今月もこんにちは! 年末ベストもラストスパートに突入の今日この頃、都内もようやく初秋を感じられる気温になってきて、温かい飲み物と読書が楽しめそうです。

*今月のYAミステリ本*
ジューン・ハー『宮廷医女の推理譚』(安達眞弓訳/創元推理文庫)

  1758年、厳しい試験を合格し、朝鮮王朝の内医女になったばかりのベクヒョンは、ある晩、宮中医に連れられて宮殿の奥に入っていくと、そこは国王英祖の次男で次期王位継承者である世子の住む東宮でした。そこで正室から打ち明けられたことに驚いたのも束の間、同時刻に、かつて学び場だった診療所で女性が4人殺されたことを知ります。しかも容疑者はベクヒョンの敬愛する師匠ジョンスだったのです。師匠の無実を信じる彼女は、偶然知り合った捕盗庁の若手従事官オジンの手を借りて、真犯人探しを始めます。2023年のエドガー賞YA部門受賞作の本書。韓国に生まれ3歳の時カナダに移住した著者は、荘献世子に関する小説がずっと書きたかったとのこと。陰謀渦巻く歴史ミステリの本書は、主人公の過酷な出自と、当時女性がいかに虐げられていたかが切実に描かれています。7月に取り上げたリツ・ムケルジ『裁きのメス』(小西敦子訳/新潮文庫)が気に入ったひとに特に勧めたい。YAが気になる向きには先住民族の少女が主人公のアンジェライン・ブーリー『真実に捧げる祈り』(吉田育未訳/ハヤカワミステリ)もぜひ! 2022年のエドガー賞受賞作です。
 
*今月のずっしり本*
マイクル・コリータ『穢れなき者へ』(越前敏弥訳/新潮文庫) 舞台となるのはメイン州の海岸に近い小さな島。実父殺害の罪で15年間服役し、3ヶ月前に出所したイズレイルは、7つの遺体を乗せたヨットを発見、その中には有名政治家も含まれていました。叔父で保安官補のスターリングらは彼の関与を疑ってかかります。同じ頃、隣の島に住む少年ライマンは、手斧を持った傷だらけの少女と出逢います。物語は、イズレイルの過去、父親に虐待されているライマンの孤独、正体不明の少女の秘密が少しずつ明かされ、読者は読み進むほどに、彼らの哀しみと怒りと辛さに向き合うこととなります。ページ数は600ページ以下ですが、内容がずっしりと重くて、でも最後には、読んで本当に良かったと思えるはず。帯の巨匠たちの激賞も納得の一冊です。

*今月のフェアなミステリ本*
ベンジャミン・スティーヴンソン『真犯人はこの列車のなかにいる』(富永和子訳/ハーパーBOOKS)

『ぼくの家族はみんな誰かを殺してる』の続編は、三泊四日で砂漠を縦断する豪華列車“ザ・ガン”での殺人事件! 前作の事件について書いた本がそこそこ売れて今や作家となったアーネストは、推理作家協会主催のイベントにゲストとして招待され、恋人のジュリエットと列車の旅に参加します。第一の被害者は作家の一人。それで終わるわけもなく、犯人と次の被害者を乗せたまま列車は走り続けます。前作が好きだった人なら絶対にオススメ! 未読の人はまずは前作からぜひ! アーネストの言動にツッコミを入れながら読めるという楽しみが増えますよ!(いやー、アレは絶対にダメだってば) 今回も伏線と謎解きとユーモアがてんこ盛り、期待を裏切らない一冊です!

*今月のそんなまさか本*
M・W・クレイヴン『デスチェアの殺人』(東野さやか訳/ハヤカワ文庫)

 みんなお待ちかねの〈刑事ワシントン・ポー〉シリーズ(ポーとティリーのほのぼのコンビシリーズともいう)第6弾。まずは下巻の帯で慌てた人も多いのではないでしょうか。“さらば、ワシントン・ポー”って何!!?? カルト教団の指導者が不気味な方法で殺害されます。ところが捜査を開始するポーたちに、会計監査員の男が張り付くことに。上層部からの命令でやむなく同行を許すポーでしたが、そこに不審な思惑を嗅ぎつけます。まずはポーのおめでたい話に喜んだと思ったら、チーム存続の危機! さらに事件も犯人もシリーズ中最も不気味で、次から次へと予想外の展開に読者を引っ張っていきます。いきなり本書から読み始めても大丈夫なつくりになっているのも本シリーズの良いところ。シリーズ読者は「さらば」の意味に怯えつつ、最後の最後まで特濃のスリルを味わってください!

