全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 まずいきなり質問です。本を買う時の決め手は何ですか? 好きな作家のシリーズ最新作だったり、ベストセラーや国際的な賞を取った作品だったり、映画の原作本だったり、本格やスパイものといったジャンルだったりといろいろあると思うのですが、私自身はとりわけ日本初紹介の作家に食指が動くタイプです。その次は邦題と表紙で、たとえばA・J・フィン『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』『ガール・オン・ザ・トレイン』っぽい話なのかな? でも表紙が『裏窓』っぽくて気になる!)、レイ・ペリー『ガイコツと探偵をする方法』(表紙イラストも楽しいし、カタカナのガイコツだからユーモアミステリだよね、面白そう!)、ローラン・オベルトーヌ『ゲリラ 国家崩壊への三日間』(いかにもヤバそうなフード人物シルエット! 何が起きたの!? 絶対読まなきゃ!)という感じでワクワクするわけですが、今回ご紹介するニコラス・ペトリ『帰郷戦線―爆走―』(田村義進訳/ハヤカワ文庫NV)は、おお初登場作家のシリーズ第一弾だ! でも「帰郷」で「戦線」で「爆走」って? しかも弾痕でボロボロの車とドル札の束と自動小銃というイメージ表紙(笑)。二作目の『暗殺者の正義』から二字熟語になったマーク・グリーニーの暗殺者グレイマンシリーズのタイトルが、ディック・フランシスというよりもなぜかセガールの沈黙シリーズを思い出させるハヤカワNV(褒めてます!)にまさしくふさわしい本書は、国際スリラー作家協会賞とバリー賞の2冠達成! これでもう読みたくなった方も多いと思いますが、おまけに腐心も満足させてくれるというサービスてんこもりの作品なのです。
 
 主人公は元海兵隊武装偵察隊中尉のピーター・アッシュ、30歳。8年間で2つの戦争を経験した彼は、多くの帰還兵と同様、除隊後もずっとPTSDに悩まされています。ピーターの場合は深刻な閉所恐怖症で、狭い場所に入ったり、室内に短時間いただけでも極端な不安に襲われ、頭の中に耳障りな音がする発作が起きるのですが、彼はそれを“ホワイト・ノイズ”と呼んでいます。その症状を克服するためピーターは自然の中で野外生活を始め、人との交流も雑音もシャットアウトして1年以上経ったころ、軍隊で腹心の部下だったジミーの訃報を知らされます。過酷な戦争体験のために祖国に帰っても日常が取り戻せない兵士たちについて書かれたノンフィクション、デイヴィッド・フィンケル『帰還兵はなぜ自殺するのか』(原作映画は『アメリカン・ソルジャー』の邦題でソフト化)などを読まれた方も多いかと思いますが、その苦悩は本書でも克明に描かれています。
 
 物語は自殺したジミーの家をピーターが修理するところから始まります。大学では経済学を学んでいたピーターですが、子ども時代から大工仕事が好きでした。「ちょっとした工夫と、筋肉と、いくつかの大工道具があればいい」(うーん至言)と、成果が出て、しかも誰も死なないですむ仕事はピーターを落ち着かせます。このくだりがまるでL ・T ・フォークス『ピザマンの事件簿』シリーズのように作業過程の描写が詳しくて面白いのですが、それもそのはず、作者のペトリ(著者近影がちょっとステイサム似)は現在も大工と建築検査官としても働いているとか。しかし修理中のポーチの下には近所の猫さえも捕まえて食い殺している凶暴な犬が潜んでいるのです。ジミーの妻と小学生の息子2人の安全のために、ピーターは暗い閉所で恐怖を感じながらも70キロ以上もある巨大な犬を捕獲すると、その奥にはなんと40万ドルの札束と爆薬が入ったスーツケースが隠されていました。
 
 大金と爆薬の謎を追っていくうち、ジミーが家族に隠していたある秘密を知ってしまったピーターは命を狙われることになるのですが、殺伐とした展開中にときおりはさまれるジミーのエピソードと、それを思い出すピーターの心情がとにかくグッとくるんですよ! どんな時でも相手に敬意を払っていたジミー、そんな彼が残した家族のために命がけでピーターが探り当てた真相は、予想もしない巨大な陰謀だったのです。これ、動機に結構びっくりするんじゃないかと思いますよ! 
 
 実は本書、ピーターとジミーの他にも微妙な萌え関係が発生するのですが、実はそれを書いてしまうとややネタをばらしかねないという悩ましいものなのです……。というわけで今回は突然のクイズです! ピーターとの交流が微笑ましい相手は次のうちどれでしょうか?

・かつてはジミー夫妻の友人で、今はヤバい仕事に手を染めているスキンヘッドのルイス
・元陸軍特殊部隊所属の刑事リプスキー
・ジミーの長男チャーリー
・黒いキャンバス地のジャンパーを着た男
・巨大犬

 
 答えはぜひ本書で確かめてくださいね!
 

 さて本書と同じく、やっぱり(超強い)主人公の親友を殺しちゃだめだよ!と犯人を捕まえて説教したくなることがありますが、まさにこの人だけは怒らせちゃいけないナンバーワン、デンゼル・ワシントン主演の秒殺仕置人シリーズ待望の第二弾『イコライザー2』が10月5日(金)より公開されます!! 待ってました!!!


 デンゼル演じるロバート・マッコール、前回はエプロン姿がラブリーなホームセンター従業員でしたが、今回はハンチング姿も素敵なタクシー運転手。困っている客はこっそりと助け、犯罪者の客には正義の鉄槌をくだす彼は、元CIAのトップエージェント。まばたきをする間に何人も殺せるほどの超凄腕スペシャリストが鬼畜な敵を次々と倒していく爽快シリーズ、今回はかつての同僚で親友のスーザン(メリッサ・レオ)が出張先のパリで惨殺されてしまいます。悲しみを怒りに変えたマッコールは特殊技能を駆使して犯人探しを始めたところ、その事件の裏に隠されていた黒い秘密を探り当てますが、その魔の手はマッコールに近い人々をも危険にさらすことになり……。


 今回立ち向かう相手はマッコールと同様のスキルを持った悪の最強チーム。クライマックスは前作を上回る凄まじいアクションシーンの連続で大興奮間違いなし! そして前作を観た方ならお分かりかと思いますが、このシリーズ、主人公が読書家という設定なので、今回も本好きにはたまらないエピソードが冒頭からいろいろ盛り込まれています。さらには監督アントワーン・フークア、脚本リチャード・ウェンクと、前作及び『マグニフィセント・セブン』も手がけたコンビなのでサブキャラの細かい描きこみも期待してください。特に近所の学生マイルズ(アシュトン・サンダーズ)とマッコールの触れ合いは最高です! ヒゲがないのでなかなか気づかないペドロ・パスカルに関しては観てのお楽しみということで(笑)。相当筋トレしてるはずなのに絶対に脱がないストイックなデンゼルがカッコよすぎる『イコライザー2』、前作以上の手際の良さにほれぼれしてください!
 
●映画『イコライザー2』予告(10月5日公開)

   

♪akira
  一番好きなマーベルキャラクターはスタン・リーです。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらったり、「本の雑誌」の新刊めったくたガイドで翻訳ミステリーを担当したりしています。
 Twitterアカウントは @suttokobucho








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