全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!

 今年も「火の無いところからタワーリング・インフェルノ」をモットーにがんばりますので、どうぞよろしくお願いします。

 新年第一弾は大物にチャレンジ! TVシリーズも絶好調な、スティーヴン・キング原作の傑作スペクタクル巨編『アンダー・ザ・ドーム』(文春文庫)です!

 メイン州チェスターズミル——小さな田舎町が一瞬にして全世界から孤立した。突然透明な壁が町を覆い、その境界線に存在していたものすべてが容赦なく文字通りに切断されたのだ。町に残された住民と、たまたま訪れていた外部の人間、合わせて2千人。“ドーム”に閉じ込められた彼らを待ち受けていたのは、想像を超えた過酷な運命だった。

 物語は、うららかな秋晴れの日、セスナ機が上空で大破し墜落するという衝撃的なシーンで幕を開けます。突如出現した目に見えない障壁に車は追突し、まるでギロチンの刃のように降りてきた透明の物質に切断された死傷者が続出。町のあちらこちらが一瞬にして地獄絵図と化します。

 ダイナーでコックをしていたデイル・バーバラ(通称バービー)は、ごろつき達ともめ事をおこして町を出るところでした。流れ者の彼の正体は、従軍先のイラクで手柄を立てたものの、辛い記憶に悩まされている元兵士。その経歴から、ドーム外の軍隊の要請で脱出作戦のリーダーとなります。彼を助ける面々として、地元紙の編集発行人ジュリア、医師助手のラスティ、天才少年ジョーなど、生き生きと描きこまれたキャラクターたちが次々に登場します。

 ドームが出現したその頃、ダイナーでウェイトレスをしているアンジーが、町の大立者ビッグ・ジム・レニーの息子ジュニアに殺されました。この残忍な犯行を発端として、ジュニアと父親ビッグ・ジムは次々に悪行を重ねます。謎のドームだけでも十分なのに、それと同じぐらい怖いのがこの悪魔の中古車屋ビッグ・ジム。表向きは町政委員アンディ・サンダースの二番手、地域密着型町内会役員として住民の信頼も厚い彼ですが、裏を返すと法も正義もへったくれもないゴリゴリのレイシスト。外部から閉ざされたのをいいことに、住民の不安を煽り、互いに憎しみあうよう画策し、しまいにはライフラインの供給さえ断って、恐怖政治で町を牛耳ろうとします。とにかくこのオッサンが酷い!!……んですが、読み進むあいだにだんだん「どこまで飛ばしてくれるのか」とさらなる鬼畜行為を期待してしまうという不思議。そしてその予想をはるかに裏切るようなウルトラエクストリーム鬼畜展開に持っていくキング先生が一番鬼畜!!!(注:褒めてます) ちなみにTV版でビッグ・ジムを演じるディーン・ノリスはイメージぴったり! 時代劇でいう“越後屋”っぽくていい感じ(笑)。

 ミサイルすら歯がたたない難攻不落のドーム。さらに鬼畜父子の謀略にも立ち向かうバービー率いる混成チームの活躍は、本書の最大の読みどころです! 臆病だったり、やっかい者だったりする住民たちが勇気を出して闘っていくさまは、冒険活劇のような、はたまたアクション映画のような臨場感に満ち溢れ、興奮でページをめくる速度が上がること間違いなし!

 そして特筆すべきは仕事に関するエピソード。病院や新聞社はもちろんですが、普段どおりに営業するダイナーや飲み屋があることで住民たちが落ち着くくだりは心温まります。しかしそれ以上に、あの異常な状況下で、消費期限がヤバい売れ残りの商品で一儲けする輩あり、だだっぴろい牧場で駐車料金を取る輩あり。良くも悪くも人間の適応能力に感心すると同時に、こうしたささいなリアリズムも忘れないキング先生、さすがのストーリーテラー!

 想像を絶する虚無感、疑心暗鬼に満ちた人間の恐ろしさ、次から次へと起こる鬼畜な犯罪、と、まさに一時たりとも目をそらせない本書ですが、そんな絶望の中にも、人間の尊厳や生きる喜びがしっかりと描かれています。読後は、この長編を読み終えたという満足感と共に、清々しい前向きな気持ちになっているのではないでしょうか。とにかく お も し ろ い です!!!

