今月は、テレパスである警備コンサルタント、ジョン・スミスを主人公としたクリストファー・ファーンズワースのシリーズ第二作、Flashmob(William Morrow、2017年)を取り上げます。
リアリティ番組に出演している女優のキラ・サデギの結婚式に覆面を被った三人組が現れ、拳銃を乱射する。たまたま招待されていたジョンの活躍で犯人たちは取り押さえられたものの、キラは重傷を負う。
キラの父、実業家のアーミンはかつて誘拐された娘の奪還をジョンに依頼した経緯があったが、今回は襲撃の実行犯だけでなく、関係者全員への報復を託する。
FBIの事情聴取を受けたジョンは、捜査官のグレゴリー・ヴィンセントの脳裏から〈ダウンヴォート〉と呼ばれるダークネットに存在するサイトが今回の事件に関与している、という思念を読み取る。それは、閲覧者が気に食わないと感じる人物に「反対票」を投じるサイトで、キラだけでなく、最近暴漢に襲われたと主張して発砲事件を起こした俳優の名前も挙がっていた。
功を焦るヴィンセントは、プログラマーであるアーリク・スタックが〈ダウンヴォート〉に関わっている可能性がある、とジョンに打ち明ける。
ソフトウェアの開発によって巨額の富を築いたスタックは、金銭授受の記録を一切残さない送金アプリのコードを考案して、複数のウェブサイトに公開した廉で連邦政府から召喚状が出されており、現在は自身が所有する巨大ヨット〈ノーティラス〉で米国の司法権が及ばない公海に避難していた。
FBIは送金アプリと〈ダウンヴォート〉には同じコードが使用されていることも突き止めていたが、自分では手が出せないヴィンセントは、ジョンにスタックを調べるよう唆す。意外にもスタックはジョンの要望を聞き入れ、〈ノーティラス〉での面会が実現する。
オンラインで溢れる他人への悪意を何とか宥めたいと考えたスタックは、〈ゴドウィン〉というハンドルネームしか知らないプログラマーの協力を得て、一種のウィルスを共同で開発していた。それはウェブサイトから秘かに閲覧者のPCに侵入し、前向きな感情を伝染させるはずだった。
それを試すため、二人は野球場で観戦中の少年からファウルボールを横取りして全米で話題になったゲーリー・ホームズを対象に、ボールを返却させるよう周囲からの圧力を形成できないか実験を開始する。
しかしホームズは自宅で殺害される。警察は強盗事件と発表したものの、スタックはインターネットの掲示板に投稿された死体の写真を見つけ、自分たちのウィルスに影響された者による殺人だと判断して、〈ゴドウィン〉に開発の中止を伝えると共に、それまでの成果をすべて消去する。
しかし〈ゴドウィン〉は勝手に〈ダウンヴォート〉を起ち上げ、ウィルスを秘かに拡散させていたことが明らかになる。
スタックは〈ゴドウィン〉を連邦政府に差し出す代わりに送金アプリの訴追を免れたいと話すものの、オンラインで知り合ったため、相手の本名も分かっていない。しかし〈ダウンヴォート〉へのサイバー攻撃を繰り返し、〈ゴドウィン〉がサーバー管理を依頼している人物を突き止めていた。
ジョンはスタックの護衛を務めるサラ・フィッチと共に、共犯者がいるヒューストンへ向かうが……
他人の思考を読み取る力を持った主人公は孤児として育ち(ジョン・スミスという名前も州政府によってつけられている)、軍に入隊後、隠していた能力を見出されて特殊部隊に編入される。
相手の行動を操ることに加え、苦痛や不快感を体験させる能力を習得して数多くの任務に駆り出され、除隊してからはテレパスの能力を活かした警備コンサルタントとしての地位を築いていた。
直接対面すれば相手の考えは筒抜けとなるので、事情聴取を受けるふりをして必要な情報を手に入れながら突き進む主人公に対して、〈ゴドウィン〉はソーシャルメディアにジョンやサラらしき人物のフェイクニュースを流すことでその行く手を阻もうとする。
全27章から成る物語の第14章から始まる追跡劇でジョンたちはヒューストンからレイキャビク、ブカレスト、そして香港(第21・22章)と駆け巡るが、第23章からは予想もしなかった方向へと大きく舵を切る。
香港までの展開も充分に読み応えのある出来栄えではあったが、更にいくつもの山場を迎えて結末へなだれ込む構成によって、シリーズ一作目の Killfile(William Morrow、2016年)を上回る読後の満足感がある。
著者は2025年よりロバート・B・パーカーのジェッシイ・ストーン・シリーズを引き継いでおり、残念なことにジョンの活躍が読めるのはKillfileとこの作品のみ。
早く三作目を読みたいと願っているファンは多いと信じている。
| 寳村信二(たからむら しんじ) |
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1月下旬に左眼を怪我してしまい、右眼だけで数日間過ごす羽目になりました。改めて健康のありがたさを痛感した次第です。 |
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