今月もこんにちは! 今年は買った桃が嬉しいことにすべて当たりでした。先日買ったものもとても美味しくてそれで今季は打ち止めにしたのですが、「ここまで当たれば次も美味しいのでは!」とならない自分はギャンブラー気質皆無だなあと思う今日この頃です。
*今月の幻の逸品本*
ドナルド・E・ウェストレイク『ギャンブラーが多すぎる』(木村二郎訳/新潮文庫)
1969年に刊行され、このたび初邦訳となった巨匠の面白本。気さくでお調子者のタクシー運転手チェットは大のギャンブル好き。今日も賭けの合間(?)にニューヨークの街を流していると、乗せたお客が競馬の裏情報を教えてくれました。半信半疑で賭けたところまさかの的中。高額の配当金を受け取りになじみのノミ屋トミーの家へ向かうと、なんと彼は射殺死体になっていました。犯人扱いされるわ、ギャングには狙われるわ、そのまた対抗組織のギャングからも狙われるわとピンボールの球のようにどつき回されるチェットの前に現れた美女。はたして彼女は救いの女神なのか? 今映像化するなら主演は『ブルックリン・ナイン-ナイン』のアンディ・サムバーグなんてどうでしょう。
*今月の読書会本*
C・A・ラーマー『マーダー・ミステリ・ブッククラブ』(高橋恭美子訳/創元推理文庫)
「ミステリの読書会が無いなら自分で始めればいいじゃない!」オーストラリアで雑誌編集者をしているアリシアがメンバーを募ったところ、なかなかに個性的な面々が集まりました。最初の課題本はもちろん皆大好きクリスティ! しかし2回目の会合でなにやら雲行きが怪しくなってきます。無断欠席したメンバーが失踪したことが判明、事件に巻き込まれたかもしれないのです。やる気だけは人一倍の素人探偵たちはその謎を解けるのでしょうか。自分はシェフ志望の妹リネットがお気に入り。アガサ・クリスティー『ナイルに死す』の同名人物とは違って、情は深いし機転はきくし、おまけにいつも美味しそうなものを用意してくれるんです。グルメな読書会はうらやましいけど、コーベンもパタースンも食わず嫌いしないでほしいなあ(笑)。
*今月の意外な一面本*
リー・チャイルド『奪還』(青木創訳/講談社文庫)
マンハッタンで身代金の受け渡し現場を偶然目撃してしまったジャック・リーチャーは、妻と娘が誘拐された民間軍事会社社長レインに協力を申し出て百戦錬磨の猛者たちと合同で人質の奪還を試みますが、犯人にことごとく裏をかかれてしまいます。犯人の正体と動機を探っていくうちにレインの隠された一面が明らかになり、リーチャーは事件をあらためて見直し、大胆な手に打って出ます。シリーズ第10作目の本書は謎解きミステリの要素も濃く、いままで(前述のアリシアのように)アクションだしなあ……と敬遠していた人にもぜひ読んでいただきたいです。自分としては、リーチャー史上最高額(?)の洋服ショッピングシーンとか、ビジネスクラスで海外に飛んだり(リーチャー、パスポート持ってたのか!!)とか、ちょっと007風味が感じられて楽しかったです(笑)。あとリーチャー、もしかしてミーハー? <理由は本書で!
*今月のイチオシ本*
周浩暉『邪悪催眠師』(阿井幸作訳/ハーパーBOOKS)
その2つの事件は、序章に過ぎなかった――龍州市の二ヶ所で奇妙な事件が発生します。片方の被害者は見知らぬ男に顔を食いちぎられ、もう片方はビルからの飛び降り自殺と思われましたが、落下する際に鳥のような動作をしていたのです。その後ネット上に犯行をほのめかすような書き込みと、数日後に開催される催眠師大会への参加表明が見つかります。刑事の羅飛は大会主催者の催眠師・凌明鼎に協力を依頼し一緒に捜査を開始しますが、事件解明への道のりは想像を絶するほど異様で危険だったのです。2年前に出た話題作『死亡通知書 暗黒者』 (稲村文吾訳/ハヤカワ・ミステリ)の前日譚。版元と訳者が変わりましたが、本書も前作同様怒涛の展開で、読者をぐいぐい引っぱっていきます。羅飛チームの危機また危機、犯人の用意周到で狡猾な計画等々、読みどころは満載。フェアにヒントが隠されているので犯人当ては難しくないのですが、その動機と犯行の目的たるや、あまりにも壮大なスケールで呆然となりました。オススメです。
*今月の新作映画*
『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル』(9月2日公開)
金庫破りの名人シッカンと仲間のハリィ、ドリス、ラグナルの3人は、今日もあっと驚く方法でお宝を盗み出す計画でしたが、思わぬトラブルで現場に残されたシッカンはひとりお縄につきます。刑期を終えた自分を迎えに来た3人にシッカンは次の盗みのプランを披露しますが、彼らはもう足を洗うことを決めていました。やけくそでひとり決行するはめになったシッカンの元に、裏の仕事を紹介してくれる知り合いから、難攻不落の金庫を破ってお宝を盗んでくれと依頼が来ます。なんとそのお宝というのが、シッカンが狙っていたブツだったのです。
『裏切りのサーカス』のトーマス・アルフレッドソン監督の最新作は、初のクライムコメディ! スウェーデンで国民的人気を博すコメディ映画シリーズ“イェンソン一味”を原案に、自身も大ファンだったという監督がシッカン役の人気コメディアン、ヘンリック・ドーシンと共同で脚本を書いた本作は、笑いあり、ドキドキあり、人情あり、そして最後にはあっと驚く結末も用意されている盛りだくさんの痛快娯楽作です。舞台はスウェーデンですが、物語にはフィンランドの歴史が重要な役割を果たしています。実はこの映画、スウェーデン在住でみなさまご存知の翻訳家、久山葉子さんが字幕監修を務められていて、貴重なトリヴィアを教えていただきました。劇中のある場面で出てくる壁は、フィンランドにある世界遺産のスオメンリンナの要塞だそうです。ちなみにここは久山さんが訳された『メッセージ トーベ・ヤンソン自選短篇集』(フィルムアート社)の短編「卒業式」にも登場し、久山さんご自身も今年の春に見に行かれたとのこと。フィンランドに行くご予定の方は、トーベの足跡訪問とロケ地巡りの両方を楽しんではいかがでしょうか。なおこの映画にはたいへん可愛い猫が出てきます。猫好きの方もどうぞお見逃しなく!
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監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:トーマス・アルフレッドソン、ヘンリック・ドーシン、リカード・ウルヴスハマール
出演:ヘンリック・ドーシン、ヘダ・スターンステット、アンダース・ヨハンソン、ダーヴィド・スンディン
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2019年|スウェーデン|スウェーデン語・フィンランド語|
122分|カラー|ビスタ|5.1ch|
原題:Se upp för Jönssonligan|英題:THE JÖNSSON GANG|
字幕翻訳:小尾恵理
字幕監修:久山葉子|G
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
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♪akira |
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翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム<本、ときどき映画>を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました Twitterアカウントは @suttokobucho 。 |