今月もこんにちは! 今回も、病院の待ち時間が苦にならないような作品が目白押しです。←ほんと助かりました

*今月の復刊本*
C・J・ボックス『沈黙の森』(野口百合子訳/創元推理文庫)

 待ってました! 猟区管理官ジョー・ピケットのシリーズ第1作が復活! 自分は東京創元社版から読み始めたので(それでも全く問題なく毎回面白く読んでます!)物語がどうやって始まったのか興味津々。新米猟区管理官のジョーは冒頭からいきなり町中の笑い物になる大失態をやらかし、さらにはその相手がジョーの家の庭で死体となって見つかります。なるほど、ジョーは最初から困難続きだったんですね(苦笑)。家族はまだ3人で、妻メアリーベスは妊娠中。なんと初回から最強(最凶?)義母ミッシーが出てくるんですが、意外なことにまだ小物(笑)。最新刊を読んだ後なので、ああ、娘たちはこうやって今の性格になったのかと思ったり、いろんな意味で楽しめる一冊です。著者による序文も必読ですよ! 
 
*今月の特殊職業本*
C・S・ロバートソン『特殊清掃人 グレイス・マクギルと孤独な死者たち』(菅原美保訳/集英社文庫) グラスゴーで事件や事故のあった部屋の特殊清掃を生業としているグレイス。死後数ヶ月も経った孤独死を扱う時などは、遺体の残留物が病原菌で汚染されている場合もあり最高ランクの注意が必要ですが、彼女は一人で完璧に仕事をこなします。ある日、孤独死した高齢者の現場で、他の案件との奇妙な共通点に気づいたグレイスは、自分なりのやり方で調査を始めるのですが……。ふと気になったことが過去の未解決事件につながるという謎解きパートもぐいぐい読ませる本書ですが、とにかくグレイスの行動が気になって気になって。後半で明らかになる事実には相当びっくりすること間違いなしです。読了後、作中に出てくるThe Beatles“Eleanor Rigby”の歌詞を再度思い出しました。なおグレイスは心を落ち着かせるために現場の忠実なミニチュア模型を作っているという設定なので、昨年出たケイティ・ティージェン『事件現場をドールハウスに』(杉田七重訳/創元推理文庫)もぜひ併せてどうぞ。

*今月の家庭の危機本*
フェリックス・フランシス『勝機』(加賀山卓朗訳/文春文庫)

 1行目から衝撃! 前作『覚悟』であんなひどい目にあったシッドが、今回はいきなり家庭の危機!! まあねえ、確かにあんな事件があったら家族も気が気じゃない。子どもだった小さいし、妻マリーナの気持ちはよーくわかる……なあんて思ってたら、理由はそっちなのか! てなわけで突然離婚の危機に直面したシッドに、追い打ちをかけるように旧い知り合いの調教師から謎の調査依頼が。雲を摑むような内容に一旦は断ったシッドでしたが、翌日ノース・ヨークシャーの厩舎で火災が発生したと報道が。そこは件の調教師の厩舎だったのです。前作に負けず劣らずの凶悪で卑劣な敵に立ち向かうシッドですが、今回はそれどころではないのでは! と、ハレー家崩壊の危機にヒヤヒヤしながら「早くチコ呼んで解決しようよ!」「てかこの被害者、考えなしすぎる!」と勝手な横槍を入れながら手に汗握って最後まで一気に読みました(笑)。いやしかし、チャールズもお疲れさまでした!
 
*今月の脅迫状本*
ジョー・ハート『罪人に死を』(仁木めぐみ訳/ハヤカワ文庫) えーっと、まずはジョン・ハートの新作だと勘違いしていてすみません! 父親を気づかって故郷に戻ってきた推理作家のアンディの元に、不倫をやめるよう脅す内容のメモが届きます。バツイチの彼は、学生時代に憧れだったレイチェルと秘密の情事を重ねていたのです。ところがその数日後にレイチェルと子どもたちが失踪。さらに、町の有力者である彼女の夫が殺害される事件が起きます。不倫相手が自分だとバレれば当然第一容疑者になるアンディは、まずは脅迫状を書いた人物を探すのですが……。レイチェルの安否を心配しつつ、生まれた時から見知った住民たちの中に、脅したり、殺人を犯したりする人物が潜んでいることに疑心暗鬼に陥るアンディには、家族の心配ごとものしかかっています。きょうだい間の出来事のくだりでは、先月紹介したジョン・グリシャム『判事の殺人リスト』(白石朗訳/新潮文庫)を思い出しました。次々に起こる殺人事件の不気味さと、日々つのっていく不安、そして意外な真相。エドガー賞最優秀ペイパーバック賞受賞もなるほどの一冊です!

