田口俊樹
『ブロンド』のほうはちょっとゲージュツがはいってて、私にはイマイチでしたが、『知られざる――』は実に見ごたえのある佳作です。彼女の死の様子がけっこう明らかにされます。でも、それよりなにより、事実もまたこのドキュメンタリーどおりだとすれば、マリリンとの関係において、ジョンとロバートのケネディ兄弟がどんだけクソ野郎かよくわかります。特にジョンのほう。われらが女神を性の捌け口扱いしやがるんです。マリリンのほうは一途なのに。ま、厳密に言えば、「二途」ですが。
見終わったら、胸がつまり、年甲斐もなく(いや、歳のせいか)涙しちまいました、マリリンが可哀そうで可哀そうで。そのあたり、見るのがつらくなるようなところもある映画です。それでも、マリリン・ファンには必見でしょう。
〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕
白石朗
近々刊行される作品のゲラを横目でにらみながら、ようやく1日1〜2話ペースでついに〈ストレンジャー・シングス 未知の世界〉のシーズン1(全8話)を見おわりました。で、シーズン2(全9話)も視聴開始。とにかく、おまえ向きだよと本作の視聴をすすめてくださった何人もの方々、これまで見ずにほったらかして、ほんとすみませんでした! と謝りたくなるおもしろさ。いやはや、のちにリッチー・トージアになるフィン・ヴォルフハルト(ウルフハード)くんの出演も納得(シーズン2のハロウィンのコスプレも、ふりかえれば先駆的ではないですか)。また登場人物のひとりが読んでいる本の裏表紙の写真に、「おーやってるやってる」と思わず声が出るというようなトリヴィアルな楽しみもありました。さ、つづきを見ようっと。
〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング&オーウェン・キング『眠れる美女たち』。〈ホッジズ三部作〉最終巻『任務の終わり』の文春文庫版につづいて不可能犯罪ものの長篇『アウトサイダー』も刊行。ツイッターアカウントは @R_SRIS〕
東野さやか
〔ひがしのさやか:最新訳書はM・W・クレイヴン『キュレーターの殺人』(ハヤカワ文庫)。ハート『帰らざる故郷』、チャイルズ『ハイビスカス・ティーと幽霊屋敷』、クレイヴン『ブラックサマーの殺人』など。ツイッターアカウント@andrea2121〕
加賀山卓朗
舞台は戦間期のロンドン。ガジェットなんかも含めてちょっとジョン・ディクスン・カー的な雰囲気もある。分類すればパズラーということになるんでしょうが、事件が起きて探偵や警官が真犯人とトリックを解明し……という典型的な流れから大きくはずれている。どの謎を解明するのかということ自体を謎にしているような、メタな構造というか。でも、主人公のレイチェル(雪の女王w)とジェイコブ(新米記者)が魅力的だし、後半は派手な見せ場の連続で、きっと驚くと思います。今年の夏ごろの販売になるんでしょうか。早く皆さんの感想が聞きたい!
〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳〕
上條ひろみ
〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』、エリー・グリフィス『見知らぬ人』など。最新訳書はフルーク『ココナッツ・レイヤーケーキはまどろむ』〕
武藤陽生
今さらながら『デューン 砂の惑星』を読みはじめたのですが、めちゃくちゃおもしろいですね。僕が趣味にしているウォーハンマー40Kはこの世界観にかなり影響を受けているということがよくわかりました。映画2作目も今年公開されるようで、楽しみです。それと最近プレイしている『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』というアドベンチャーゲームがおもしろいです。タイトルどおり、本所七不思議を題材にしたオカルト味の強いホラーミステリーで、Switchやスマホでプレイでき、10時間くらいでクリアできるようなので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位1%(2%からさらに上達しました。まあ、大したことないんですが…)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕
鈴木 恵
西川と同時期にやはりチベットに潜入した日本の密偵に、木村肥佐生という人がいた。この人の書いた『チベット潜行十年』(中公文庫)という本は、大昔に読んだことがあった。わくわくしたし、ロマンを感じたりもしたけれど、読後、手放しで彼の旅を礼賛する気にはなれなかった記憶がある。それがなぜだったのか、いまとなってはまったく憶えていないのだけど。
一方、西川一三の旅は、沢木耕太郎の書きかたもあるのだろうが、読んでいて心から幸せな気分になれる。彼はたしかに「密偵」ではあったけれど、そんな任務よりも、自由に旅をすること自体にしだいに惹かれていくのである。いや、自由そのものに惹かれていくようにさえ見える。そして敗戦後はチベットからインドに密入国し、さらに各地を放浪して、アフガニスタンにまで行こうとする。それも托鉢をしたり、乞食の集団に身を投じたり、鉄道建設の苦力になったりして。
いいなあ。すごいなあ。わたしにもできるだろうか。できないだろうなあ。でも、憧れるなあ。旅を愛する人間は自由を愛する人間なのである。