今月もこんにちは! サボテンさえも枯らす自分ですが、ちょっと前からプランターで花を育てています。先日はミツバチが来てちょっと嬉しかったです。桜のシーズンは終わっても、花の季節はこれからですね。

*今月の忘れたい過去本*
ローリー・エリザベス・フリン『あの夜、わたしたちの罪』(山田佳世訳/ハヤカワ文庫)


 NYのPR会社に勤めるアムは、ちょっと頼りない年下の夫とまずまず幸せな生活を送っていました。ある日、大学卒業十周年記念の同窓会お知らせメールが届くまでは……。アムには絶対に知られたくない大学時代の秘密がありました。それはのちに“C寮の死”と呼ばれた、学生の死にまつわることでした。メールを削除して、なかったことにしようとしましたが、タイミングを同じくして届いた匿名のカードは、アムの秘密を知る誰かからの脅迫状でした。
 かつて大学で新しい自分、素敵な学生生活を送るはずだったアム。ところが間違ったものを追い求めてしまった結果、取り返しのつかない悲劇を生んでしまったのです。『そして誰もいなくなった』や映画『ラストサマー』など、過去のあやまちに追いつめられる作品は数あれど、本書はそのなかでもかなり衝撃的な展開ではないかと思います。それにしても同窓会が夫や妻同伴って、なんかしんどいなあ……と思いました。<いやそこじゃない

*今月の改訂版本*
ジェフリー・アーチャー『ロスノフスキ家の娘』(戸田裕之訳/ハーパーBOOKS)


 貧しいポーランド移民で、ボーイから世界屈指の巨大ホテルグループを築いたアベル・ロスノフスキの一人娘フロレンティナ。一流の教育環境とそれに負けない努力、そして父親を超えるほどのビジネスセンスを持つ彼女が、やがて父の帝国を受け継ぐことは本人も含めて誰も疑いませんでした。ところがある日彼女に運命を変える出会いが訪れます。
 ホテル王と銀行頭取の生涯にわたる宿命の闘いを描き、ドラマも世界的にヒットしたアーチャーの代表作『ケインとアベル』。その姉妹編で、宿敵だった彼らの子どもたちがまさかの恋に落ちる本書。とはいえ20世紀のロミオとジュリエットは運命に翻弄されて黙っているわけではありません。初刊行時には未来だった80年代まで見据えた本書は、驚くほど現代に通ずるストーリーになっているので、未読の方はぜひ。

*今月の袋とじ本*
トム・ミード『死と奇術師』(中山宥訳/ハヤカワミステリ)


 1936年のロンドンで起きた密室殺人。被害者は心理学者、容疑者はその患者たち。捜査が進めば進むほど謎は深まり、これを解決できるのは元奇術師の私立探偵……って、面白くないわけないですよね! しかも読者への挑戦の後には袋とじの解決篇付きというギミックがたまりません! いちおう自分もがんばって謎解きに挑み、フェアな手がかりのおかげでなんとか犯人は当てたものの、あるトリックがどうしてもわからなかったので早々に降参して開封しました(さもないと一生開けられないままになったと思います……)。本格ファンの皆さまは一度挑戦してみてくださいね!

*今月のイチオシ本*(4月28日刊行)
アシュリー・ウィーヴァー『金庫破りときどきスパイ』(辻早苗訳/創元推理文庫)


 第二次大戦で灯火管制が敷かれているロンドン。昼は錠前屋、夜は金庫破りのおじミックと二人で留守宅の金庫を狙ったエリーを待ち構えていたのはなんと英国陸軍。ドイツのスパイを追う若き将校ラムゼイ少佐は、投獄されるか、ある金庫から機密文書を盗み出すかのどちらかを迫ります。しぶしぶ命令に従うエリーが少佐とともに家に忍び込むと、なんとそこには死体が横たわり……。
 一足お先に読ませていただいた本書、スパイもの+家族愛+ちょっぴりロマンス(?)の物語。ルイジアナの図書館に勤務する著者による、第二次大戦時の風俗描写も興味深い一冊です。原題は A Peculiar Combination。金庫のダイアルのコンビネーションにひっかけて、おかしなコンビが一体どんな任務を遂行するのか。金庫破りだけではない多彩な才能を持つエリーと、いけすかない第一印象の少佐、そして戦地から帰還した優しい幼なじみ。この3人の間に何が起きるのか、本書を読んでお確かめくださいね。ちなみに自分はエリーをジェシー・バックリー、少佐をジェイムズ・ノートン、ミックおじさんをサム・ニール、フェリックスをジェイミー・ドーナンで読みました〜。

*今月の新作映画*
『ソフト/クワイエット』〔5月19日(金)公開〕





 幼稚園教師のエミリー(ステファニー・エステス)は、ある日知り合いの女性5人と会合を開きます。「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成するためです。移民のせいで自分たちが割りを食っている、多様性なんかとうてい受け入れられないなどと過激な思想を口にし、それらが受け入れられる仲間を得て盛り上がったところ、場所を移さなくてはならなくなります。しかたなくエミリーの自宅で続きを楽しもうとする彼女らの前に、アジア系の姉妹が現れて……。



 とにかく虫酸が走る、耐え難いほど胸糞の悪い物語です。集団心理の恐ろしさと狂気もあますところなく描かれており、90分リアルタイムで進行する本作は、正直なところあまりのおぞましさに途中でリタイアしようかと思ったほどです。これを読んでちょっと躊躇した方は、まずはぜひ公式HPにある監督メッセージを読んでみてください。そこにはなぜ彼女がこのような作品を撮ったのかが詳しく書かれています。こんな恐ろしいことが簡単に起こりうるという事実に、あらためて恐怖を感じずにはいられません。数日間は頭から離れない衝撃的な一作です。



◆タイトル◆
『ソフト/クワイエット』
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◆公開表記◆
5月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国公開
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◆コピーライト◆
© 2022 BLUMHOUSE PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.
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◆配給◆
アルバトロス・フィルム
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監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ(長編デビュー) 
出演:ステファニー・エステス、オリヴィア・ルッカルディ、エレノア・ピエンタ、メリッサ・パウロ、シシー・リー、ジョン・ビーバース

2022年/アメリカ/英語/92分/16:9/5.1ch
原題:soft&quiet
日本語字幕:永井歌子
提供:ニューセレクト/G

■公式サイトhttps://soft-quiet.com/
■公式Twitter: https://twitter.com/softquiet_movie

 
■5.19公開 映画『ソフト/クワイエット』本予告■

♪akira
  翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho









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