今月もこんにちは! 年末なので今年公開映画のマイベストテンを。

10位『フォールガイ』
9位『関心領域』
8位『夜の外側』
7位『ポライト・ソサエティ』
6位『お坊さまと鉄砲』
5位『コット、はじまりの夏』
4位『密輸1970』
3位『異人たち』
2位『動物界』
1位『アイアンクロー』
 そして『トランスフォーマーONE』には特別賞をあげたい!

*今月のリーガル本*
唐福睿『台北裁判』(よしだかおり訳/ハヤカワ文庫)

 台湾の公設弁護人トンバオジは、殺人罪で被告人となったインドネシアの移民の青年アブドゥル・アドルの弁護をすることになりました。働いていた船の船長と妻、そして幼い子供を冷酷に殺害したとして死刑判決を受けたアドルに接見したトンバオジと見習いリェンジンピンは、明らかな違和感を抱きます。性格も育ちも正反対の彼ら二人が、やはりインドネシアから就労のため台湾に来た介護士のリーナの助けを借りて、死刑判決を覆そうと悪戦苦闘する胸熱の法廷サスペンスです。被告人に極刑を求める世論を敵に回すプレッシャーだけでも相当なものだと思いますが、トンバオジは同じ少数民族のアミ族から裏切り者扱いをされ、エリートの道を約束されたリェンジンピンは将来に悩み、リーナは毎日生きていくのがやっと、という三人三様の苦労を背負っています。そんな彼らがたどり着く結末は……。そうそう、台湾の司法制度には馴染みがなくとも、注釈も多く、人物名もカナがふってあるので安心して読めますよ!

*今月のグルメ本*
ミッティ・シュローフ=シャー『テンプルヒルの作家探偵』(国弘喜美代訳/ハヤカワ文庫)

 主人公のラディカはムンバイの上流階級出身。ニューヨークで作家として成功していましたが、恋人との別れや仕事のスランプをきっかけに故郷のテンプルヒルに帰ってきました。早速親友のサンジャナを訪ねたところ、その前日に彼女の父親が自殺していたことを知ります。自殺説をかたくなに否定する身重のサンジャナのために、ラディは自ら死の真相を突き止めようと調査を始めるのですが……。訳者あとがきにもあるように、本書にはびっくりするほど食事シーンが多いのです。しかもそこで描かれる料理の数々はバラエティに富んでいて、どれもこれも美味しそう! 料理名に追記された注釈がこれまためちゃくちゃ魅力的で、インド料理の守備範囲の広さにうっとりしてしまいます。食事とインドの社交慣習に関係があることを初めて知りました。とここまで聞くとほのぼのコージーミステリを想像するかもしれませんが、本書は家父長制や格差社会といったいまだに根強い問題も取り上げ、素人探偵の危険性もそれとなく示唆していたりと、読み応えもずっしり。そして読了後にインド料理が食べたくなること間違いなしの一冊です!

*今月のイチオシ本*
シャルロッテ・リンク『罪なくして』(浅井晶子訳/創元推理文庫)


 ついにスコットランド・ヤードを辞めて、ケイレブ警部のいるスカボロー署に移籍する決心をしたケイト。ところが新生活はとんでもないスタートを切ります。退職記念旅行をしていたケイトが乗った列車で銃撃事件が起きたのです。ケイトはある女性を銃撃犯から守りますが、その二日後、同じ拳銃で別の女性が撃たれて重傷を負っていました。予定より早く新職場で捜査に加わったケイトですが、頼りにしていたケイレブはまさかの事態に陥っていたのです。『裏切り』『誘拐犯』に続く〈ケイト・リンヴィル〉シリーズ第三弾は、前二作を読んでいた人にはケイトの大きな変化が感じられるはずです。自己肯定感の低さから自らトラブルを背負い込んでしまう傾向があるケイトですが、本書ではそうした事態にも対処できるようになり、なおかつ周囲に目を向ける余裕すらできてきたように思います。これはケイトを応援してきた読者にとっては大変嬉しいことなのですが、その一方で、以前なら絶対避けていたような無謀な行動に出てしまうので、相変わらずハラハラは止まりません。毎回驚愕の展開で驚かせてくれるリンクですが、今回の真相の衝撃度といったら!! 黒い!黒すぎる!! 犯人のキャラもシリーズ最凶。しかし今回はあの人が意外な活躍を! なんにせよ、次作までがんばれケイト!!!
 
*今月の新作映画*
『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』2025年1月24日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

 舞台は80年代香港。身ひとつで入国し、劣悪な木賃宿でその日暮らしをしていたチン・ヤッイン(トニー・レオン)に、ある日転機が訪れます。偶然知り合った実業家に頼まれ、ある人物を演じたところ、完全に相手を騙せたのです。それ以来、彼の運は上向くばかり。その大胆な手口と騙しのテクニックで数々の違法な取引を成功させ、みるみるうちに大金を稼ぎ、香港のみならず海外にも手を伸ばし、時代の寵児となりました。そんな彼から目を離さない一人の男がいます。汚職対策独立委員会(ICAC)のエリート捜査官ラウ・カイユン(アンディ・ラウ)です。ラウはチンを逮捕するために執念を燃やし、幾多の妨害にも負けず追及を止めませんが、ある日決定的な報復が彼を襲います。



『インファナル・アフェア』以来20年ぶりの共演! というだけでもめちゃくちゃテンションが上がりますが、とにかくトニーとアンディのファンの人は絶対に観てください!!! サイモン・ヤムも出ます!! 以上!  



……というわけにもいかないのでもう一言、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』X『アンタッチャブル』の興奮が味わえます! ケタちがいの犯罪 VS 地道な捜査! そしてある意味で『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でもあります。あともう一本〈あの映画〉を思い出したのですが、それを書くとネタバラシになるので内緒。トニーのめくるめく80年代コーディネートを見ているだけでも眼福ですし、書類にまみれたアンディの疲れた佇まいも萌えポイントです。しかしバブル景気にはクルーザーとシャンパンタワーは必須なんですねえ。あと悪人のスーツはやっぱりダブル! これは基本(笑)。




 


『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』
2025年1月24日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

 
監督・脚本:フェリックス・チョン『インファナル・アフェア』シリーズ(脚本)、『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』(監督)
プロデューサー:ロナルド・ウォン
エグゼクティブ・プロデューサー:アルバート・ヤン、ジェン・ジーハオ、アレックス・ヤン
出演:トニー・レオン、アンディ・ラウ、シャーリーン・チョイ/サイモン・ヤム、カルロス・チェン、マイケル・ニン、フィリップ・キョン、アレックス・フォン、タイ・ボー、チン・ガーロウ

2023年/香港・中国/カラー/シネマスコープ/5.1ch
原題:金手指/英題:The Goldfinger/126分/G/
字幕翻訳:神部明世
©2023 Emperor Film Production Company Limited All Rights Reserved

提供:カルチュア・エンタテインメント、博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
配給:カルチュア・パブリッシャーズ 宣伝:スキップ
公式サイトhttps://www.culture-pub.jp/goldfinger
公式X@Goldfinger_JP #映画ゴールドフィンガー

 
■『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』60秒予告《2025.1.24公開》■

  

♪akira
 翻訳ミステリー・映画ライター。月刊誌「本の雑誌」の連載コラム〈本、ときどき映画〉を担当。2021年はアレックス・ノース『囁き男』(菅原美保訳/小学館文庫)、ジャナ・デリオン『ハートに火をつけないで』(島村浩子訳/創元推理文庫)の解説を書きました
 Twitterアカウントは @suttokobucho










 

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