
コピーライト:© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

監督・脚本:ナヴォット・パプシャド
出演:カレン・ギラン、レナ・ヘディ、カーラ・グギーノ、ミシェル・ヨー、アンジェラ・バセット、ポール・ジアマッティ
原題:Gunpowder Milkshake
スタジオカナル提供/ザ・ピクチャー・カンパニー制作/スタジオ・バベルスバーグ、スタジオカナル・フィルムGmbH 共同制作/カナル+、シネ+参加
2021年|仏・独・米合作|英語|カラー|スコープサイズ|DCP|114分|PG12
字幕翻訳:佐藤恵子
提供:木下グループ

公式HPhttps://www.GPMS-movie.jp
公式Twitterhttps://twitter.com/GPMS_JP

 
 
 

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム<本、ときどき映画>を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho







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