犬好きのみなさま、ラブラドゥードルという犬を見たことはありますか。知らないというかた、ぜひググってみてください。ふわふわもこもこ、動くぬいぐるみのような愛くるしい犬です。プードルとラブラドール・レトリーバーを交配させた犬で、あまり毛が抜けないため、介助犬などに使われているとか。今回ご紹介する Bed-Bugged はそんなラブラドゥードル犬が主人公です。

 ドゥードルは介助犬の訓練を受けていましたが、旺盛すぎる好奇心とハイパーな性格が災いしてキャリア・チェンジ犬となり(つまり介助犬には不適格だった)、最終的にアニマル・シェルターに収容されてしまいます。いよいよ明日処分されるという日に、自分の仕事を手伝ってくれる犬を探しにきたジョシュと彼の10歳の娘のモリーへの譲渡が決定。どうやら明日は悲しいことが待っているらしいとうすうす察していたドゥードルは、ふたりに出会ったおかげで新しい犬生に足を踏みだすことになりました。

 そのジョシュの仕事は何かというと、トコジラミ探知業。ええっ、そんな仕事がほんとうにあるんですか? それでは食べていけないでしょう?……なんていう疑問はとりあえず脇に置いておきましょう。まずはドゥードルに活躍してもらわねばなりません。

 ドゥードルはトコジラミを探す訓練を受け、ジョシュの仕事に同行します。ドゥードルによるとトコジラミは食べるとなかなかイケルとか(ううむ、あまり想像したくないですね。

 ある日、ドゥードルはジョシュに連れられて世帯数の多い集合住宅ブライト・ビューに「仕事」をしにいきます。まずはお試しとしてある一軒の探知をして、首尾よく終わったので一棟丸ごと仕事を請け負うことになります。大喜びするジョシュとモリー。彼らが暮らすワシントンDCは何もかも価格が高騰し、暮らしにくくなっていたのです。やっぱりこの仕事で生活していくのは大変だったのですね。

 そんなある夜のこと、ジョシュたちが暮らす家に何者かが侵入します。モリーの部屋の異変に気づいたドゥードルはケージのなかから必死に吠えてジョシュに知らせますが、ケージのなかにいたのでは動きのとりようがありません。しまいにはジョシュにうるさいと叱られます。

「ガウガウガウ、ガウガウ!!(でも、でも、でも、モリーに危険が迫ってる!!)」

 そのとき、モリーの悲鳴が聞こえてきて、ジョシュは大慌てで娘の部屋に向かいます。モリーは無事でしたが、侵入者は窓から逃げて、モリーのカメラとコンピューターが盗まれてしまいました。いったい誰が何のためにモリーのカメラとパソコンを持ち出したのでしょう。

 ドゥードルは侵入者のにおいを追って何キロも離れた地域に探しにいきます。だって、大好きなモリーが大切にしていたカメラですから。モリーはどこにいくにもカメラを持っていき、ある目的のために目にしたもの経験したことを逐一写真に収めていました。父親には内緒で。ドゥードルはモリーの意図ははっきりわからないけれど、彼女がカメラを大切にしていることを感じとっていました。だから、仕事中にモリーのカメラとパソコンのにおいを嗅ぎ取ったとき、ここぞとばかりに吠えたてますが、このあとたいへんなことに巻き込まれ――

 物語はドゥードルの視点で進行します。犬にはわからないこと、犬だからわかること、犬の欲求などなど、「そうそう、犬ってそうよねえ!」と言いたくなる場面満載。以前この欄でご紹介したスペンサー・クインの Dog on It(邦訳『ぼくの名はチェット』、文庫版タイトルは『助手席のチェット』)がお好きなかたなら、きっと面白く読んでくださるはず。

 犬の視点で語られていることもあり、語彙や文法が平易なためスピーディに読むことができます。でも、軽い読み物と侮ることなかれ。ドゥードルの経歴にある使役犬や動物愛護の問題、両親ともに忙しい家庭の子どもの教育問題、地域コミュニティが抱える問題など、現代社会のそこかしこに見られる多様な問題が織り込まれています。なかにはドゥードルが「それ、何の意味があるの?」と思うものもあり、ドゥードルの目を通して、わたしたち人間がやっていることの無駄や無意味さに気づかされます。

 本作はドゥードル・シリーズの1作目で、現在は第5作 Ruff-Housed まで刊行されています。そして、著者公式サイト によると、現在は次のドゥードル・シリーズを執筆中とのこと。この先が楽しみなシリーズです。

片山奈緒美(かたやま なおみ)

翻訳者。北海道旭川市出身。最新訳書は『ノルウェー出身のスーパーエリートが世界で学んで選び抜いた王道の勉強法』(TAC出版)。ノルウェーの平凡な中学生だった著者が、あることをきっかけに勉強に目覚め、アメリカやイギリスの有名大学に留学して学位を取得するまでになった勉強法を紹介する。
365日、12歳の甲斐犬と朝夕の散歩をする日々。現在は書籍翻訳をしながら、大学などでスピーチ・コミュニケーションや日本語科目の非常勤講師を務め、大学院で日本語教育の研究もしている。

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