今月もこんにちは! 相変わらず暑いですね……などと言うだけムダなんですけど早く涼しくなって!
*今月のチーム本*
リー・チャイルド『消えた戦友』(青木創訳/講談社文庫)
リーチャーがATMで現金を引き出すと、残高が1,030ドル増えていました。憲兵時代の無線コード10-30が応援要請だったことからそれが元同僚からのメッセージと気づいた彼は、送金した相手を探すことから始めます。このシリーズはリーチャーの全方向的なスキルの高さや重量級のアクションが毎回楽しみですが、本書はかつての同僚とのチームプレイと、過ぎ去った日々の思い出が読みどころとなっています。リーチャーは除隊後に一般社会とのつながりを断ち、放浪の旅を続ける一匹狼ですが、同じ過去を持つ戦友たちのその後の人生はどうなっていたのでしょうか。ご存知の人も多いかと思いますがこのシリーズの邦訳は順番ではなく、本書は2007年に出た11作目になります。ですがどの作品も単体で読めるような内容なので、トム・クルーズの映画版やAmazonのドラマ版で興味を持ったら、ぜひ気になった作品から始めてみてください!
*今月の謎解き真っ向勝負本*
ピーター・スワンソン『8つの完璧な殺人』(務台夏子訳/創元推理文庫)
*今月のイチオシ本*
ファビアン・ニシーザ『郊外の探偵たち』(田村義進訳/ハヤカワミステリ)
*今月の番外編本*
サリー・クラウン『アフター・アガサ・クリスティー 犯罪小説を書き継ぐ女性作家たち』(服部理佳訳/左右社)
*今月の新作映画*
■『ヒンターラント』9月8日(金)公開■
第一次大戦が終わり、ロシアの捕虜収容所から故郷のウィーンに帰ってきた兵士たちを歓迎する者は誰一人いませんでした。元刑事ペーター(ムラタン・ムスル)が家に帰ると、妻と子は去っていたことがわかります。やがて悲嘆に暮れる彼の元を警察が訪れ、無理やり連れて行かれた先でペーターが見たのは戦友の惨殺死体でした。その帰還兵の死こそが、連続殺人事件の始まりだったのです。かつては名刑事とうたわれていたペーターは、果たして真犯人を捕まえることができるのでしょうか。
戦争で心身ともに傷ついた兵士たちの悲劇が事件の発端となるこの映画で、『ヒトラーの贋札』のステファン・ルツォヴィツキー監督がテーマに選んだのは有害な男性性でした。彼ら男性は「命がけで戦ってきた」ことで自分たちの優位性を謳い、無意識に女性たちを蔑んでいます。しかし祖国に残った女性たちも同じように戦い、傷ついているのです。それを認めようとせず自己憐憫にひたる主人公や、特権階級の傲慢さをあからさまに振りかざす男たちは冷ややかな視線で描かれています。
そうした重要なテーマの他に、本作の見どころは全編ブルーバックによる撮影です。ウィーンの街並みが、あるときは幻想的に、あるときはいびつな悪夢のように変化します。自分は98年の映画『ダークシティ』(監督/アレックス・プロヤス)を思い出しました。本作もこのダークな映像美が記憶に残ることと思います。『第三の男』で有名な観覧車も見つけてみてください。
タイトル:『ヒンターラント』
公開表記:9月8日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
コピーライト表記:© FreibeuterFilm / Amour Fou Luxembourg 2021
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監督:ステファン・ルツォヴィツキー
脚本:ロバート・ブッフシュヴェンター、ハンノ・ピンター、ステファン・ルツォヴィツキー
撮影:ベネディクト・ノイエンフェルス
編集:オリヴァー・ノイマン
音楽:キャン・バヤニ
プロダクションデザイン:アンドレアス・ソボトカ、マルティン・ライター
衣装:ウリ・サイモン
出演:ムラタン・ムスル、リヴ・リサ・フリース、マックス・フォン・デア・グレーベン、マーク・リンパッハ、マルガレーテ・ティーゼル、アーロン・フリエス
2021年/オーストリア・ルクセンブルク/ドイツ語/99分/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:吉川美奈子/原題:HINTERLAND/PG12
配給:クロックワークス
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『ヒンターラント』公式サイト:https://klockworx-v.com/hinterland/
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■9月8日(金)公開『ヒンターラント』|予告■
♪akira |
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翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました Twitterアカウントは @suttokobucho 。 |