*今月の刑事部屋本*
マウリツィオ・デ・ジョバンニ『P分署捜査班 寒波』(直良和美訳/創元推理文庫)
*今月の意外な一面本*
アンドレアス・フェーア『急斜面』(酒寄進一訳/小学館文庫)
*今月のイチオシ本*
ヴァシーム・カーン『帝国の亡霊、そして殺人』(田村義進訳/ハヤカワミステリ)
もはや第二次大戦後もヒストリカル・ダガー対象なのか……とまず焦りましたが、舞台となった年はインドの大きな転機であり、その背景でこうした事件が起きたらと考え、物語を通して当時の事情も知ることができて非常に勉強になりました。
主人公のワディア警部は警察学校で優秀な成績を収め、知性も体力も人一倍抜きん出ているにもかかわらず、女性だというだけで常に不当な扱いを受けます。作中でひんぱんに登場するその男尊女卑な言動の数々には心底怒りを感じずにはいられません。現代ですらそれが当然という考えを持った人たちが存在することを否応なしに思い出させられて悲しくなりますが、不屈の精神とまっすぐな信念を持った警部の活躍は読者を力づけてくれます。これも続編があるとのこと、ぜひ読ませてください!
*今月の番外編本*
トリ・テルファー『世界を騙した女詐欺師たち』(富原まさ江訳/原書房)
*今月の新作映画*
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(3月3日(金)公開)
この映画はできれば何も情報を入れずに観ていただきたい! 以上!……というわけにもいかないので、ごくごくさわりだけ書きますと……
中国からアメリカに移民してきたエヴリン(ミシェル・ヨー)と夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)のコインランドリーの経営状態は悪化の一途。故郷からやってくる父親の介護も必要、娘とその彼女の関係に向き合えず常に喧嘩、しかも夫は優柔不断、もういっぱいいっぱいでくじけそうなんですけど!(泣) そんなただでさえ問題が山積みのところ、地獄の納税期日がやってきます。国税局で鬼のような役人(ジェイミー・リー・カーティス)に追求されて身も心もボロボロになったエヴリンに、突然表情が一変した夫が一言:
「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」
ここから始まる物語、だれがこんな展開を予想できるでしょうか! 奇想天外、摩訶不思議、吃驚仰天、愉快痛快でなんでもあり! ポール・ダノがダニエル・ラドクリフの死体を使って使って使いたおす(ほんとです)『スイス・アーミー・マン』で観客の度肝を抜いたダニエルズ監督(ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートによるコンビ)による本作は、ええーっ! どうなっちゃうの??? と思う間も許さないまさかの怒濤の展開。とにかく画面に釘付けになって、最後は感動の嵐で終わります(ほんとです!)。
華麗なる変身をとげるミシェル・ヨー様の勇姿にほれぼれし、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』『グーニーズ』のキー・ホイ・クァンとの再会に懐かしさを覚えつつ、容赦ない国税局員ジェイミー・リー・カーティスの怪演に拍手喝采。せちがらい世の中、この映画を観てリフレッシュしてはいかがでしょうか。
◆タイトル◆
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
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◆公開表記◆
2023年3月3日(金) TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
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◆コピーライト◆
© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
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◆配給◆
ギャガ
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■監督:ダニエル・クワン ダニエル・シャイナート『スイス・アーミー・マン』
■出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス
■公式サイト:https://gaga.ne.jp/eeaao/
■公式Twitter: @eeaaojp
■公式Instagram:@eeaaojp
#映画エブエブ
■本年度アカデミー賞 最多11ノミネート!『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』本予告 【3.3(金)公開】
♪akira |
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翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました Twitterアカウントは @suttokobucho 。 |