今月もこんにちは! 先月はC・J・ボックス『暴風雪』(野口百合子訳/創元推理文庫)も読みました。今回の謎とその真相はジョーとネイトにはまったく予想外だったのでは。それにしても某義母(バレバレ)の暴走、「ついに一線を超えた」……って今までもとっくに超えてるよ!! とツッコミを入れずにはいられませんでした。次作も期待してます!
*今月の作者の実体験ベース本*
L・M・チルトン『死のマッチング・アプリ』(山田佳世訳/ハヤカワ文庫)
最愛の恋人と新生活を始める矢先、ある理由で破局を迎えたグウェンは、ルームメイトで親友のサラが結婚で家を出ていくのに新しい同居人を探すこともせず、マッチング・アプリに入れ込んでいました。ある日新しい相手とマッチングしたら、かつてデートした相手が殺されていたことがわかります。それはやがて連続殺人事件へと発展し、警察はグウェンを第一容疑者に! 失恋の痛手から立ち直れないグウェンがやぶれかぶれでデートした相手が次々に殺されていくたびに、失敗したデートの顛末が明かされるのですが、そのどれもが痛々しいというかムカつくエピソードで、どいつももののみごとにクズ男ばかり。でもそんな奴らでもこんな目にあわされてはいけない! と全力で犯人探しをするグウェンって、いいひとだなあ(でももうちょっと気をつけたほうがいいと思う)。作者のチルトンさんは元デート中毒者で、数年間に百回以上デートした実体験が反映されているとかいないとか。謝辞も必読です!
*今月の豪華客船クルーズ本*
ドーン・ブルックス『地中海クルーズにうってつけの謎解き』(田辺千幸訳/創元推理文庫)
婚約者に手ひどく裏切られた新米警察官のレイチェルは、親友サラが看護師として勤務している豪華客船コーラル・クイーン号で地中海クルーズを楽しむことに。非日常の休暇で少しずつレイチェルの傷は癒やされていきますが、魅力的な男性からのアプローチはまだ受け入れられる心情にはなれません。しかし観光に降りた寄港地で不審死が起きてしまい、船で親しくなった老婦人と関係があるとわかると、事件を調べ始めることにするのです。なんと今月は“失恋の痛手に苦しむ主人公”と“主人公の親友がサラ”案件がふたつも! それはともかく、クルーズ旅行って興味はあるけどどんな感じなのかなあと思ったことがあるなら、本書をぜひ。これを読む限り、二週間の船旅なんてあっという間に過ぎそうです。レイチェルとサラの信頼関係もいいし、年齢関係なくレイチェルとマージョリーがお互いを気遣う様子も素敵な、仕事で疲れた時などに最適なコージーミステリ。〈警官レイチェルと看護師サラの事件簿〉シリーズとして次作も刊行予定とのことで、楽しみにしてます!
*今月のそうだったのか!本*
キャサリン・ライアン・ハワード『罠』(髙山祥子訳/新潮文庫)
妹のニッキが失踪してから約一年。他にも若い女性が失踪する事件が起きていましたが、誰の消息も不明なままでした。ところが最近、拉致された場所から逃げ出したと思われる女性が発見されたのです。にわかに過去の事件にスポットライトが当たりますが、ニッキの居場所はいまだに分からずじまい。姉ルーシーは単独で犯人を探す危険な決意を固めます。同じように失踪しても、関心を持たれる対象とそうでない対象がいるという辛い現実を突きつける本書。残された家族の苦しみをあざわらうかのように、はさみこまれる犯人のモノローグが読者の恐怖を煽ります。そして最後に待ち受ける驚きの真相。またしてもやられた!と思うこと間違いなしの一冊です。
*今月のイチオシ本*
サリー・ヘプワース『グッド・シスター』(梅津かおり訳/小学館文庫)
図書館で働くファーンは、十二歳の時、オーバードーズになった母親から離され、複数の里親に預けられました。それから十六年、双子の姉のローズは結婚しましたが、二人は今も必ず週に三回会う仲。ファーンは、偶然姉が不妊に悩んでいることを知り、あることを思い付きます。規則正しい生活を送ることが必要な妹と、妹を見守ることが自分の使命だと思う姉。ファーンの前に風変わりな男性ウォーリーが現れたことで、二人の日常は少しずつ変化していくのですが、読んでいる途中からなんとなくおかしいなと思っていたなにかがだんだんと浮かび上がってきて、不安な気持ちにどんどんと拍車がかかっていくことに。その先に待ち構える恐るべき真相にはかなりの衝撃を受けるのではないでしょうか。帯に〈不気味、優しさ、ユーモアという不可能な三拍子を成立させている〉とあるのですが、まったくそのとおり! 読んだ後、いろいろな考えが頭に浮かぶ一冊なので、読書会にもお勧めしたいと思います。
*今月の新作映画*
『カーテンコールの灯』(6月27日(金)公開)




イリノイ州ウォキーガンに住むダン(キース・カプフェラー)と妻のシャロン(タラ・マレン)は、娘のデイジー(キャサリン・マレン・カプフェラー)が問題を抱えていることを理解しつつも、それにどう向き合っていけばいいのか答えを出せないまま、家族の仲はぎくしゃくしていました。ある日ダンが路上で建設作業をしていると、アマチュア劇団の団員リタ(ドリー・デ・レオン)に声をかけられます。気がついたら団員として参加させられていたダンは、最初は戸惑っていたものの、家族に内緒で練習に通ううち、次第にやりがいを感じるようになっていきます。ある日団員同士のトラブルにより、上演予定の『ロミオとジュリエット』でダンはいきなりロミオ役に抜擢されることに。ところがそれはダンと家族の悲しい出来事をまた思い出させるきっかけになってしまったのです。




家族を襲った突然の悲劇から立ち直れない娘。やっと見つけたと思った居場所で、辛い記憶を呼び戻してしまった父親。元の家族に戻そうと孤軍奮闘する母親。一体この家族に何が起きたのかは最初わからないのですが、それが判明したとき、この家族がバラバラになってしまった理由が痛いほど伝わってきます。そんな家族が、父親の新しい挑戦とそれを後押しすることで、再びつながりを取り戻していく様子が丁寧に描かれます。最近、小説でもドラマでも、事件のみならず、被害者の家族や加害者の関係者に焦点を置く作品が増えてきたように思います。本作はミステリではありませんが、事件の影にはこうした悲しみを抱え続けている多くの人々がいることを思い出させてくれる作品です。希望を見出せるラストをぜひ。




作品タイトル:『カーテンコールの灯』
公開表記:6月27日(金) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下他全国公開
コピーライト:©2024, Ghostlight LLC.
映倫:PG-12
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監督:ケリー・オサリヴァン、アレックス・トンプソン(『セイント・フランシス』)
脚本:ケリー・オサリヴァン
出演:キース・カプフェラー、キャサリン・マレン・カプフェラー 、タラ・マレン、ドリー・デ・レオン
2024/アメリカ/115分/英語/5.1ch/カラー
原題:
Ghostlight
日本語字幕:小坂 志保
PG-12
配給:AMGエンタテインメント
公式サイト:
amg-e.co.jp/item/curtaincall
公式X:
@curtaincall0627
■『カーテンコールの灯』予告|6月27日公開■
♪akira |
翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
Twitterアカウントは @suttokobucho 。
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