2018.06.30 せんだい探偵小説お茶会「シャム双子の秘密」「ニッポン硬貨の謎」読書会報告(文責 クイーン・ファン)

★—★の部分は課題書未読の方に結末がわからないよう伏せ字になっています。既読の方は文字を反転させてお読みください。

第一幕
 せんだい探偵小説お茶会も6年目を迎え、今年もエラリー・クイーン祭りが無事開催されました。ホストのふがいなさで紆余曲折はありましたが、この場をお借りして、ご協力を賜った飯城勇三氏とご参加いただいた皆様に心より御礼申し上げます。
 今回企画したのは、「シャム双子の秘密」(角川文庫 エラリー・クイーン著、越前敏弥・北田絵里子訳)と「ニッポン硬貨の謎」(創元推理文庫 北村薫著)でした。


 2冊というボリュームがあっても、14名の方に参加していただきました。(初参加は2名でした。それも関東から!)。
 さて、本題に入って、前回の「スペイン岬の秘密」と同様に、エラリー・クイーンファンクラブ以外のミステリランキングに取り上げられたことはありませんが、直木賞作家の北村薫がパスティーシュを作るまでに至った魅力的な作品であることは間違いありません。
 1983EQFC(エラリー・クイーンファンクラブ)国名シリーズ+1アンケート5位、1997EQFC全長編アンケート12位、2014EQFC国名シリーズ+2アンケート8位と、「スペイン岬の秘密」よりも、「シャム双子の秘密」は評価が高いと思われる作品であります。
 今年も梅雨の時期でありましたが、昨年同様、夏日の暑さで厳しい中、せんだい探偵小説お茶会を迎えることとなりました。
 参加者の感想は好意的なものか? それとも不満の声か? ホストとしては、どちらの考えも聞きたい! なぜなら、読者それぞれによる考えがあってこそ、作品のとらえ方が複雑になり、深まっていくと考えているのですから。それでは、はじまり、はじまり……。

第二幕
 毎回、クイーン読書会では、作品にちなんだお菓子が出てきます。ホストからは「シャム」ということで、タイのお菓子、エビチップスやマンゴープリン、ドライマンゴー、チョコレート菓子等を。差し入れでは、飴や団子をいただきました。本作品でも探偵が菓子を食べる姿が見られなかったので、ホストの菓子選びは、お茶を濁すようなセレクトになってしまいました。次回の読書会では探偵が菓子を食べている場面に出会えることを祈念したいと思います。
閑話休題。
 さて、自己紹介を終えて読書会は本書の内容へと。参加者の「シャム双子の秘密」感想は以下のようなものでした。
「謎解きのために設定されて、謎解きをしたという印象。けっこうあっさり読めた」
「瀕死の〇〇〇を時間をかけて殺害する必要はなかったのではないか。推理も迷走していたためか、クイーン作品好きだと自覚していたのに、その気持ちが揺らぎはじめた……」
「おどろおどろしさがカーを意識しているのかと思った。冒険小説を読み終えたような感動を覚えた」
「好きな要素がてんこ盛りで、おいしい幕の内弁当を食べたような気分。山火事の中で殺人があり、その中でも殺人について考えようとすることに、人間の良心を感じた」
「サルトルの戯曲『アルトナの幽閉者』で『かに、かに、かに』と登場人物が叫んでいる場面を思い出した。推理小説として凄いと感じる部分はなかった。『ギリシャ』での失敗が活かされていないのでは。名探偵らしからぬ行動が多かった」
「火事なのに食べ物やガソリンに対する緊迫感が足りない。警視の罪悪感も足りないのでは。飛行機から助けられないという紙が落とされたのがショックだった。クローズドサークルの原型となった作品であることには感慨を覚えた」
「山火事なのに家に入って安心しているのが不思議。火事を忘れて過ごしているのが信じられない。ヨーデルでしらせあおうとしていたが、私にはできない。やっているところを見たかった」(創元推理文庫 井上勇訳では「ヨーデル」ではなく「大きな声」と訳されていました。越前先生、なぜヨーデルと訳したのでしょうか? お教えいただければ幸甚であります)
「いろいろな要素が盛り込まれすぎていて、山火事のことだけが残ってしまった。召使が車からガソリンを出していて、燃えるだろうと思った。山火事に対する行動が、大丈夫なの?」
「クローズドサークルに目がないので、私のベスト5に入る作品! 法月綸太郎作品に山火事の原因がSF的解釈で書かれていた。★4章の引用はミスリードとわかった★」
「翻訳ミステリシンジケート内で突っ込みどころの部分を読んでいて、読んでみたら山火事に対する突っ込みどころがたくさんあることが明らかになった。乱歩の『孤島の鬼』を連想した。警視が妻の指輪を盗まれて怒ったところがかわいかった」
「筋書きは評価できるが、エラリーが推理らしい推理はしていなかったのでは。★『指輪を盗んだ人が犯人』という場面で真犯人をかばおうとする人がいて出ていったら、その人が犯人になってしまう。★つまり、犯人は誰でもいいということになるのではないか。実際、エラリーが、犯人が逃げて行って『そのことは、もう忘れましょう。これからどうするか?』と言った場面が面白く思えた。そして、本当に犯人は誰でもよかったのだなと思った。自白してくれてよかったという終わり方と感じた」
「他の可能性はあり得ないという証明が、ないところに疑問を感じた。★指輪を盗んだ犯人が殺人犯で山火事という異常な状況設定も『指輪』を真犯人に取らせて解決を導くことをすくうためだったのではないか。★第二の被害者の死は、クイーン親子が責任追及で裁判にかけられるような状況だったのではないか。★シャム双子を登場させたのは、トランプのダイイングメッセージのためだけのように思えた★」

