腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! 今回は、去る4月19日に開催された第五回翻訳ミステリー大賞・授賞式&コンベンション内、通称「腐部屋」で行ったトークイベントと、それに先立ってお願いしたアンケート結果のご報告です。

 まず腐部屋トークでは、あの不朽の名作、テリー・ホワイト『真夜中の相棒』復刊祝賀企画として、文藝春秋の永嶋俊一郎さんをゲストにお迎えしました。永嶋さんからの粋な差し入れ、“腐った”高級チーズの香りが充満した部屋の中、『真夜中の相棒』と、腐読みについていろいろと興味深いお話を伺いましたので、その一部をご紹介いたします。

 復刊のきっかけとしては、文春文庫40周年記念で出したい作品として、まず何をおいてもジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』(復刊第二弾として6月10日刊行予定)と、もう一冊(*現時点で復刊未定のためナイショ)で、それ以外で真っ先に思いつかれたのが『真夜中の相棒』だったそうです。当時は殺し屋小説として読んでいたものの、ここ数年で「女性のほうが解ってくれるのでは」と、女性上司の方に提案したらOKが出たとのこと。推した理由の一つとして、『タイガー&バニー』等を見ると、おっさんヒーローものとして、本書も今のほうがライトに楽しんでもらえるのでは、と思いついたからだとか。

 少し時代を遡り、腐読みの始まりについて。萩尾望都、青池保子といった少女マンガの巨匠が、その作品内にSFやミステリへの愛を表明していたことにより、70年代後半には既に腐読み愛好者は存在していました。’84年、『真夜中の相棒』初刊行時は、今で言うクラスタに一大センセーションが! その翌年には吉田秋生『BANANA FISH』の連載が始まりました。ベトナムの戦場に始まるクライム・ストーリー、そのハードな世界観と、体臭さえも感じられるようなキャラクターの描き方は、後年読まれた永嶋さんにも大きく影響を与えたそうで、「腐とハードボイルドの橋渡し的作品」と絶賛。

 さらに『真夜中の相棒』について伺うと、今読み直すとエンタメの書き方というよりは純文学に近い書き方ではないか、負け犬小説として独特の味わいがある、など大変興味深いお答えをいただきました。今回の新装版については、「暴力とエロさを兼ね備えた」表紙にした、とのこと。まさにそのとおりの艶かしい表紙ですよね!

 最後に、当連載おなじみのマイキャスティング、今回特別に永嶋さんにもお付き合いいただきました。事前に伺っていたので、筆者渾身で手作りした妄想映画チラシ。

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 左が永嶋さんのアメリカン・ニューシネマ・バージョン:マック/アーネスト・ボーグナイン、ジョニー/ロバート・レッドフォード、サイモン/ウォーレン・オーツ

 そして右が私の現在可能版:マック/ジェフリー・ディーン・モーガン、ジョニー/トム・ヒドルストン、サイモン/フレドリック・レーン <マジで作られたら狂喜して死にますが(笑)。

 永嶋さん、部屋にいらしてくださった皆様、長い時間お付き合いいただき本当にありがとうございました! 

 そしてアンケートにご参加下さった27名(女性24名、男性3名)の皆様、どうもありがとうございました! できればそのまますべて掲載したいのですが、頂いた熱いコメントの中に、送られた方の個人情報が特定できる記載も含まれていたため、勝手ながら結果の一部のみをご紹介させてください。

“自分が腐だと思う翻訳ミステリー”は、ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』だけが複数の方に挙げられていて、他はすべて皆様違う作品を選ばれていました。当連載で既出の作品を外して羅列しますと以下の通りです。

パトリック・レドモンド『霊応ゲーム』

エドモンド・ハミルトン『キャプテン・フューチャー』シリーズ

ハーラン・コーベン『カムバック・ヒーロー』

ジョシュ・ラニヨン『ドント・ルック・バック』

エーリッヒ・ケストナー『飛ぶ教室』

A・J・クィネル『サン・カルロの対決』

ジェイソン・グッドウィン『イスタンブールの群狼』

スコット・マリアーニ『背教のファラオ アクエンアテンの秘宝』

マーク・プライヤー『古書店主』

アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』

レックス・スタウト『腰ぬけ連盟』

リンジー・フェイ『ゴッサムの神々』

ラッセル・ブラッドン『ウィンブルドン』

ルイーズ・ペニー『スリー・パインズ村と警部の苦い夏』

コナン・ドイル『地球の悲鳴』

ケン・ブルーエン『ロンドン・ブールヴァード』

エルモア・レナード『スワッグ』

アン・ペリー『見知らぬ顔』

アンドリュー・ヴァクス『凶手』

 歴史ものにスリラーにSFにハードボイルドに古典にコージーに……と、期待以上にバラエティに富んだセレクションで非常に楽しませて頂きました。

 映像部門では、『裏切りのサーカス』人気は予想通りでしたが、ダントツで支持を得ていたのが、TV『パーソン・オブ・インタレスト』、次点はTV『ウォーキング・デッド』でした。任意のご意見・ご希望欄では、たくさんの方からあたたかいご声援をいただき、かさねがさねお礼申し上げます。

 TV『SHERLOCK』がきっかけで初めて正典を手に取った方々に、他にもこんなに素敵な作品がありますよ、とお勧めするべく、あえて(?)禁断の入り口を開いた連載なので、ここでさらに興味を持って下さった方もいらして何よりです。ジャンルに関係なく、あくまでも読み方の一つとして楽しんでいただければ幸いです。

 そんな『SHERLOCK』ファンの皆様にぜひ観て頂きたい映画がこちら! 本国イギリスでは絶大なカルト人気を誇るのに日本では幻の映画『ウィズネイルと僕』(’88/英)がまさかの劇場公開。気位の高さは天下一品の変わり者ウィズネイルと、気弱な「僕」は売れない役者同士。一緒に住んでるフラットは、汚くて寒くておまけにネズミもいるかもしれない。お金があったらまずはパブ。でも今の僕らに必要なのは新鮮な空気だ! 2人はウィズネイルの叔父が持つ湖水地方の別荘に向かうが……。

 どうしてイギリス人は強気の変人男と気弱男子のコンビがこんなにも好きなのか。なぜこの地味な映画がここまで愛されるのか。あのイアン・ランキンも、何度も観る映画として選んでいる名作です。

 イギリス好きな方、男子2人組が好きな方、観終わった後、甘酸っぱくてほろ苦い気持ちになりたい方はぜひどうぞ。

(5/31まで吉祥寺バウスシアターにて限定公開)

◆『ウィズネイルと僕』予告編

♪akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 Twitterアカウントは @suttokobucho

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