今月もこんにちは! つい先日、アマゾンプライムビデオでは私立探偵となったハリーが主人公の『ボッシュ:受け継がれるもの』、ネットフリックスでは『リンカーン弁護士』が配信開始。そして今週はもう『The Boys』のシーズン3が始まるんですけど!! 頑張るぞ!!!<?
*今月の応援本*
アレン・エスケンス『過ちの雨が止む』(務台夏子訳/創元推理文庫)
あまりに厳しい現実に直面しながらも真摯に生きようとする主人公ジョーのひたむきさが鮮烈な印象を残した青春ミステリ『償いの雪が降る』の続編がついに出ました! 大学を卒業してジャーナリストの道を歩み始めたジョーでしたが、ある日自分の書いた記事が予想外のトラブルを引き起こすことに。それに追い打ちをかけるように、今度は自分と同姓同名の男が不審な死を遂げたことを知ります。もしや幼い自分を捨てた父親では? 複雑な気持ちを抱え、ジョーは事件現場の町を訪れるのですが……。前作でジョーの精神的な成長を見守っていた方は、ぜひ本書も読んでください!! 社会人となり新生活を始めた彼は、大人としてあらたな悩みを抱え、大きな決断を下すことになるのです。前作同様、心からエールを送りたくなる作品です!
*今月の異国情緒本*
ネヴ・マーチ『ボンベイのシャーロック』(高山真由美訳/ハヤカワ・ミステリ)
舞台は19世紀末のボンベイ。裕福な家の女性二人が時計塔から転落死する事件が起きます。軍を除隊したジムはその事件に興味を抱き遺族に会いに行ったところ、なんと事件の調査を依頼されるのでした。戦争で負った傷の療養中に『四つの署名』をむさぼるように読み、名探偵ホームズに心酔したジムは、師匠の教えに倣って調査を始めます。我こそはホームズの弟子!と真相究明を目指す素人探偵の物語は星の数ほどありますが、本書の主人公はまさにリアル刊行時にハマった一人。師匠仕込みの推理はもちろん、危機また危機の波瀾万丈な展開も読みどころです。そして特にロマンス読みの方々! 気になる要素が盛りだくさんですよ!
*今月のチャレンジ本*
ジャニス・ハレット『ポピーのためにできること』(山田蘭訳/集英社文庫)
“読者への挑戦”と聞いただけで胸が高鳴るあなた、何も考えずにすぐさま読むべし! 謎解きとか苦手だしなあ……と躊躇するあなた、これが読み始めたが最後、途中で止めろといわれても気になってやめられない一冊なんですよ! じゃあどんな内容なんだと聞かれても、とにかく【何の予備知識もない状態で】読むのが一番! ……なんですが、とりあえず、イギリスの田舎町・素人劇団・クラウドファンディングがキーワード。読者に与えられるのは膨大な資料(主にメールとチャット)。これが滅法面白い! 騙されたと思って(騙してないけど)チャレンジしてみてください。
*今月のイチオシ本*
ドン・ウィンズロウ『業火の市』(田口俊樹訳/ハーパーBOOKS)
1986年、ロードアイランド。アイルランド系マフィアのドンの娘と結婚し、ファミリーの一員となったダニー。実はそのファミリーは元々ダニーの父がトップについていたのですが、酒に溺れてその地位を失ったのです。ギャングの身ながらそこそこ平穏に暮らしていたダニーと周囲の人々でしたが、ある女性の出現が彼らの運命を劇的に変えてしまいます。ファミリーの厳しい掟、家族の厄介者、血で血を洗う抗争と復讐の連鎖など、『ゴッドファーザー』をほうふつとさせる濃密な物語ですが、なぜか本書にはふしぎな清涼感も感じられました。それは主人公ダニーがヤクザという特殊な世界でも、家族愛や友情という自然な感情を忘れていないからかもしれません。本書は三部作の一作目ですが、自分はダニーの成長小説としても大変面白く読んだので、続編がとても楽しみです!
*今月の新作映画*
『狼たちの墓標』(5月27日より公開中)
2018年の平昌オリンピックを目前に大規模開発が進むビーチリゾート地、江陵。地元組織の幹部キルソク(ユ・オソン)は昔気質のヤクザで、警察とも友好な関係を築きあげ、町を治めていました。ある日、新興勢力のミンソク(チャン・ヒョク)が現れ、開発利権を奪うため争いを仕掛けてきます。凶暴で非情なミンソクには、キルソクが重んじていたヤクザ社会の義理と掟など何の意味もなさず、次々に死体の山が築かれていきます。今までどおりのやり方ではミンソクを止められないことを痛感したキルソクはある決心をするのでした。
この作品の何がすごいって、銃火器が一切使われないんです!! その原始的な襲撃方法といい、敵役暗黒度は最強レベル。韓国映画といえばノワール!という向きにはまさしくうってつけの一作です。ぜひご覧ください。
5月27日(金)シネマート新宿ほか順次公開
▼コピーライト
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監督・脚本:ユン・ヨンビン
撮影:ユン・ジュファン『技術者たち』
音楽:モク・ヨンジン『暗数殺人』
出演:ユ・オソン『安市城 グレート・バトル』『友へ チング』
チャン・ヒョク『剣客』『僕の彼女を紹介します』
パク・ソングン『KCIA 南山の部長たち』
オ・デファン『ただ悪より救いたまえ』
イ・ヒョンギュン『幼い依頼人』
シン・スンファン『ベテラン』
2021年|韓国|カラー|シネスコ|5.1ch|119分|韓国語|日本語字幕:金 仁恵
原題:강릉|英題:TOMB OF THE RIVER
レイティング:R15+
配給:クロックワークス
▼公式サイト
http://klockworx-asia.com/bohyo/
ユ・オソンVSチャン・ヒョク『狼たちの墓標』5.27(金)公開|予告
♪akira |
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翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム<本、ときどき映画>を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました Twitterアカウントは @suttokobucho 。 |