田口俊樹

今月はお休みです。

〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕

 


白石朗

 映画監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥがセレクションした坂本龍一のコンピレーション・アルバム『TREVASIA』を聴いている。『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015)の音楽に共通する近年の坂本サウンド曲が中心かと思いきや、デビューアルバムの標題作や1990年前後のソロアルバムからも選曲されているのが興味深かった。そんなわけで、このところの『async』『12』のヘビロテから、きょうは『NEO GEO』(1987)あたりからのソロを流しているところ。

〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング&オーウェン・キング『眠れる美女たち』。〈ホッジズ三部作〉最終巻『任務の終わり』の文春文庫版につづいて不可能犯罪ものの長篇『アウトサイダー』も刊行。ツイッターアカウントは @R_SRIS

 


東野さやか

 先日、旅行で当地を訪れた友人と会ってきました。ボン・ジョヴィのファンということで知り合ったので、会うとやっぱり音楽の話が多くなります。昔行ったライブの思い出や、最近のおすすめバンドの話をしていると、もうとまらない。マネスキンというイタリアのロックバンドをおすすめしてもらい、さっそく聴いています。おお、たしかにかっちょええ……。
 ところで、今年の秋にライブ参戦を再開することにしました。これを見逃したら一生後悔すると思うバンドが来日するので仕方ありません。ええ、仕方ないんです。さすがに最前列に突っこんでいくような無謀なまねはしませんよ。いや、最前列に突っこみたいのはやまやまですが、ぐっとがまんして後方でまったり見るつもり。もちろんマスクをきちんと装着して。その前にスタンディングに耐えられるよう足腰をきたえねば……。

〔ひがしのさやか:最新訳書はM・W・クレイヴン『キュレーターの殺人』(ハヤカワ文庫)。ハート『帰らざる故郷』、チャイルズ『ハイビスカス・ティーと幽霊屋敷』、クレイヴン『ブラックサマーの殺人』など。ツイッターアカウント@andrea2121

 


加賀山卓朗

 大学の同級生とか、もといた会社の同期がそろそろ定年になる時期でして、去年ぐらいから、そういう集まりに来ないかと声をかけていただくことが増えました。まあ私なんて20年前に定年を迎えたようなものだから、珍しい人間ということもあるんでしょう。ぜんぜん関係ないけど、カール・ハイアセンに『珍獣遊園地』という名作がありました。
 こないだも大学時代の友だちふたりと旧交を温めたのですが、ちょっと驚いたのは、いま法学部より経済学部のほうが人気があるし、就職にも有利だし、優秀な人が集まるんですってね。考えてみれば当然かもしれません。せっかく官僚になったのに政治家の答弁のために徹夜で待機なんて、才能の無駄遣いにもほどがある。もはや経済学部のほうが「つぶしがきく」学部になったということですか。個人的には、男子校だった中高の母校が男女共学になったときと同じくらい、時代の流れというものを感じました。

〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳〕

 


上條ひろみ

 このたびアシュリー・ウィーヴァー『金庫破りときどきスパイ』(辻早苗訳/創元推理文庫)の解説を書かせていただきました。本書は♪akiraさんの「今月のイチオシ本」に選ばれたほどですからおもしろさはお墨付き。第二次大戦中のロンドンが舞台の歴史ものコージーで、特技(金庫破りw)を生かしてお国のために役立ちたい!と奮闘するヒロインのエリーには、どこか江戸っ子のきっぷの良さのようなものを感じます。きゅんな展開も多くて、ロマンス愛好家にもおすすめですよ〜。
 何を読んでもおもしろいアン・クリーヴスですが、わたしは今ドラマ「ヴェラ〜信念の女警部」(ヴェラはおばさんの星!)「シェトランド」(GWにAXNミステリーで一挙放送されるので愉しみ!)にもはまっています。「刑事マシュー・ヴェン 愛惜のうなり」も放送されるので、そのまえに駆け込みで読んだのが原作の『愛惜』(高山真由美訳/ハヤカワ文庫HM)。プロットのおもしろさはもちろんですが、コミュニティ内の微妙な温度感や、キャラの背景が徐々に見えてくる描き方のうまいこと。またもや本年度ベスト級。ドラマはこの興奮が少し落ち着いてから見ようかな。
 ゴダールの初期の名作映画の原作、ドロレス・ヒッチェンズ『はなればなれに』(矢口誠訳/新潮文庫)は、短い話なのに読んだあと謎の満足感が残ります。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を読んだときと似てるかも。番狂わせはスキップの叔父のウィリー。ウィリー叔父さんのせいで歯車が狂いはじめるだけでなく、存在自体がちょっとしたスパイスになっているのがおもしろい。みんなどこかで悪の道に進むかもしれないもろさを持っているのが人間らしく、唯一の善人と思えるエディの母でさえ、暴君の夫に抗えないという弱さがある。

〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』、エリー・グリフィス『見知らぬ人』など。最新訳書はフルーク『ココナッツ・レイヤーケーキはまどろむ』〕

 


武藤陽生

 今年のゴールデンウィークは天気に恵まれそうですね。僕はマリオの映画を子供と観に行くつもりです。昔は毎週早稲田松竹にかよっていた僕ですが、子供が生まれてから映画館で観た映画は『おしり探偵』『パウパトロール』『のび太の新恐竜』……小さい子供がいるとそんなもんですよね??? ね???

〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位1%(2%からさらに上達しました。まあ、大したことないんですが…)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕

 


鈴木 恵

 去年見た日本映画のなかで断然心を惹かれたのは、森井勇佑監督《こちらあみ子》。主役のあみ子を演じた少女の存在感が圧倒的で、役者の力というか、肉体の力ってすごいと思った。
 そこで今村夏子の原作も読んでみたら、これまたたいへん面白かった。こちらは言葉の存在感というか、言葉の力がすごい。
 で、今村夏子をもっと読んでみようと、こんどは『むらさきのスカートの女』を読んでみたら、やっぱり面白かったし、やっぱり言葉の力がすごかった。さすがは芥川賞受賞作。わたしが日頃書いているような言葉とはまるでちがう。インカの石積みみたいに1ミリも揺るがない感じ。まいりました、と飲み屋のカウンターで溜息をつきました。
 もうひとつすごいなと思ったのは、この物語、主人公の「むらさきのスカートの女」にただの一度も「彼女」なんて代名詞を使っていないこと。すべて「むらさきのスカートの女」で押しとおしているのです。翻訳小説ばかり読んでいると、これだけでも心地よくなってくるから不思議。
 さらにすごいのは、物語世界がもうほんとに、いい意味で平凡だということ。夢だの感動だのといった、いまのニッポンやらジャパンやらが官民あげて押しつけてくる空疎なものとはおよそ無縁。併載されているエッセイも、どうでもいいようなことばかり書かれているようでいて、みな面白い。もうわたし、ほかの今村作品もすべて読む気になっております。
〔すずきめぐみ:この長屋の万年月番。映画好きの涙腺ゆるめ翻訳者。最近面白かった映画は《トリとロキタ》〕