今月もこんにちは! デイヴィッド・ケーニッヒ『刑事コロンボとピーター・フォーク:その誕生から終幕まで』(白須清美訳/原書房)を読み始めたところです。あの有名なコートの誕生秘話とか、なぜエド・マクベインのあの小説だけが原作として使われたのかとか、興味深いエピソードが満載。当時のTV事情に出てきた『ラバーン&シャーリー』とかめちゃくちゃ懐かしい!

*今月のシン・競馬ミステリ本*
フェリックス・フランシス『覚悟』(加賀山卓朗訳/文春文庫)

 今のように周囲に翻訳ミステリ好きや本仲間がいなかった10代の頃、色別のハヤカワ文庫とマーク入りの創元推理文庫の背表紙は次に読む本を見つけるのに大変役に立ちました。黄色(マクベイン)を制覇したから次はこれだ!と手に取ったのは緑色に漢字2文字のシリーズ。競馬について全く知らなくても、ディック・フランシスの諸作はどれもこれも間違いのない面白本でした。息子のフェリックスによる新シリーズは、やはりフランシスといえば! のシッド・ハレーもの。調査員を引退したハレーを訪ね、レースの不正に関する調査を頼んできた英国競馬統括機構の会長が不審な死を遂げます。依頼を断ったものの気になったハレーが調べ始めようとすると、不吉な脅迫電話がかかってきたのです。時代背景が現代に置き換わっていたのに全く違和感なく読めたのにも嬉しい驚きでしたが、敵があまりにも卑劣すぎて読んでいるこっちのはらわたが煮えくりかえりそうになるところ、一旦落ち着いて効果的な戦略を練りなおすハレーの頼もしさにかつてのシリーズの爽快感と興奮が再び甦りました。情けないことに内容はほとんど覚えていなかったのに、そうだったチコ! いたいた! 懐かしい!! と嬉しくなったのは私だけではないのでは。

*今月のネット炎上本*
ダーヴラ・マクティアナン『#ニーナに何があったのか?』(田辺千幸訳/ハーパーBOOKS)

 5歳のときに出会って以来、ずっと一緒だったニーナとサイモンが恋人になったのは16歳のとき。そして大学生になった今、休暇で滞在しているサイモンの別荘でニーナは彼に別れを切り出そうとしています。それから数日後、娘から連絡が途絶えたニーナの両親は、なぜか一人で帰宅していたサイモンに事情を聞くと、彼は別荘でニーナに振られて以来消息は知らないとの一点張り。ニーナの両親は警察の助言でTVで記者会見を開くのですが、それが地獄のような日々の始まりだったのです。しょっぱなからどう考えても元カレが怪しい! と思いつつ、でもそんなストレートな展開でこのボリュームは……などと考えながら読み進んだ本書は、SNSやネット動画による誹謗中傷や陰謀論がものすごい勢いで拡散される恐怖を描いた、オーストラリア産イヤ系サスペンスの逸品でした。ラストは某有名映画を思い出す人もいるかもしれません。

*今月の謎のホテル本*
エイミー・チュア『獄門橋』(吉野弘人訳/ハヤカワミステリ)

 舞台は1944年のバークレー。上流階級が集う名門ホテルで、次期大統領候補が不気味な状態で殺されます。市警の刑事サリヴァンが捜査を始めると、容疑者にあがったのは地元の名家の3人の娘たち。実は14年前にそのホテルでは、一家の7歳の少女が不審死を遂げていました。それが今回の事件となんらかのつながりがあるとにらんだサリヴァンは、真相を突き止めようとしますが……。第二次大戦時の史実を交えた警察小説の本書はノワール風味も濃厚。そうそう、ノワールの主人公って結局甘いんだよねえ(苦笑)とサリヴァンにハラハラしつつ、時代設定が近いせいか、ジェイムズ・ケストレル『真珠湾の冬』を思い出したり。ホテルを舞台にした、ある一族の波乱万丈の物語として本書が気に入ったひとには、アダム・オファロン・プライス『ホテル・ネヴァーシンク』もぜひオススメしたい! しかし原題 The Golden Gate『獄門橋』というタイトルにするとは、なんという英断! ミステリファンなら絶対無視できないですよねえ(笑)。

*今月のドキドキ本*
アシュリー・ウィーヴァー『金庫破りの謎解き旅行』(辻早苗訳/創元推理文庫)