 推理については、山火事のインパクトを超えられるようなロジックの煌めきが感じられず、ヨーデルと救出されそうで、されない場面での驚愕の方が記憶に残ったという感想が多いようでしたが、本作品の要素から、現代本格ミステリの傑作が生まれたとの感想も多かったように思われます。

第三幕
 「シャム双子の秘密」について一度語り終えた時点で、予定時間の半分を過ぎてしまい、「ニッポン硬貨の謎」について感想発表をしていただきました。

「こちらの方が楽しく読めて、面白かった。引用文については成程と思った」
「注釈が多くて、読みづらく、中身があまり入ってこなかった」
「クイーンを読んでいないと楽しめないのでは。探偵小説の中の名探偵とはなんぞや?と考えさせられた」
「世間を騒がせている大事件と名探偵という設定が大好きなので楽しく読めた。後期クイーンを読むともっと楽しめる」
「いつもの北村作品とは違っている。海外から見た日本の書き方がよかった」
「クイーンが大好きで書いたのが、すごく伝わってきた。注釈の多さが訳者の顔が見えすぎる感じがした」
「私が自分の神様に会えるなら、仕事は全部休みます。解決の論理は幻想的すぎるかな」
「北村作品はアンソロジーを好んで読んでいます。海外の人が書いたものを日本人が訳した感じが出ていて大変上手なパスティーシュと思った。英語の俳句は三行詩であればいいので、その辺も上手いと思った」
「注釈からもクイーンに対する情熱を感じた。ベッキーさんシリーズが好きで、その流暢な文章との違いに驚いた」
「注釈には、疲れた。傍に書いてある脚注の方が好き。解決はこじつけ感が強いように思えて、少し理解できなかった。クイーンは好きだけれど、これは……」
「北村作品は結構好きで読んでいる。この作品は、強制的に自分を納得させた」
「『シャム双子』の新解釈が評価された作品だと思う。クイーンの登場人物の書き方の失敗もわかる作品。クイーン生誕100年に合わさった良い企画だったと思う」
「作者が一番楽しんでいる作品だが、それに同調できなかった。『シャム双子の秘密論』での★『読者への挑戦』を入れると、それまでに出た解決がすべて偽りであることを宣言する。偽の手掛かりによる推理がたまたま真犯人を当ててしまったから★『読者への挑戦』を入れなかったという考えには納得できない。正しい手掛かりと推理による解明がされればよいのだから、その状況が作られた時点で『読者への挑戦』を入れることができたのではないか。『シャム双子の秘密』は論理的な解決とはいえない結末だったから挑戦状は入れられなかったということなのではないか。第四章の引用文があるから『読者への挑戦』を入れなかったという考えにも納得ができない。小説とミステリを対比させているところがあって、北村氏はミステリよりの考えなのはわかるが、ミステリの純粋さを突き詰めたら、ゲームとかパズルでしかないとしたら共感はできない」

 作者が楽しんで書いていることと、海外から見た日本の翻訳物として上手く表現されていること、クイーン作品を読み込んでいないと楽しめないのでは、との考えが多かったと思われます。また、『読者への挑戦』と引用文については慧眼なご意見をいただくことができました。
 今回の読書会は、この時点で時間がいっぱいとなってしまいました。ホストの時間設定の甘さから「あなたがもっとも好きなキャラクターと場面と台詞は?」を参加者の方からお聞きすることはできませんでした。
 ホストは、思いもよらなかった意見や考えを聞くことができ、読書会の良さを、またまた再度実感することができました。

