今月もこんにちは! 年末ベストの投票まであとちょっと。読む本全部が面白くてうれしい悲鳴です。

*今月の作者からの挑戦本*
M・W・クレイヴン『キュレーターの殺人』(東野さやか訳/ハヤカワ文庫)


重大犯罪分析課刑事ワシントン・ポーと分析官ティリー・ブラッドショーの胸アツコンビが主人公のシリーズ第3弾。楽しいはずのクリスマス、謎のメッセージとともに切断された3人分の指が3カ所で発見されます。検査の結果、持ち主はすでに死んでいると判明。不気味な始まりで連続殺人事件の幕があがります。上司のフリン警部は出産目前、ポーは謎の体調不良という状況ですが、今回もポーの刑事の観察眼とティリーの卓越した才能は事件が混迷を極めるほど輝きを増し、あっと驚く真相を探り出すのです。本書帯の「先が読めたと思うならあなたは注意が足りていない……」という著者クレイヴン氏の挑戦のとおり、まったく先の読めない展開で609ページ一気読み必至! でもティリー、果物好きでも1日に5種類食べるのはなかなか難しいよ……(経済的にも)。

*今月のツンデレ増し増し本*
アンソニー・ホロヴィッツ『殺しへのライン』(山田蘭訳/創元推理文庫)


こちらも大ヒットシリーズ待望の第3弾。新作『メインテーマは殺人』販促のためと、マイナーな文芸フェスに参加したホーソーンと〈わたし〉ホロヴィッツ。いまいちパッとしないゲストたちと親交を深める間もなく、いけすかない関係者が殺されてしまいます。事件現場に不審な点を見つけたホーソーンは地元の警察に頼まれて捜査協力をしますが……。謎解きと犯人当てミステリとしての完成度の高さは言うまでもない本書ですが、毎回ホーソーンに振り回されてイライラし、もうコンビ解消しよう! と思いつつも探偵としての才能には素直に脱帽し、なおかつちょっと優しいそぶりを見せられると喜んでしまう〈わたし〉と、読者すらムカっとするほどあんまりな態度を取るくせに、あ、マジで怒らせちゃった?ヤバいかも(と思ってるかどうかは知らないが)と急に意外なフレンドリーさを見せるホーソーンのツンデレっぷり、今回も楽しめますよ!

*今月の究極の欺かれ本*
ジェローム・ルブリ『魔王の島』(坂田雪子監訳・青木留美訳/文春文庫)


何かがおかしい。でもそれが何かはわからない。生前会ったこともない祖母の遺言で、住民がわずか数人という孤島に降りたったサンドリーヌ。祖母と親しかったという住民たちは、何かを隠し、怯えている。はい、自分がフランスのミステリに求めているのはまさしくこういう作品です!!(歓喜) 映画化するなら監督は誰がいいだろうと妄想しながら読んでいくと、最初はアリ・アスター、次にはジェームズ・ワン、これならミヒャエル・ハネケ? いやいやポン・ジュノか? やっぱりヨルゴス・ランティモスでは、いっそマイク・フラナガン? と思っていたらこれかー!!! だったらあの人しかいない!と思いついたんですが、それ言っちゃうとややネタバラシになりかねないので内緒。

*今月のイチオシ本*
デルフィーヌ・ド・ヴィガン『子供が王様』(河村真紀子訳/東京創元社)


「大好きなみなさん、キミーのスニーカーを決めてください!」
インスタグラムのストーリーで、数百万人を超えるフォロワーに娘がどのブランドのスニーカーを買うべきか呼びかけているのはカリスマ主婦インフルエンサーのメラニー。ママの愛情をたっぷりそそがれた息子サムと娘キミーの素敵な日常を、朝から晩まで(トイレと入浴以外)、全世界に向けてシェアしているのです。しかしある日、キミーが行方不明になってしまいます。スポンサーから巨額の報酬を得ている彼らに対する営利目的の誘拐か、もしくは怨恨か。警察が捜査を進めるうちに、完璧な一家のほころびが見えてきて……。不特定多数の他人に生活を見せること、見られることが当たり前になり、しかもそれが職業になってしまう現在。その一方でプライバシーの侵害や犯罪に巻き込まれる危険も孕んでいます。本書はミステリ仕立てのフィクションですが、ここで描かれるSNSの恐怖は現実のものであり、子どもたちの人権と安全にいまいちど目を向ける必要があることを強く訴えています。帯にあるように、いまこの時代にクリスティがいたらきっと題材にしていたに違いありません。オススメです!

*今月の新作映画*
『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』(9月30日(金)公開)




映画版2作目の本作は、今は亡き三女シビルの夫トムとルーシー・バグショーの結婚式で始まります。新たなつながりができ、さらに大きな家族になったクローリー家。先代伯爵夫人バイオレットのところに意外な知らせが届きます。フランスの貴族モンミライユ侯爵の遺言で、バイオレットに南仏の別荘が寄贈されるというのです。侯爵の息子からの申し出で、グランサム伯爵らは引退した執事カーソンを連れてリヴィエラへと向かいます。一方、邸は映画のロケに使われることになり、映画スターやスタッフたちを迎えて使用人たちは大騒ぎ。留守を預かるレディ・メアリーと執事トーマスは無事に邸を守ることができるのでしょうか。


毎回衣装が楽しみなこのシリーズ、今回は特に結婚式・南仏のリゾート・銀幕のセレブなど、豪華で素敵な衣装の数々に目が釘付けで、それだけでも一見の価値があります! 本作はバイオレット様の秘めた過去にまつわるドラマと、映画撮影のトラブルやあっと驚く展開、そして新しい人生に旅立つ人々への祝福などさまざまなエピソードで楽しませてくれ、コロナ禍で疲弊した心に少しの間でも安らぎを与えてくれるあたたかい作品になっています。実はこの試写に行った日、エリザベス女王逝去のニュースが流れてきました。まさに現実も「新時代」に移り変わってしまったのだなあとしみじみしてしまいました。どちらもよい時代になりますように。


 



タイトル:『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』

原  題:『DOWNTON ABBEY: A NEW ERA』
公開表記:2022年9月30日(金)公開
コピーライト
 ポスター、メイン写真: © 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
 そのほかの場面写真: © 2022 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:東宝東和

公式サイトhttps://downton-abbey-movie.jp/
Facebookhttps://www.facebook.com/DowntonAbbeyMovie.JP/
Twitterhttps://twitter.com/DowntonAbbey_JP
Instagramhttps://www.instagram.com/downtonabbey_jp/

 
映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』予告編

 

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム<本、ときどき映画>を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho







 デルフィーヌの友情 (フィクションの楽しみ)
 出版社:水声社
 作者:デルフィーヌ・ド・ヴィガン
 訳者:湯原 かの子
 発売日:2017/12/15
  価格:2,484円(税込)

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