今回は初めてのノンフィクション、CrimeReads というサイトのニュースレターで知った Black Klansman を取り上げます(原著は2014年に Police and Fire Publishing より出版され、筆者は2018年に Century が出した kindle 版で読みました)。
 著者のロン・ストールワースは1970年代に米国のコロラド・スプリングス警察に初めて採用された黒人男性で、Black Klansman は彼が白人至上主義を標榜するクー・クラックス・クラン(KKK)に対して行なった潜入捜査を回顧した作品です。

 1978年10月、警察官となって四年目の著者は地元の新聞に掲載されたKKKの募集広告に目を留めた。
 情報収集に役立てばと思い、大した反応も期待せずにうっかり実名で入会希望の手紙を送ったところ、数日後にケン・オデルと名乗る男性から電話がかかってきた。連絡があるとしてもパンフレットが送られてくる程度のことだろうと高を括っていた著者はなんとか調子を合わせて対応したものの、オデルは直に会って詳しくKKKの活動を説明したい、と熱心に勧誘する。
 麻薬取締班に配属されているチャック(白人)を自分の替え玉に仕立てて潜入させようとしたところ、班を率いる警部補から横槍が入った。思い余った著者は直属の上司であるトラップ巡査部長とともに署長に直談判し、捜査を進めるための許可を取り付ける。
 チャックは麻薬捜査を優先させるため、オデルからかかってくる電話は著者が引き受け、KKKのメンバーと会う際にはチャックが「白人の」ロン・ストールワースとして対応するという前代未聞の潜入捜査が始まった。
 オデルと接触したチャックは、コロラド・スプリングス支部の団員は数名にしか満たないものの今後は大々的な募集活動で人員を増やす計画で、それと並行して少なくとも四か所で十字架に火を放つ計画を立てていることを知る。
 また1979年の1月にはグランド・ウィザード(KKKの首領)のデイヴィッド・デュークがコロラド・スプリングスを訪れるのに合わせ、団員を百名まで増やして白い装束で行進することも目論まれていた。
 
 物語の中心はもちろんKKKへの潜入捜査ではあるが、それとともに当時ブラックパンサー党を率いていたストークリー・カーマイケルが市内のクラブで行なった講演会の内偵や、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの遺志を引き継いだラルフ・アバナシーの警護、といった著者が直接関わった70年代末期の生々しい状況が伝わってくる内容も織り込まれている。
 また、当時のコロラド州のグランド・ドラゴン(KKKの州組織の首領)だったフレッド・ウィルケンズは消防士で、KKKの一員であることを公にしていたことや、米国陸軍の駐屯地であるフォート・カーソンに配属されていた軍人の中にもKKKの広報誌の購読者がいたことも記されている。
 警察としてはKKKの活動を監視するだけでなく、その募集活動が活発化するに連れてブラック・ムスリム(ネーション・オブ・イスラーム)やブラックパンサー党、そして進歩的労働党といったKKKと真っ向から対立する団体が過激な行動に走らないか注意する必要もあった。
 しかし様々な出来事の中での白眉は、著者がフロリダ州パーム・ハーバーに設けられた〈クランの声〉と名付けられたKKKの宣伝用電話番号にかけてみたところ、偶然にも現地を訪れていたデイヴィッド・デュークが電話に出る場面だ。
 著者はコロラド・スプリングスで入会審査を受けている者だと自己紹介し、まんまとグランド・ウィザードを騙すことに成功する。
 またその後もKKKの本部が置かれていたルイジアナ州メテリーに電話をかけて自分の団員資格審査を早めてほしいと要望し、更にはグランド・ドラゴンであるウィルケンズにも電話をかけて堂々と情報収集を行なうあたりは痛快なことこの上ない。
 全体的には地味な印象を受けるものの、70年代末期の社会状況が活き活きと伝わってくる佳作といえる。
 
 あと、作中で映画『國民の創生』(1915年、D・W・グリフィス監督)が出てくるが、これに関してはたまたま読んだ『最も危険なアメリカ映画』(町山智浩/集英社/2016年)が大いに参考になったので記しておく。
 また、本作は BlackkKlansman(原題、スパイク・リー監督)として2018年のカンヌ国際映画祭で上映されてコンペティション部門でグランプリを獲得、8月10日から米国で公開される予定だ。

映画『BlackkKlansman』公式トレーラー

 

寳村信二(たからむら しんじ)

20世紀半ばの生まれ。先日『Godzilla/決戦機動増殖都市』(監督:静野孔文、瀬下寛之)を鑑賞。アニメーション映画を観るのは十数年ぶりであったが、予想以上に楽しめた。

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