第四幕
 今回も参加者の方々にアンケートのご協力を13名の方にいただきました。ご協力ありがとうございました。(それぞれ10点満点です)

  プロット サスペンス 解決 文章 論理性

感動・
余韻

参加者 6 10 6 9 9 7
参加者 6 8 6 6 7 8
参加者 7 5 4 5 6 5
参加者 5 5 6 8 5 9
参加者 5 5 3 5 5 4
参加者 8 9 8 7 7 10
参加者 7 8 6 6 7 6
参加者 6 7 3 8 6 6
参加者 5 7 5 5 6 5
参加者 7 8 5 7 4 8
参加者 7 8 6 7 6 7
EQⅢ 10 9 8 8 9 10
ホスト 10 9 10 8 9 10

※表中のEQIIIは飯城勇三氏のことです。

せんだい探偵小説お茶会アンケートの平均点

  プロット サスペンス 解決 文章 論理性

感動・
余韻

平均点 6.8 7.5 5.8 6.8 6.6 7.3

昨年の「スペイン岬の秘密」、せんだい探偵小説お茶会アンケートの平均点

  プロット サスペンス 解決 文章 論理性

感動・
余韻

平均点 6.4 5.9 7.6 6.3 7.3 6.2

「シャム双子の秘密」と「スペイン岬の秘密」の平均点を比較してみると、ほぼ同じぐらいの点数となりました。ただし厳密に計算をしますと(平均点を足して6で割ってみました)、「シャム双子の秘密」の方が少し上になっていました。皆様いろいろとお話をしていましたが、楽しんでくれたのかなとホストは思っております。

 読書会終了後には、T氏からの古本プレゼントコーナーが開かれ、参加者全員が鼻息を荒くして参加し、素晴らしい古本をいただくことができました。T氏へ、この場も借りて御礼を申し上げたいと思います。

 懇親会へ向かう際には、ホストが山火事の中のエラリーのように迷いながらも会場につくことができました。そこはアローヘッド館ではありませんでしたが、ビールとおいしいおつまみをいただきながら、「シャム」と「ニッポン」やミステリの話題が続き、楽しく時を過ごすことができました。

終幕
 ホストのあれこれで語る前に、懇親会でも『読者への挑戦』について話題となりました。ホスト自身も『読者への挑戦』を入れることができたのではないかと考えていたので、「シャム双子の秘密論」以外の理由で入れなかったとしたら、読書会でご意見いただいた、論理的とはいえない解決の仕方だったからではないか、というお考えに傾きかけていました。ですが、なんとなく引っかかっているところがあったので、その後、まず再読してみようと思い、再読してみました。
 読書会で、いろいろなご意見をいただきましたが、最後まで楽しく読了することができました。そして、「他の可能性はあり得ないという証明がされていない」というご意見をいただいていましたが、終盤の推理に突っ込みはいれず、山火事に襲われ、パニック状態の状況での推理をつぐむ手順に、またまた感心させられていました。
 読了後、『読者への挑戦』が入らなかった理由に、新しい考えが二つ浮かんできました。
 まず、一つ目は、ミステリとして反則なのかもしれませんが、★探偵の失敗を予感させるため、山火事から助かるけど真犯人を特定できなかった。犯人が指摘できないミステリという、終幕にミスリードするため★だったのではないかという考え。
 二つ目は、「『読者への挑戦』を入れると、★それまでに出た解決がすべて偽りである★ことを宣言する」と変わらないじゃないかと言われるかもしれませんが、『読者への挑戦』を入れないことで、読者に「これまでに語られた推理や自白の中に真相があるかもしれないよ」★と、ヒントのようなものとして、そうしたのではないかという考えです。
 もう一つは、読書会前に考えていたことで、最後のホストのつぶやきで、出てきますので、そちらを読んでいただければと思います。
 読書会のおかげで、再読して、ここまで考える機会を得たことは幸甚でありました!

 参加された方々の正直なお話を聞けて、本当に良かったです!! これだけ語り合えるエラリー・クイーンの作品は、ミステリの特異点だったと、改めて感じることができました。次回のクイーン祭りもお楽しみに!!!

「飯城勇三氏のアンケート回答」と「ホストのあれこれ」は、課題書既読のかたにお楽しみいただけるようにPDFファイルにまとめました。リンクをクリックしてお読みください。

飯城勇三氏のアンケート回答とホストのあれこれ