すっかりご無沙汰しています。5月30日(土)、初夏らしい青空のもと、表参道にて無事に第1回南東京読書会を開催することができました。遅くなりましたが、みなさまにお礼とご報告を。

 当日の参加者は、神戸や沖縄からお越しくださったかた、朝ドイツを出てそのまま読書会にいらっしゃったかたなど、ゲストを含めて計27名(世話人2名を除く)を数えました。もともとは20名で募集の呼びかけをしたのですが、翻訳者の酒寄先生、マライさんご夫妻もお越しくださることになり、それならばと会場の大きさぎりぎりの人数までご参加いただくことに。

 課題書は『禁忌』(フェルディナント・フォン・シーラッハ著/酒寄進一訳/東京創元社)。写真家のゼバスティアンが女性を誘拐したかどで逮捕され、変わり者の弁護士ビーグラーが真相に迫るという物語です。本の帯にうまい説明があったので少しだけ引用を。「鋭利で洗練された文章(シュピーゲル紙)」、「あらゆる箇所に罠が仕掛けられているような、とても謎めいた物語だ(スイス国営放送)」——と、まさにそういう作品です。

 まず、みなさんにひとことずつ感想をうかがいました。初シーラッハの人、シーラッハの追っかけの人、ミステリが好きな人、ミステリはあまり読まない人、SF読みの人、法律にくわしい人——ネタバレのない範囲でいくつか感想をご紹介します。

「シーラッハは今作でちがう次元に突き抜けた印象」

『犯罪』『罪悪』のほうが好き」

「前半と後半ではちがう作品のようだった」

「わからない。わからないけどおもしろい」

 巻末の著者から日本の読者に宛てたメッセージと訳者あとがきに言及なさったかたもいらっしゃいました。また、本国ドイツでのこの作品のとらえられ方について興味深いお話も。

「ドイツでは純文学寄りに分類されている。書いているのが弁護士だから?インテリの書く小説=純文学?という認識でしょうか。ドイツではけっこう酷評も」

 登場人物やその行動の意味について疑問が提示され、後半は酒寄先生を中心にディスカッション形式で会が進められました。先生は解釈の固定化は避けたいとのことで、差し支えのない範囲でご自身の解釈をまじえつつ、深く作品を味わうためのヒントをたっぷり示してくださいました。登場人物が身につける色、場面を表象する色など、色に注目して読むといい、シーラッハさんの作品は本人の生い立ちや経験がさまざまな形で反映されたものだ、著者は常に既成概念に対して問いかけを試みている、今後の動向にも要注目です、とのこと。著者をよくご存じの酒寄先生だからこその洞察に、参加者のみなさんも思わずぐっと身を乗り出し、「ほーっ」「へーっ」「うわーそうかー」としきりにため息が漏れていました。

 最後にはあちこちから「すっきりした」「もう一度読み返したい」との声が。その後、スペイン料理店へ場所を移し、またひと盛りあがりしました。折しも翌週、6月5日から《TABU》の舞台がはじまり、シーラッハさんも来日したそうです。読書会の参加者で観劇したかたが何人もいらっしゃったようで、わたしも観にいってきました。本を読み、再読したあと、読書会でおおぜいの意見を聞き、さらに舞台を観て、それでもまだまだ新たな発見があったことに驚き、ほんとうに奥深い作品だと思いました。そして、ひとつの作品をこんなふうに体験するのは贅沢なことだと改めてみなさんに感謝しています。

 南東京読書会の世話人はふたりとものんびりしておりますので、「こんな本はどう?」「おもしろい企画があるんだけど」「よし、鵜飼やろう」など、みなさまからご提案いただければ、(実現できるかはともかく)とても喜びます。次回は10月を予定、目下課題書を選定中です。読書会には出たことがないからとためらっておられるかた、世話人もひよっこですからどうぞご心配なく! どなたさまも気軽にご参加ください。世話人ふたり、どきどき緊張しながらお待ちしています。

(国弘喜美代 南東京読書会世話人)

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