今月もこんにちは! デパ地下巡りをしていると、なんか今年はクリスマスケーキよりもおせちの方がフィーチャーされているような気がする今日この頃です。翻訳ミステリ年末ベストの第一弾、ミステリマガジン「ミステリが読みたい!」の結果はどうなっているでしょうか。ワクワク♪

*今月の競馬シリーズ本* 
フェリックス・フランシス『虎口』(加賀山卓朗訳/文春文庫)

 主人公は、田舎のいち弁護士から、ロンドンにある謎めいて刺激的な職場〈シンプソン・ホワイト・コンサルタンシー〉に転職したハリイ・フォスター。今回の仕事は、由緒ある厩舎の火災事件の調査。彼のクライアントであるアラブのシーク・カリムが馬主だった有名な競走馬も犠牲になっていたのです。被害を受けた調教師の一族は、競馬にはとんと疎い都会者に首を突っ込まれたくない様子ですが、それ以上の何かを感じたハリイが調査を進めると、どうやらその家族には予想以上にきなくさい秘密が隠されている模様。やがて火災現場で遺体が発見されてしまいます。
 シッド・ハレーものではない新・競馬シリーズ第二弾の本作は、犯人探しと家族の秘密というミステリ要素だけでもかなり満足度が高いのですが、それに加えて、物語に必然性のある(←これは大事!)恋愛エピソードと、競馬関連トリヴィアも楽しめる上に、なんといっても冒頭の適性検査がすこぶる楽しい! 本書が課題のオンラインスリラー読書会では、これをシリーズものにしてほしいという人がやはり多くいました。私ももちろん続編熱烈希望です!

*今月の密室本*
トム・ミード『空に浮かぶ密室』(中山宥訳/ハヤカワミステリ)

 弁護士のイブズは、観覧車のゴンドラで夫を射殺した容疑がかけられている夫人の話から、関係者と話したり目撃者を探したりと手を尽くしますが、はかばかしい結果は得られないまま。思い切ってロンドン警視庁のフリント警部補(甘いもの好き)に直接接触を図ったところ、元奇術師の私立探偵、スペクターを推薦されるのですが、実はイブズは大の奇術好き。そこで奇術ショーを見に行ったところ、なんと舞台上で殺人事件が起きてしまいます。
 帯に〈密室に次ぐ密室!〉とあるように、まさに空前絶後の密室祭りの本書。密室好きにはこたえられない一冊ですが、そうでなくてもこの真相にはきっと「そうだったのか!」と膝をうつこと間違いなし。自分はクレイトン・ロースンも大好きなんですが、魔術とミステリって本当に相性がいいですよねえ。ラストの一撃もなかなか。ところで作中の“和蘭芥子と玉子のサンドイッチ”って、egg and water cress sandwich ですよね。これイギリスのアフタヌーンティーによく出てきますが、大抵のスーパーやキオスクにも置いてあるのでぜひ。シンプルだけど紅茶と合いますよ!

*今月の最強バディ本*
アリスン・モントクレア『奇妙な花嫁候補』(山田久美子訳/創元推理文庫)

 重い病気で余命わずかの自分が死んだら夫に配偶者を探してほしいという女性の依頼に、グウェンとアイリスは胸をうたれます。ところがその数日後、件の女性が森の中で遺体で発見されたのです。みんな大好きロンドン謎解き相談所シリーズの第5弾は、またまた二人は殺人事件に巻き込まれてしまいます。ですがグウェンにはこれからの自分の運命が決まる審理が目前に控えており、アイリスは単身、依頼と事件を片付けようとしていたところ、学生時代にわけありだったトレヴァーと偶然再会。今はギャングのアーチーと恋仲にあるアイリスと、サリーと順調におつきあいを重ねていたグウェンでしたが、事件以外にも難問が山積みとなってしまいます。特にグウェンの審理に関しては、シリーズ中最も緊張しました。一体どんな展開なのか、ぜひ読んでお確かめくださいませ。そうそう、実はもう一つ依頼案件があったのですが、このオチがいいんですよ! ヘヴィな内容でちょっと気落ちしたところで、一服の清涼剤となりますので、こちらもお楽しみに。

