今月もこんにちは! 暑いですねえ。ふと気がついたら前の連載から通算で99回目を迎えていました。これからもがんばりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

*今月の予想外本*
フィン・ベル『壊れた世界で彼は』(安達眞弓訳/創元推理文庫)


夜明け前、静かな住宅地で人質をとった立てこもり事件が発生します。屋内の発砲音をきっかけに狙撃犯の銃撃が開始されたところ、なんと家が大爆発を起こし、爆発跡には地元のギャング五人の遺体が発見されました。しかし家にいたはずの父親が消えており、逃亡した犯人に連れ去られたとみた警察は、組織犯罪対策本部に所属する刑事ニックと相棒のベテラン刑事トーブを中心に、捜索を始めます。
前作『死んだレモン』は物語の意外性もさることながら、多種多様な思考回路や習慣を持った人々が登場し、なおかつ車椅子の主人公がまったくストレスなく移動できており、ニュージーランドはバリアフリーが進んでいて素晴らしいなあと本筋とは関係なく感心したものでした。本書は主人公ニックと相棒の捜査、過酷な天候、そして謎の語り手による不穏な道行きという3種類の章で成り立っており、読者を迷宮へと誘います。そして最後に待ち構えるあの結末! なんとも言えない余韻が残ります。

*今月の恐怖本*
アビゲイル・ディーン『レックスが囚われた過去に』(国弘喜美代訳/ハヤカワミステリ)


ニューヨークで弁護士として働くレックスが英国へやってきた理由は、実の母親の獄中死でした。彼女は〈恐怖の館〉として知られた実の両親による監禁と虐待の犠牲者で、15年前に彼女の決死の脱出により事件が発覚して以来、他のきょうだい達とは疎遠にしていたのですが、母親が長女のレックスに遺言状を残していたことから、違う境遇で育った家族とふたたび会うことになります。
物語はレックスたちの現在、虐待されていた状況、地獄が始まる前の一家の様子などがばらばらに語られます。虐待の描写は読むだけでも本当につらいです。子どもたちが絶望に心を蝕まれていくさまがひたすら痛ましく、さらに順を追って語られないことで、読み手はその先にある悲惨な状況に対して覚悟を決めて読み進めることができないため、余計に恐ろしく不安がつのります。本書は実際にあった事件から着想を得ており、人間とはどこまで非道になれるのかと背筋が凍りそうになりますが、こうしたフィクションを読むことで被害者の気持ちに少しでも寄り添う人が増え、無自覚な二次加害が減るようになればいいと強く思いました。

*今月のイチオシ本*
C・J・ボックス『嵐の地平』(野口百合子訳/創元推理文庫)


ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケットの養女エイプリルは、頭を強打され意識不明の状態で3月の路上に放置されていたところを発見されます。ジョーらは駆け落ち相手の青年ダラスを疑いますが、彼はロデオで大怪我を負い実家に帰っていました。そのころ、FBIに逮捕された盟友の鷹匠ネイトは条件付きで釈放されます。ところがそこにはネイトが到底受け入れられない条件が加えられていたのです。納得できないまま、パートナーと合法的な事業を始めようとするネイトを恐ろしい罠が待ち受けていました。
シリーズ最新作はジョーとネイトが別々に大ピンチに! 危機に瀕したピケット家の家族それぞれの気のつかいかたに心が温まりますが、本書はなんといっても事件の真相にびっくりしました! え、これって風が吹けば桶屋が儲かる的な動機なの???(意味が違う!) ラストは田舎ホラーといってもいいようなすごい展開だし、サイドストーリーも読みどころたっぷりなのでぜひここからでもシリーズのファンになっていただきたいです!
訳者あとがきに本国のドラマ化 “Joe Pickett” について書かれていたのでトレーラーを観てみたところ、ジョー役のマイケル・ドーマン(ドラマ『パトリオット~特命諜報員ジョン・タヴナー~』)も娘たちもまだ若いですねえ。自分はジョーをカイル・チャンドラー(『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』)で読んでいたのですが、ドーマンも割とイメージ近いような気がします。そして一番気になっていたミッシーは、ドラマ『リゾーリ&アイルズ』のモーラの実母ホープ役シャロン・ローレンス。こちらもなかなかのキャスティングなのでは。日本でも観られるといいなあ。
Joe Pickett S1 | This Season On | Now Available on Spectrum Originals

*今月の新作映画*
『炎のデス・ポリス』(7月15日公開)


見渡す限り砂漠しか見えないネヴァダ州の小さな警察署。そこに暴力沙汰を起こしたテディ(フランク・グリロ)という男が連行されてきます。テディは怪我を負っており、どうやらわざと捕まった模様。次に酔っぱらい運転で事故を起こし逮捕されたボブ(ジェラルド・バトラー)が現れ、ふたりは地下の留置場に向かいあってぶち込まれますが、警官たちがいなくなると泥酔していたはずのボブが不気味な言葉を発します。


胡散臭い男たちが次々に現れ、一体誰を信じていいのかも、何が起こるのかもわからないまま、正義感の強い警官ヴァレリー(アレクシス・ラウダー)は、職務を果たさんと予想もしなかった危機に単独で立ち向かいます。
『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』等、銃撃戦てんこもりアクションに定評があるジョー・カーナハン監督の最新作は、観客が信頼できない語り手たちに翻弄されながらも真相を見抜こうとするのを阻止するかのように、画面いっぱいにありとあらゆる銃弾の雨を降らせます。ジェラルド・バトラーとフランク・グリロという肉体派2人の一騎討ち。コブラVSマングースレベルの対決は一体どちらに軍配が上がるのでしょうか!?


 

『炎のデス・ポリス』

7月15日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開

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配給:キノフィルムズ
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©2021 CS Movie II LLC. All Rights Reserve
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監督:ジョー・カーナハン『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』『コンティニュー』
脚本:クルト・マクラウド、ジョー・カーナハン
出演:ジェラルド・バトラー『ジオストーム』『300』『エンド・オブ・ホワイトハウス』
 フランク・グリロ『アベンジャーズ/エンドゲーム』、
 アレクシス・ラウダー『ハリエット』、
 トビー・ハス『ハロウィン』
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【原題:COPSHOP/2021年/アメリカ/英語/107分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:橋本裕充/PG12】

提供:木下グループ
公式サイトcopshop-movie.jp

  
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♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム<本、ときどき映画>を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho









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