「私設応援団・これを読め」というタイトルが示すとおり、このリレー連載は「他の人が読み逃しているかもしれないけど、ぜひ読んでもらいたい名作」を熱くお薦めする、という趣旨のものである。だから本当はメジャーどころではなく、マイナーな作家を採り上げるべきなのだ。だが、今回だけはトップバッターの権限を利用してわがままを通させていただく。

 諸君、ドナルド・E・ウェストレイク『泥棒が1ダース』を読もうよ。

 だって、ドナルド小父さんはもうこの世にいないんだもの。あんなに悪戯好きで油断のならない物語を書いて、憎めない茶目っ気があって、アチャラカから楽屋落ちまで笑いの場面を書くのが大好きで、登場人物の紳士録を作りたくなるほどキャラクターの立たせ方が上手で、ちょい役で登場する一人ひとりにまで生きた台詞を吐かせて、でもヒロインにはなんとなく共通する可愛げみたいなものがあって小父さんの女性の好みってこんな感じなのかなって思わせて、ジョン・ドートマンダーのような世の中を器用に渡っていけない男性を書かせると滅法うまくて、そうした人物を街路に立たせることでニューヨークの情景を魅力的に描いて、スタン・マーチに説明されると行ったこともないのにニューヨークの道路事情がよく判るような気にさせられて、つまり物事を簡潔に整理して書く力が飛びぬけていて、だからこそ『汚れた七人』ではあんなに渇ききったラストシーンを書けて、悪党パーカーという不世出のアンチ・ヒーローを主人公にして数々の渇ききった物語を著わして、ところが『殺人遊園地』では悪夢のようなユーモアが支配する世界の物語を書いて読者をびっくりこかせて、ミッチ・トビンを主人公にした〈刑事くずれ〉シリーズでは意外なパズラーの腕を見せつけて……ああ、もう、書けば書くほどウェストレイクがどれだけ好きだったのか思い知らされる。きりがないね。そんなドナルド小父さんの短篇集、やっぱりみんな読むべきだと思うのですよ。

(つづく)