*今月のイチオシ本*
ジェフリー・アーチャー『消えた王冠は誰の手に』(戸田裕之訳/ハーパーBOOKS)

 巻が進むごとに主人公ウィリアムが昇進していくシリーズ最新刊。副題は前作『狙われた英国の薔薇』と同様〈ロンドン警視庁王室警護本部〉で、今回は警視となったウィリアムは、議会の初日、エリザベス女王が開会スピーチをする際に必要な王冠を、ロンドン塔から議事堂まで移送する重大な役目を背負っています。その情報を入手した、ウィリアムの宿敵マイルズ・フォークナーは、なんとしてでもその任務を失敗させ、ウィリアムと彼の仲間たちを失脚させる作戦を練ることに。ところがマイルズの知らないところで、ある問題が起きていたのです。
 毎回楽しみにしているシリーズですが、本書は読み終わって「さすがアーチャー!」とめちゃくちゃ嬉しくなりました。というのも、あの名作『百万ドルを取り返せ』を彷彿とさせるような作品なんですよ! 本筋の王冠輸送ミッションもそうなんですが、マイルズの元妻クリスティーナのエピソードも、予想外に二転三転する面白さ! そして本書にはサスペンス要素も。前作でダイアナ妃の警護をしたロスが、ある理由で窮地に落ちいる羽目になるのです。ロスって実は脇が甘いんじゃね? と常々思っていたのですが、今回「やっぱり」と確信しました(笑)。しかしなんといっても今回最も嬉しかったのは、早めに真相がわかったこと。あそこといえばアレですよねえ。ま、これはアーチャー先生のファンサービスだったのかもしれません。なお本書単体でもじゅうぶん楽しめますので、既刊未読のひともぜひ!
 
*今月の新作映画*
『エディントンへようこそ』【2025年12月12日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開】



 
 コロナ禍でロックダウンが長期化し、住民たちのイライラが募るばかりの小さな町エディントン。保安官のジョー(ホアキン・フェニックス)は、ノーマスクの住民の一人が入店を断られる場面に遭遇します。自身もマスクをしないジョーは、住民たちの冷たい視線をよそにそのまま店内で買い物を済ませますが、そこに市長のテッド(ペドロ・パスカル)が現れ、マスクをするようジョーに迫ります。日頃から彼と意見があわないジョーは、突然自分も市長選に立候補することに。



 家に帰れば、陰謀論にハマった義母(ディードル・オコンネル)と謎の人形作りに励む妻ルイーズ(エマ・ストーン)と、噛み合わない会話をする毎日。愛する妻には努力を惜しまないジョーでしたが、やがて義母の勧めから、ルイーズはカルト宗教の教祖ヴァーノン(オースティン・バトラー)に傾倒していき、町はSNSのガセ情報と暴力で荒廃の一途を辿っていきます。



『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の最新作は、新型コロナがもたらした災厄のうち、分断や疑心暗鬼、盲信など、あきらかに人災と呼んでいいあれこれが、ドミノ倒しのように最悪に向かって突き進んでいくさまを描いたサタイアですが、今の時代、これが完全にフィクションとは言い切れないのが恐ろしいところです。ところでルイーズの作るあの微妙な人形、ちょっと気になりませんか?



 

タイトル『エディントンへようこそ』
監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス、ディードル・オコンネル、マイケル・ウォード
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:EDDINGTON
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|2025年|アメリカ映画|PG12|148分
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2025年12月12日(金)
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
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▼公式サイト・SNS各種
公式HPhttps://a24jp.com/films/eddington/
公式twitterhttps://x.com/A24HPS
 #エディントンへようこそ

 
■12.12公開/映画『エディントンへようこそ』予告編■

 

♪akira
 翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2025年8月には、リチャード・オスマン『木曜殺人クラブ』(羽田詩津子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)と、ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの慧眼』(田村美佐子訳/創元推理文庫)の解説を担当しました。
 Twitterアカウントは @suttokobucho








 

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