全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 今回は、製作リドリー・スコット(『オデッセイ』)、監督ジェイムズ・マンゴールド(『ローガン』)で映画化が予定されている血みどろ外道警察ノワール、ドン・ウィンズロウ『ダ・フォース』(田口俊樹訳/ハーパーBOOKS)をご紹介します。


“凶悪な犯罪に敢然と立ち上がる情け無用の男、ニューヨーク怒りの用心棒”は刑事コジャックでしたが(このネタ、何人がわかるんだろう……)、現代のニューヨーク市警では、ずばぬけてタフで有能で命知らずな警官たちで構成されたマンハッタン・ノース特捜部――通称〈ダ・フォース〉――の面々がまさにそんな感じ。本書はそのリーダーである主人公デニー・マローン部長刑事が連邦拘置所に入っている場面から始まります。
 
 ニューヨークの警官ならもちろん、市長ですら名前を知っているマローン。根っからのお巡りである彼とダ・フォースのメンバーたちは、ニューヨーク史上最大の麻薬組織の手入れで大成功を収めただけではなく、家庭内暴力などの犯罪にも文字通り身体をはって立ち向かい、多くの人から敬意を集めてきました。

(前略)彼らは街をわがものとし、王のように支配していた。そこに住んで、まっとうな暮らしをしようとしている人々のために街を安全にし、安全にしつづけてきた。それが彼らの仕事だった。彼らの情熱であり、愛だった。

 市民から憎まれても、自分の命が危険にさらされても、警官を世界で一番いい仕事だと思っているマローン。仲間と心から信頼しあい、子供への犯罪は絶対許さず、正義感が強いあまり被害者の苦しみすら背負ってしまうような男。
 
 しかし彼は、平気で汚い金に手を出す、汚れたお巡りでもあったのです。
 
 彼の辿ってきた過去、ニューヨークの王として君臨した栄光の日々、そしてその結果多くの裏切りの代償を背負うこととなった現在。作者ウィンズロウは、燃えたぎるような情熱と正義感と悲しみを主人公に投影しつつ、その非情な顛末を容赦なく描ききっています。麻薬戦争と人種差別反対のための暴動が渦巻くニューヨークで、マローンが唯一心を許せるのは元妻でも子供でも愛人でもなく、チームメンバーだけ! 「彼らのためなら死ねる」とまで言い切ってしまうことのできる仲間とは――

ビッグ・モンティ:巨漢の黒人。火のついていない葉巻と中折れ帽がトレードマーク。ごつい見かけにだまされる者も多いが、実はIQ129でチェスの名手。
フィル・ルッソ:イタリア系には珍しい赤毛。背が高く細身で、レトロなコートも特注のイタリア製スーツも着こなすオシャレ名人。毎週散髪に行き、1日2回髭を剃る。
ビリー・オー:典型的なアイルランド気質。ケネディ大統領っぽいルックスで、女にもてて大の犬好き。

 身長188センチのガッシリ体型、黒い短髪に青い目、太い二の腕にはタトゥー、常に黒ずくめのアイルランド系マローンとチームの見た目は、警官というよりむしろ犯罪者集団。<わかる気がする 
 そんな彼らの仲良し(?)エピソードが期待以上にてんこ盛りの本書なのですが、なかでも筆者が興奮のあまり倒れそうになったのが、〈ボウリング・ナイト〉。これは〈ダ・フォース〉のメンバーたちが、各々が持つ最高に上等なスーツ姿でキメて、高級レストランでステーキを食らうという集いだそうなんですが―― 
 なにそのグループデート! 最高じゃないですか!!!! (うっとり)
 
 これ、注文はステーキじゃなきゃダメ!とかいろいろ制約があるのですが、実はそれにはなるほど~という理由があって大変面白いんですよ! いつもそんなにおしゃれな彼らなのに、裁判所には庶民的な格好で行くというのは、以前デイヴィッド・C・テイラー『ニューヨーク1954』(鈴木恵訳/ハヤカワミステリ文庫)でご紹介したエピソードと同じだったりして、60年以上経ってもそういう思い込みは変わらないものなんだなあと思います。チップの話は映画『レザボア・ドッグス』冒頭のダイナーでの場面をほうふつとさせますし、本書でも言及されている映画『グッド・フェローズ』(原案ノンフィクションのニコラス・ピレッジ『ワイズガイ――わが憧れのマフィア人生』、めちゃくちゃ面白いです! 熱烈復刊希望!!)とも共通点が多いので、映画ファンの方にも全力でオススメしたい!
 
 そして本書にはぐっとくるフレーズも満載です! 仕事柄ひんぱんに銃撃戦も経験し、銃で命を救われたこともあるマローンですが、ウィンズロウは彼にこう言わせています。

 全米ライフル協会の馬鹿どもは言う。「銃が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ」ああ、そのとおりだ、とマローンは思う。銃を持った人間が殺すのだ。

 
 先日の銃乱射事件が思い出されますが、銃社会アメリカに生きる作者の考えを明確にしたセリフではないでしょうか。
 では最後に、マローンとルッソのとっておきの萌えシーンをば。

「やってほしいことがあるそうだ。時間あるか?」
「愛するきみのためなら……」

 こんな会話が随所でナチュラルに交わされてるんですけど!!! ていうか、最後の〈……〉は何!?
 キング絶賛帯も何のその(?)、間違いなく面白い本書。全腐女子はもちろん、そうでない方々もぜひお読みください!
 