 好調シリーズ第3弾。凄腕金庫破り兼新米スパイ(?)のエリーは、英国陸軍少佐ゲイブリエル・ラムゼイの依頼で、英北部サンダーランドでの諜報活動の手伝いを引き受けます。空襲が途切れないロンドンを離れ、重大な任務を任されたことで期待に胸を膨らませるエリーでしたが、現地に着くや否や危険な目に遭う羽目に。しかもその後、助けてくれた男性が突然死ぬのを目撃してしまいます。スパイの対象も目的も知らされていないエリーは、自らの判断で周囲に目を光らせるのですが……。さてさて、ファンの皆様の最も気になるのはスパイ活動? それともエリーと少佐とフェリックスの恋バナ? その両方が楽しめるのが本シリーズのいいところ。少?しずつ距離を縮めはじめたふたりを襲う危機また危機。今回はついに(以下略)。どちらのファンにも乞うご期待な本書は、柿沼瑛子先生による楽しい解説も読みどころ。自分は『エロイカより愛をこめて』の「皇帝円舞曲」がお気に入りなので、ラムゼイ少佐はまだまだだなあ、せいぜい頑張りたまえ、などと偉そうに思ってしまうのですが(笑)。

*今月のイチオシ本*
セレステ・イング『密やかな炎』(井上里訳/早川書房)

 安全で、教育水準が高く、もちろん差別などない、誰もが幸せな家庭生活を送っている美しい町、シェイカー・ハイツ。その町の在り方を体現しているようなリチャードソン一家の屋敷が炎に包まれている場面で物語は始まります。弁護士の父親、ローカル紙に記事を書く、厳格だが社交的でもある母親、成績優秀で華やかな長女、運動部の花形の長男、優しいが内向的な次男、そして反抗心旺盛な末娘。裕福な一家を突然襲った悲劇は、11ヶ月前、芸術家のシングルマザーと高校2年生の娘が、一家の持つ借家に移り住んできたこととどんな関係があるのでしょうか。
 数年前にドラマ版を観た時、あまりに衝撃的な物語で言葉を失いました。それ以来、絶対に原作を読みたい!と思い続けてやっと願いが叶いました。その期待をはるかに上回る見事な小説で、ついに読むことができて本当に嬉しいです。訳者あとがきで初めて知って驚いたのは、ドラマでケリー・ワシントンが演じたミアと、娘パールが原作では黒人でなかったということ。インタビューでの作者の言葉を読み、とても真摯なひとなのだと強く感じました。すぐれた読み手として知られるリース・ウィザースプーンが製作総指揮を担当し、主人公エレナ・リチャードソンも演じており、第4話はアッティカ・ロックが脚本を書いています。ドラマは現在配信されていませんが、再開を楽しみにまずは原作をぜひ読んでみてください。
 
*今月の新作映画*
『Mr.ノボカイン』(6月20日(金)“痛くな~い”公開)

 主人公は小さな銀行の副支店長ネイサン(ジャック・クエイド)。相談に来たお年寄りをむげに断れず、貸付の期限を伸ばすような真面目で心優しい物静かな青年です。彼は痛みを感じることができないという遺伝生の疾患を持って生まれたため、子供の頃から危険を回避するよう、細心の注意をはらっていました。ところがある日、密かに思い続けていた同僚のシェリー(アンバー・ミッドサンダー)から声をかけられ、生涯最初のデートをすることに。夢のような一夜から一転、勤め先の銀行が強盗一味に襲われ、最愛の彼女が人質として連れ去られてしまいます。怪我をしたら命の危険に晒されるとわかりつつ、ネイサンは全てを投げ打ってシェリーの救出に向かうことを決心します。




 まず最初に大切な注意事項です。この映画のアクションシーンは〈痛い〉です!!! かなり痛そうなシーンが続出なのですが、ヤバそうなときには目をつぶるなどして、ネイサンの一途さと頑張りを応援してほしいです。ネイサン役のジャック・クエイドは『ザ・ボーイズ』ではお父さんのデニス・クエイドに似てるなあと思っていたのですが、本作で見せる表情と演技はお母さんのメグ・ライアンを彷彿とさせます。そしてネイサンのお友だち役を『スパイダーマン』シリーズのピーターの親友ネッド役で観客をほっとさせるジェイコブ・バタロンが演じていて、今回もいい奴なんですよ?。最後に、もちろんこれは映画なので現実でここまで無茶をする人はいないと思いますが、前述の『覚悟』でもハレーや騎手仲間が現役中に受けた傷に長年悩まされているように、怪我は歳をとってから痛むこともあるので、くれぐれも気をつけましょう!



 


タイトル: 『Mr.ノボカイン』
公開:6月20日(金)“痛くな~い”公開
コピーライト:©2025 PARAMOUNT PICTURES.

監督:ダン・バーク&ロバート・オルセン
出演:ジャック・クエイド(「ザ・ボーイズ」シリーズ、『オッペンハイマー』)、アンバー・ミッドサンダー(『プレデター:ザ・プレイ』)、
レイ・ニコルソン(『プロミシング・ヤング・ウーマン』)、ジェイコブ・バタロン:(『スパイダーマン』シリーズ)
全米公開:3月14日 
日本公開:6月20日 
原題:Novocaine 
配給:東和ピクチャーズ
コピーライト:©2025 PARAMOUNT PICTURES.

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■映画『Mr.ノボカイン』【予告】祝!R15認定 メガ盛編|6月20日(金)公開■

 
 

♪akira
 翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho








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