今月もこんにちは! 自分が子どもの頃は入学式に桜が満開だったような気がするんですが、気のせいでしょうか。今月も季節に関係なく面白い作品目白押しで〜す。
*今月の孤島本*
グレッチェン・マクニール『孤島の十人』(河井直子訳/扶桑社ミステリー)
校内セレブともいうべき人気者のジェシカから、孤島にある彼女の別荘で開かれるパーティに誘われたメグ。招待状には行き先などの詳細を家族にも内緒にするよう書かれており、漠然とした不安を感じながらも、親友のミニーのためメグは一緒に参加することにしました。実はミニーにはどうしても行きたい理由があり、メグには彼女を一人にできない事情があったのです。
クリスティーの名作『そして誰もいなくなった』をダイレクトに下敷きにし、現代の高校生たちが同じ状況に陥ったらどうなるかをサスペンスフルに描いたこの作品は、居合わせた人々を断罪するような映像から惨劇が始まりますが、レコードがDVDになったところで、原典同様本土と連絡が取れない状況に陥ります。サラ・フェルプス脚本のBBC版ドラマ『そして誰もいなくなった』では、見えない敵に運命を弄ばれた時に人はどうなるのかを恐ろしいほどシニカルに生々しく描写した完璧な映像化でしたが、本書の高校生たちの反応もリアル感濃厚で手に汗握ります。もちろん犯人当ての醍醐味も味わえる一冊です。千街晶之氏の解説もこれからの読書ガイドとしてたいへん参考になりますよ!
*今月の一発逆転本*
ジーン・ハンフ・コレリッツ『盗作小説』(鈴木恵訳/ハヤカワミステリ)
主人公のジェイコブは、かつてニューヨーク・タイムズの書評欄で取り上げられたデビュー作がベストセラーとなり、将来が期待された作家でしたが、その後出した作品は鳴かず飛ばず。新作が書けなくなった今は、作家志望の素人に大学の創作講座で教えて生計を立てていましたが、ある日、中でも態度の悪い生徒エヴァンから今まで聞いたことのない素晴らしいプロットを聞いてしまい、悔しさと嫉妬ではらわたが煮えくりかえらんばかりでした。ところが数年後、エヴァンがそれを小説として世に出さないまま死んだことを知ったジェイコブは禁断の盗作に手を染めるのです。ジェイコブが書いた小説はベストセラーとなり、文壇の地位と名声が予想を上回った頃、何者かが彼に脅迫状を送ってきたのです。
盗作サスペンスってよくあるよね~なんて思ったあなた! 本書は確実に一味違うとお伝えします。作家活動の裏話的なエピソードも面白いので、作品だけではなく作家自身にも興味のある方はぜひ!
*今月のイチオシ本*
ライリー・セイガー『夜を生き延びろ』(鈴木恵訳/集英社文庫)
なんと今月は鈴木恵訳が2冊! こんなのは初めてでは!
舞台は1991年。実家に帰るためガソリン代を折半して車に乗せてくれる人を大学内で募集していた女子学生チャーリーに、見知らぬジョシュという男性が名乗りを上げます。ある理由で一刻も早く帰省したいため、チャーリーは恋人のロビーの説得も振り切ってジョシュの車で旅立ちます。ところが道中で話すうち、チャーリーはジョシュが2ヶ月前に親友マディを殺した連続殺人犯〈キャンパス・キラー〉ではないかと疑い始めるのです。
前作『すべてのドアを鎖せ』(同)もホラーみ濃厚な驚きの展開で読ませましたが、「早く逃げてー!」と心中で叫ばずにはいられない背筋が凍るような本書は、チャーリーが”脳内映画”と呼ぶ白日夢のようなまやかしの記憶も絡まって、ページを繰るごとに複雑さを増していきます。本書の読みどころの一つがチャーリーの映画語りなのですが、作者のHPには本書に登場する映画がすべて紹介されていてなかなか楽しいです。
https://www.rileysagerbooks.com/survive-the-night-movie-guide
若干内容に関連する作品もありますので、できれば本書を読んだ後に見ることをお勧めいたします。
*今月の番外編本*
エドワード・ドルニック『ヒエログリフを解け ロゼッタストーンに挑んだ英仏ふたりの天才と究極の解読レース』(杉田七重訳/東京創元社)
1月の刊行ですがあまりに面白かったので! ロゼッタストーンに書かれた古代エジプトの文字ヒエログリフ。その解読に挑む18世紀の二人の天才学者が火花を散らすノンフィクション。とにかくものすごい情報量なのに、エジプト文明にほとんど詳しくない読者(わたしとか)にも大変わかりやすく、かつ手に汗握る大興奮のエピソードが満載なのです! 冒頭のナポレオンのエジプト遠征からもう面白すぎてやめられません。パリピの冒険家とかサーカス出身の探検家が出てきたり、あの時代にすでにディアゴスティーニが存在してたとか(詳細は本書で!)。『ナイルに死す』でおなじみのアブ・シンベル神殿も出てきますよ!
*今月の新作映画*
『ノック 終末の訪問者』(4月7日(金)公開)
ミステリを読む際、自分はまず後ろの内容紹介から読みます。それで本編を読み終わってからもう一度読み返して「ああ、こういう意味だったのか」とか「なるほど、こういうふうに隠してたのか」とか楽しんでいます。
今回ご紹介する映画『ノック 終末の訪問者』は――
人里離れた山小屋で休暇を過ごす三人家族の前に
見知らぬ四人組が現れて、ある衝撃的な言葉を告げます。
「私たちは終末を防ぎに来た」
そして彼らは究極の選択を迫ります。
――この数行と予告編で、どんな内容を予想しますか?
そして見終わった後で、その予想は当たっているでしょうか。
プリーストリーの『夜の来訪者』やジョーダン・ピール監督作『アス』など、突然の訪問者は不穏な展開をもたらします。M・ナイト・シャマラン監督は今回どんなサプライズを用意しているのか、劇場でお確かめください。
◆タイトル◆
『ノック 終末の訪問者』
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◆公開表記◆
2023年4月7日(金)より全国ロードショー!
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◆コピーライト◆
© 2023 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
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◆配給◆
東宝東和
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■公式サイト:https://knock-movie.jp/
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■映画『ノック 終末の訪問者』本予告(2023年4月7日(金)全国公開)
♪akira |
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翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました Twitterアカウントは @suttokobucho 。 |