今月もこんにちは! なぜか最近配信サイトでアニメばかり観ている今日この頃です。Netflixで配信開始した待望の『TIGER & BUNNY』シーズン2もすごい勢いで完走しましたが、なにが悲しいって次週予告が無い! 一方で、英語音声で観るという新しい楽しみ方を発見。シュテルンビルトの公用語は英語なので意外な臨場感が味わえます。ぜひお試しのほど。

*今月の緊張本*
リサ・ガードナー『つぐみの家』(満園真木訳/小学館文庫)


前作『完璧な家族』が2月に出たばかりなのにもう続きが読めるなんて!! 喜びと興奮で期待度MAXだった本書、果たしてその期待を遥かに上回ってくれました! クリスマスを迎える準備の静かな住宅街で突然銃声が鳴り響きます。駆けつけた警察官らが見たのは、射殺された男の遺体と拳銃を手にした妻イーヴィ。彼女は第一容疑者となり、ボストン市警のD・D・ウォレン刑事と再会します。実はイーヴィは16年前に事故で父親を撃ち殺していたのです。シリーズ3作目となる本書で、かつての被害者フローラは『棺の女』事件の真相を少しずつ明らかにします。自分のような犠牲者を出さないため自警団的な役割を担いつつ、被害者の心のケアに最も心を砕く彼女にとって、今回の事件で明らかにされた新たな事実は彼女を追いつめることとなるのです。イーヴィは本当に夫を殺したのか? だとしたらその動機は? 父親は本当に事故で死んだのか? 数々の秘密と嘘に翻弄されながら真実に近づいていく彼女たち。その命がけの挑戦を応援してください。

*今月のグルメ本*
エリー・アレグザンダー『ビール職人の秘密と推理』(越智睦訳/創元推理文庫)


舞台はアメリカのバイエルン地方と呼ばれる小さな町レブンワース。家族で老舗ブルーワリーを営む夫の浮気に愛想をつかして別居し、新しいクラフトビール店で腕を振るうビール職人スローンが事件に巻き込まれるシリーズ第3弾。読むたびにビールが飲みたくなってしまう罪本ですが、飲めない人にもオススメの一冊。なぜなら出てくる料理が全部美味しそうだから! さて今回は選挙目前の現職市議会議員の殺人事件。なんと被害者は当選したあかつきには禁酒法の施行を掲げていたのです。飲食や観光などビールで生計を立てている人がほとんどのこの町でありえない公約ですが、どうやら彼には内緒の切り札があった様子。離婚の決断や息子の将来など悩みもつきないスローンですが、意外な人から捜査を頼まれしぶしぶ聞き込みを始めます。さらに今回は出生の秘密も浮かび上がり、ファンなら一緒にハラハラすること間違いなし。続きも楽しみにしてます!

*今月のイチオシ本*
タナ・フレンチ『捜索者』(北野寿美枝訳/ハヤカワミステリ文庫)


おおおおおっっ! タナ・フレンチといえば『悪意の森』(安藤由紀子訳/集英社文庫)、あれ、大好きだったんですよ!! また新作が読めるなんてすごく嬉しい!! 25年間シカゴ市警に勤めたカルは離婚をきっかけに退職。50代を前にして、遠く離れたアイルランド西部の静かな村に移住します。余所者には排他的な土地だろうと心配していたカルでしたが、隣人のマットをはじめ、周囲は意外なほど受け入れてくれたのです。ある日みすぼらしい姿をした子どもトレイが用心深く彼に近づき、突然いなくなった兄を見つけ出してほしいと頼んできます。小さな村で軋轢を起こしたくない思いもあり、カルは秘密裏に捜査を始めますが、それは美しく牧歌的な村の暗部を曝け出すこととなるのでした。舞台は現代ですが、景色は数百年前と変わらず、そしておそらく人々の生き方も多かれ少なかれ似たようなものではないか、嘘や妥協や過ちが繰り返されてその土地はやっと共同体となったのではないか、そんな考えが浮かんでしまうような静かで恐ろしい物語です。じっくり腰を据えてお読みください。

*今月の番外篇本*
グレイディ・ヘンドリクス『吸血鬼ハンターたちの読書会』(原島文世訳/早川書房)


そして番外編として超オススメしたいのはホラー本! グレイディ・ヘンドリクス『吸血鬼ハンターたちの読書会』(原島文世訳/早川書房)なのです。ドラマ『スーパーナチュラル』を全力で愛する自分としては、そういう人たちが読書会をしたらそこにヴァンパイアが出てきてクールに大暴れするのだな!と勝手に思い込んで読み始めたところ、この予想は大外れ。舞台は80~90年代のアメリカ南部。母や妻の義務だと家庭に縛られ、不当に軽んじられていた女性たちの苦難の時代をさらに生き地獄にするミソジニー鬼畜モンスターから、特技すらない主婦パトリシアはどうやったら家族を守れるのか!? という手に汗握る作品です。なんとこの読書会では課題書が実録犯罪本なのですが、そうした本のアメリカでの立ち位置や有名な事件の数々について柳下毅一郎氏がわかりやすく解説されているのでこちらもお楽しみに。ジョン・カーペンター監督作『ヴァンパイア/最期の聖戦』の原作、ジョン・スティークレー『ヴァンパイア・バスターズ』(加藤洋子訳/集英社文庫)をちょっと思い出すような、絶望的でがけっぷちの対決が待ち受けています。一気読み必至!

*今月の新作映画*
『不都合な理想の夫婦』(4月29日公開)





イギリス人貿易商のローリー(ジュード・ロウ)は、アメリカ人の妻アリソン(キャリー・クーン)と子ども2人でニューヨークに住んでいますが、妻に相談もせずイギリスへの移住を決めていました。夫の熱意を止めることはできず、頼る親戚もいない英国へ渡ったところ、先に帰国した夫が用意していた家はロンドン郊外にある広大な土地付きの豪邸。驚く妻を尻目に、次々と景気のいいことを声高に語る夫の目には尋常ならざる何かが潜んでいたのです。息子を有名私立に入学させ、かつて働いていた職場に復帰し、アメリカでの成功体験を自信たっぷりに語るローリー。しかしある日アリソンは、工事を頼んだ業者が来なくなったことに気づき……。今回ご紹介した4作の本にも共通する〈家の中の秘密〉がテーマのこの作品、ひどい暴力シーンや犯罪行為などは全く登場しないのにとにかく恐ろしいです。大言壮語がエスカレートする夫と、じわじわと心理的に追い詰められる妻、そして正体のわからない不安に駆られる子どもたち。あのラスト、あなたはどう解釈するでしょうか。




『不都合な理想の夫婦』クレジット情報
監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ジュード・ロウ、キャリー・クーン
2019年|イギリス|英語|107分|カラー|ビスタ
5.1ch|原題:The Nest|字幕翻訳:高山舞子 
提供:木下グループ 配給:キノシネマ
©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019
場面写真 Photographer: Dean Rogers
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/thenest
2022年4月29日より kino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開
映倫区分:R15+
映倫番号:49150

  
■『不都合な理想の夫婦』予告編|2022年4月29日(金)公開

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム<本、ときどき映画>を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho







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