*今月の被害者本*
ノエル・W・イーリ『アンドレアを呼んで』(依田よう訳/ハーパーBOOKS)

 語り手は3人の女性。彼女たちの共通点は、同じ男に殺された被害者ということ。言葉巧みに近寄ってきたシリアルキラーの毒牙にかかり死者となってから、相手がいかに狡猾に犯行を隠していたかがわかった彼女らは、それぞれ別々に、自分の事件の捜査状況を見守ったり、犯人の家族に近づいたりするのですが、呪うことはおろか、存在さえも気づいてもらえないことに悔しさを感じます。ところがある日、3人が出会う日が来るのです。この設定から幽霊ホラーと思われるかもしれません。が、帯でカリン・スローターやフリーダ・マクファデンが推薦しているように、本書は地に足のついたスリラーであり、胸熱のシスターフッドなのですよ! 自分は以前から、連続ドラマ『クリミナル・マインド』は面白いのだけれど、チームが現場入りする前までの被害者たちが、単なる数だけで語られるのがちょっと残念だなあと思っていて。50分弱に収めるためなので仕方ないのですが、本書は死んでしまった被害者たちの無念と、関係者たちの執念を丁寧に描いているのがとても良かったです。タイトルが秀逸!

*今月のイチオシ本*
エリーザ・ホーフェン『暗黒の瞬間』(浅井晶子訳/東京創元社)

 読み終わった時、それまで息を止めていたことに気がつくような、凄まじいほどの面白さ! もしかして今年の年末ベストはもう決まったといっても過言ではないかもという恐るべき一冊です。主人公はベテランの刑事弁護士。いままで手がけてきた中でも忘れがたい9つの事件が連作短編として描かれるのですが、どの事件も、読者の側でも忘れられない結末が待ち受けています。プルーフを読んだ前評判では「少年兵」「人食い」が話題になっていましたが、自分は「塩」に一番衝撃を受けました。シーラッハのファンの人もそうでない人も、とにかく読んでみてください。力一杯おすすめです!!

*今月の新作映画*
『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』(2月27日(金)公開)




 お決まりのパパ活終了後、ユダヤ教のお葬式“シヴァ”に向かうよう親から連絡を受けたダニエル(レイチェル・セノット)。両親とは相変わらずのやりとりで、一体誰が亡くなったのかもわからないまま現地に到着。適当に話を合わせてその場を切り抜けようとしていたダニエルでしたが、そこには仲がこじれた元カノのマヤ(モリー・ゴードン)も来ていました。ロースクールに合格した成績優秀なマヤに対し、イマイチ自分に自信がないダニエル。そんな彼女を知ってか知らずか、ずけずけとものを言う親戚たちにウンザリしたダニエルにまたもやピンチ到来。なんとパパ活相手のマックスが、ゴージャスな妻と赤ん坊を連れて会場に現れたのです。



 気まずさといえば英国コメディ『The Office(ジ・オフィス)』。あの気まずさに勝てるものはないと思っていましたが、なかなかどうして本作も相当なもの。なぜそんなことに!と観ているこっちが冷や汗をかきそうな展開で、とにかくやることなすこと裏目に出るダニエルに、追い打ちをかけるような親類一同の、人の話全然聞いてない攻撃(?)としつこいスキンシップ。誰でも少なからずなにかしら覚えがあるような場面に苦笑しながら、どういう結末が待ち受けているのか、固唾を飲んで見守ってください!


『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』

監督・脚本:エマ・セリグマン 
出演:レイチェル・セノット、モリー・ゴードン、
  ダニー・デフェラーリ、ダイアナ・アグロン、
  ポリー・ドレイパー、フレッド・メラメッド 
製作:エマ・セリグマン、リジー・シャピロ、ケイティ・シラー、
 キーラン・アルトマン
撮影監督:マリア・ルーシェ
編集:ハンナ・パーク プロダクション・デザイン:シャイアン・フォード
音楽:アリエル・マルクス
衣装デザイン:ミシェル・J・リー
2020|78分|英語|アメリカ、カナダ
原題:Shiva Baby|字幕翻訳:内海千広 <G>
©2020 SHIVA BABY LLC. All Rights Reserved. 
配給・宣伝:SUNDAE

Instagramhttps://www.instagram.com/sundae_films/
Xhttps://x.com/shivababy_jp
公式サイトhttps://sundae-films.com/shiva-baby/

 
◆映画『Shiva Baby シヴァ・ベイビー』予告編◆

♪akira
 翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2025年8月には、リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(羽田詩津子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)と、ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの慧眼』(田村美佐子訳/創元推理文庫)の解説を担当しました。
 Twitterアカウントは @suttokobucho








 


 

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