 さて、『ダ・フォース』は警察チームVSマフィアの仁義なき闘いと仲間への裏切りが2大テーマですが、まさにそれを扱った必見の2作品が同時期に上映、しかも両方とも韓国映画! というわけで今回は2本まとめてご紹介します!




 まずは4月28日(土)公開の『犯罪都市』。警察強力班副班長マ・ソクト(マ・ドンソク)は地元密着の人情刑事。刃物を振り回す血の気の多いヤクザも、その巨大な身体から繰り出す強烈な張り手一発でKO。いつもの組同士の小競り合いかと思われた刺傷事件は、中国から密航してきた黒竜組のチェン(ユン・ゲサン)がシマを荒らして組織を乗っ取ったことから、市民を巻き込んだ血まみれの抗争に発展していくのでした。

 2004年にソウルで起きた実話をベースにし、韓国で観客動員680万人を突破した大ヒットヤクザ映画。『新感染 ファイナル・エクスプレス』で素手でゾンビと闘ったマブリー(大人気の本国でのあだな。マ+ラブリー)の、今回の敵は凶暴な鬼畜ヤクザ軍団! 韓国映画の必殺技のイメージって今までは飛び蹴りだったんですが、これからは張り手の時代かも! 捜査部屋が超狭いプレハブ建築だったり、チームで銭湯に行ったりとか、庶民的なリアル感あふれる描写も要チェックです。ラストの肉弾戦もど迫力! 見終わった後、きっとあなたもマブリー(とそのぶっとい腕)の虜になりますよ!



 もう一つの作品は5月5日(土)に公開される『名もなき野良犬の輪舞(ロンド)』。本年度の日本翻訳大賞を受賞したキム・ヨンハ『殺人者の記憶法』の映画化で主役を演じたソル・ギョングが、裏社会でトップにのしあがる野望を抱く主人公ジェホを、刑務所でジェホと義兄弟となる若者ヒョンスは、ボーイズグループZE:Aのイム・シワンが鮮烈に演じています。


 刑期が終わった日、真っ赤なオープンカーでヒョンスを迎えに来たのは兄貴分のジェホでした。服役中に起きた事件がきっかけで二人は運命共同体となったのですが、ジェホが組織を乗っ取る手伝いをするため、ヒョンスは巧みに組織に入りこみ、裏社会で着実にのし上がっていきます。

 いわゆるアニキと弟分との関係に焦点を置いたヤクザ映画は数あれど、痛々しいまでの苦しみと絶望感、そしてどうしようもない孤独と闇から逃れられない男二人の哀しい宿命を描いた本作は、現時点でノワール・ブロマンスの最高峰と言ってもいいのではないでしょうか!

 この作品で最も凄いのは、強いアニキと憧れる弟分というヤクザ映画の定石をくつがえし、無鉄砲で若い力がみなぎる弟分と、その魅力に抗おうと自分を偽るアニキの苦悩を完膚なきまでにさらけだす脚本に他なりません。ヒョンスはある目的を持ってジェホに近づくのですが、驚くべきことに途中でその理由を明かすという荒技には驚き。ヒョンスははたから見ればしたたかで狡猾にも思えるのですが、今まで人を信じることができなかったジェホは、一縷の望みをかけてヒョンスを信じます。まさにヒョンスはジェホのオム・ファタルなのです。裏切りにつぐ裏切りの果てに辿りついた結末にはどんな悲劇が待ち受けているのか、ぜひ劇場で確かめてください。
 
●『犯罪都市』予告編

 
●『名もなき野良犬の輪舞』予告編

 

『犯罪都市』
■4月28日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー■
 
コピーライト表記:© 2017 KIWI MEDIA GROUP & VANTAGE E&M. ALL RIGHTS RESERVED
監督:カン・ユンソン  
出演:マ・ドンソク、ユン・ゲサン、チョ・ジェユン ほか
2017/韓国/カラー/韓国語/121分
公式HP: http://www.finefilms.co.jp/outlaws/
配給:ファインフィルムズ

 
 

『名もなき野良犬の輪舞』
監督:ビョン・ソンヒョン『マイPSパートナー』
出演:ソル・ギョング『シルミド SILMIDO』 イム・シワン『弁護人』 
  チョン・ヘジン『王の運命―歴史を変えた八日間―』 
  キム・ヒウォン『アジョシ』 イ・ギョンヨン『ベルリンファイル』
2017年/韓国映画/120分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/PG12
字幕翻訳:石井 絹香
原題:불한당: 나쁜 놈들의 세상
提供:ツイン、Hulu
コピーライト表記:© 2017 CJ E&M CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED
■5月5日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー■

  

♪akira
  一番好きなマーベルキャラクターはスタン・リーです。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらったり、「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーを担当したりしています。
 Twitterアカウントは @suttokobucho








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