*今月のイチオシ本*
アンソニー・ホロヴィッツ『マーブル館殺人事件』(山田蘭訳/創元推理文庫)

  カササギ、ヨルガオと続いて今度もカタカナ4文字……じゃなくてプラス漢字1文字の、〈名探偵アティカス・ピュント〉シリーズ待望の第三弾。作者も出版社もいなくなった名探偵ピュントのシリーズ。フリーの編集者となったスーザンに、若手作家が書き継ぐことが決まったので担当してほしいと新しい版元から依頼が来ます。アラン・コンウェイにまつわる事件で何度もひどい目にあったスーザンは最初は断るつもりでしたが、とりあえず内容に目を通し……。自分はスーザンの大ファンなので、1作目に続いて2作目もひどい目にあったから今回こそ何事もなく事件解決に!と思っていたら、なんとしょっぱなの人物紹介で大ショック! えー、そりゃないっすよ?(哀)などとしょんぼりしながら読み進めると、新作者による続編はピュントも助手のジェイムズも本家のテイストを継承しているし(そりゃ書いてる人は同じだからとわかりつつ!)、なにやらおどろおどろしい雰囲気も醸し出していてすっかり夢中。これにスーザンがどんなダメ出しをするかもワクワクします。そして現実世界でも殺人事件発生! またまた本書も一気読み必至ですよ! 謝辞と吉野仁氏の解説にある、スーザン役のレスリー・マンヴィルがミニ・シリーズ『ヨルガオ殺人事件』)撮影の最終日に、またこの場に戻ってきたいと言ったおかげで本書が産まれることになったというエピソードが嬉しい。ちなみにマンヴィルがオスカー助演女優賞候補になった映画『ファントム・スレッド』(2017)は激しく面白いのでオススメです! ところで上巻終わりの方に出てくる”レモン・シロップをかけたケーキ”って、『木曜殺人クラブ』でおなじみのレモン・ドリズル・ケーキのことですかね?
第1話は昨年のエドガー賞最優秀TVエピソード部門の候補に)
 
*今月の新作映画*
『ワン・バトル・アフター・アナザー』【2025年10月3日(金)全国公開】

 かつては〈フレンチ75〉という革命グループで破壊活動に励んでいたボブ(レオナルド・ディカプリオ)も、今はティーンとなった娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)と、冴えないながらも平和な日々を送っていました。そんなある日、革命家時代からボブに異常な敵意と執着心を抱いていた軍人ロックジョー(ショーン・ペン)がボブの前に姿をあらわします。ウィラはさらわれ、最愛の娘を取り戻すためにボブが助けを求めたのは空手道場の“センセイ”(ベニチオ・デル・トロ)。ボブはかつての勘をとりもどして娘を救えるのでしょうか。


 前述の『ファントム・スレッド』、『リコリス・ピザ』、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、『ザ・マスター』等々、毎回全く違った作品で驚かせてくれるポール・トーマス・アンダーソン監督の新作は、アクション、コメディ、ポリティカル・サスペンス、クライム、ロマンス、ファミリードラマ、サイコロジカル・スリラー……とどのジャンルでとらえても抜群に面白い一作となりました! エンドクレジットに Inspired by Thomas Pynchon “Vineland” とあるように、トマス・ピンチョンの大ファンで以前『LAヴァイス』(映画名『インヒアレント・ヴァイス』)も映画化したアンダーソン監督が、ピンチョンの了承を得て『ヴァインランド』(新潮社刊)の“本当に心に響いた部分を「盗んで」、これらすべてのアイデアをひとつにまとめ”て作った映画だとのこと(プレスシートより)。時代設定も現代に変えています。


 監督の出世作『ブギーナイツ』の主演を断ったことをいまだに後悔しているというディカプリオ扮する主人公ボブは、ダメダメ親父だけれど娘への愛情は世界一。ショーン・ペンが演じるロックジョーの登場場面がとにかく衝撃的なのに対し、“センセイ”デル・トロが出てくるとほのぼのします。あ、それからトニー・ゴールドウィンがいかにも! という役で登場します(笑)。百聞は一見にしかず。162分、映画館で物語にとことん没頭してください!


 

タイトル:映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』

公開日:10月3日(金)全国公開 IMAX®/Dolby Cinema®同時公開

配給:ワーナー・ブラザース映画

コピーライト:© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
        IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
        Dolby Cinema® is a registered trademark of Dolby Laboratories
 
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◆映画『ワン・バトル・アフター・アナザー』30秒予告|2025年10月3日(金)公開◆

♪akira
 翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2025年8月には、リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(羽田詩津子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)と、ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの慧眼』(田村美佐子訳/創元推理文庫)の解説を担当しました。
 Twitterアカウントは @suttokobucho










 

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