 さて皆様、ここからが恒例の腐検証タイム!

 まず王道のカップルは、なんといってもバービー&ラスティでしょう! ビッグ・ジムの策略で殺人犯にされたバービーを命がけで助けるラスティ。

バービーはラスティの困惑を見てとり、その無邪気さゆえにラスティのことがますます好きになった。(本文より)

 とか、随所に何気なく萌えポイントがありますが、やはりベスト場面は、警察官であるラスティの妻がビッグ・ジムにだまされてバービーを逮捕しようとするところ。バービーの無実を疑わないラスティは、「妻を押しのけ、これまでに見せたことのない顔つきを妻にむけた」り、嫌悪の表情を浮かべながら妻の「手を振り切」ったりするんですよ! そして見つめあうバービーとラスティ! <これ作ってませんから!

 次なるカップルはなんと! ビッグ・ジムとアンディ・サンダースです! ていうかこっちの2人の描写の方が相当ヤバい(笑)。

「(アンディとビッグ・ジムは)顔を見あわせ、胸と胸を押しつけあったまま」などという状況もどうかと思いますが、それよりも、アンディは冒頭の事故で死んだ妻のことを「美しいビッグ・ジム・レニー」で、「ともに寝られ、安心して秘密を打ち明けられる相手だった。」って思ってたんですよ!!! なんですかそれ!!(衝撃)

 アンディってばそんなにもビッグ・ジムのことが……と呆然としていると、さらに追い討ちをかけるように今度はビッグ・ジムの方がアンディに、

「わたしもだよ、わが友」髪の毛を撫でながら。撫でながら。

 これ、大事なことなので二回言いましたって意味ですかキング先生(と白石さん)!!!

 まさかこの2人でこんなに心拍数上げられるとは……と思った矢先、今度はランドルフ署長の告白(?)でジムが胸熱になったりするんですよ! なんなのこの誰得な展開は!!

 そうこうする間にも、ドーム対チェスターズミルの住民たちの最後の対決が近づいてきます。緊張感も頂点に達した怒濤のクライマックス! しかしその直前にまったくノーチェックの新カップル誕生が!!!

「愛してるよ(名前)」 

「おれも愛してるぜ」

 そして××という超予想外のおまけ(?)エピソード。

 未読の方はぜひ本書を読んで、壮絶なラストシーンとこの唐突なカップルの熱愛にびっくりして下さい。

 というわけで、別のアングルでも手に汗握る展開の本書、“恐怖の帝王が「アクセル踏みっぱなし」で贈る超大作”という帯文に偽りなし! 一度本を開いたら手がしびれてもやめられませんが、食事・睡眠・トイレ休憩はしっかりと! できればレイズ・ポテトチップスをかたわらに用意しておけば完璧です。

 ドラマはキング本人とスティーヴン・スピルバーグが製作総指揮をつとめ、現在シーズン2まで放映終了。続行も決まりましたが、物語も人物設定もかなりオリジナルな作りになっています。詳しくは、以前当HPで訳者の白石さんが、改変に不満なファンのためにキングが出した公式声明文を紹介していますので、ぜひこちらをご覧下さい。

 と、御大も認めたドラマはたしかに面白いんですが、本と同じ設定のラスティがいないと知った時のがっかり感……。そこであえて、やはり素性を隠した流れ者が町を救う『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984/米)を。

 久しぶりに故郷に帰ってきた主人公(マイケル・パレ)が、今や売れっ子歌手になった昔の恋人(ダイアン・レイン)をならずものから救います。無口でひたすらかっこいい主人公に男女問わずまわりが惚れ惚れしますが、公開当時一番話題になったのは、町のギャング団リーダー(ウィレム・デフォー)の衣装が魚屋の前掛けにしか見えなかったということだったのを書いておきます。

● Dlife 『アンダー・ザ・ドーム』公式サイト

http://www.dlife.jp/underthedome/

●『ストリート・オブ・ファイヤー』予告編

♪akira

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  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 Twitterアカウントは @suttokobucho


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