第八回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションのイベントとしておこなわれた第五回「出版社対抗イチオシ本バトル」。きょうはその模様を東京創元社の宮澤正之氏による参戦記でお伝えいたします。
当日、参加者の方に配布しました「イチオシ本」の宣伝リーフレット、および参加各出版社の「わが社の隠し玉」フライヤー、それぞれのPDFファイルも一挙公開いたします。ご自由にダウンロードして、これからの読書の指針としてください。
去る4月22日、盛況のうちに終わりました第8回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション@大田区産業プラザPiOの企画のひとつとして、「出版社対抗イチオシ本バトル」がおこなわれました。
2013年の第4回から5年連続開催となったこの企画、いわゆる「ビブリオバトル」とは趣旨もルールも異なるということで、今回から名称が変わりましたが、やることは基本的に変わりません。海外翻訳出版社の担当編集者がイチオシの本をおすすめするプレゼン大会です。
申し遅れましたが、出場者兼レポート担当の東京創元社・宮澤です。ついでにいうと前回優勝者です(そのときご紹介したキャシー・アンズワース『埋葬された夏』は創元推理文庫より好評発売中。宣伝です)。
ではまず、今回のルールを説明しておきましょう。
プレゼンはひとり制限時間3分以内でおこない、質疑応答はなし。観客にはいちばん読みたくなった本(のプレゼン)1つを決めて手をあげてもらい、優勝者を決める……という、ガチンコ一本勝負です。毎回微妙にルールが変わるのですが、今回の「質疑応答なし」という新レギュレーションが判定にどう影響するか……。
そして気になる出場者は、翻訳ミステリを刊行している5つの出版社からひとりずつ5名。発表の順番は出版社名五十音順ということで、こうなりました(敬称略)。
1.小学館 皆川裕子
2.東京創元社 宮澤正之
3.ハーパーコリンズ・ジャパン 新田磨梨
4.早川書房 根本佳祐
5.文藝春秋 永嶋俊一郎
今回は二番手。ぬぼーっとした顔をして混じっているのでわかりづらいかもしれませんが、毎回緊張するんですよこの企画。編集者をやっていると、不特定多数の人に向けてしゃべる機会なんてそうそうありませんからね。それはほかの皆さんも同じようで、ステージ脇で待機しているときの空気が若干重い。それでもバトルは始まってしまいます。
1.小学館 皆川裕子さん
ジグムント・ミウォシェフスキ/田口俊樹訳『怒り(仮)』
小学館の北欧ミステリといえば個人的にはスウェーデンのカーリン・アルヴテーゲン(『罪』『喪失』など)がまず思い浮かびますが、こちらは本邦初紹介となるポーランドの作家とのこと。
皆川さんは事件の怖さ、衝撃度を強調していました。白骨死体がじつは薬品で溶かされてできたものであったと明らかになるのは、たしかに怖い……。検察官ものということで、事件のディテールも克明に描かれているうえに、最後には強烈な衝撃が待っているそうなので、期待大ですね。
2.東京創元社 宮澤正之
R・D・ウィングフィールド/芹澤恵訳『フロスト始末』
はい自分の番です。いままさに編集作業追いこみ中なので、これ以外に紹介する作品を思いつきませんでした。ご存じ超人気警察小説シリーズ最終作、上下巻合わせて900ページ以上の大ボリュームです。とにかく事件がいっぱい起こるので、個々に説明してもしかたないと思い、ジャック・フロスト警部という強烈な主人公について時間いっぱい語りました。いまだにこのおっさん以外に、浣腸をお見舞いする翻訳小説の登場人物には会ったことがありません。今回もそんなどうしようもないフロストをたっぷり堪能できますよ。
3.ハーパーコリンズ・ジャパン 新田磨梨さん(初参加)
ダニエル・シルヴァ/山本やよい訳『ブラック・ウィドウ』
新田さん、まず「ハーパーコリンズ・ジャパンという会社のことをもっと知ってほしい」と熱弁。ハーパーコリンズといえば、われわれ海外担当編集者なら誰でも知っている英米圏の超大手出版社ですが、その日本法人がハーパーコリンズ・ジャパン(〈ハーレクイン・ロマンス〉でおなじみハーレクインの日本法人が社名変更したもの)。文庫レーベル〈ハーパーBOOKS〉で翻訳ミステリも出していることを知らしめたい!ということでバトル初参加でした。
紹介してくださったのは、スパイ小説のベストセラー作家ダニエル・シルヴァの〈ガブリエル・アロン〉シリーズ最新作。パリ、ついでアムステルダムで爆破テロが起き、どうやらそれは“ブラック・ウィドウ”なる、西側の攻撃で死んだテロリストゆかりの女性たちの犯行らしい……という、現在の世相を反映した物語となっているようです。
この作品にかぎらず、あれこれ注目の作品がラインナップされているハーパーBOOKS、要チェックですね。
4.早川書房 根本佳祐さん
ノア・ホーリー/川副智子訳『晩夏の墜落(仮)』
墜落するのは大富豪のプライベートジェットで、場所は大西洋上。その墜落する前と後の人間模様が交互に描かれ、なぜ飛行機は落ちたのか? 機内で何が起きたのか?が明らかになっていくという構成で……おお、面白そう。著者のホーリーはドラマ「BONES」「FARGO/ファーゴ」などの脚本家だそうで、飛行機を題材にしたミステリといえば『スカイジャック』だったり『超音速漂流』だったり『シャドー81』だったり、あまた名作がありますが、これはまた別のアプローチで楽しみですね。
根本さんいわく「いまMWA(アメリカ探偵作家クラブ)の最優秀長編賞にノミネートされていまして、ひょっとしたら受賞作として世に出るかもしれません」とのことでしたが、4月28日におこなわれた選考で、めでたくMWA最優秀長編賞を受賞しました。
5.文藝春秋 永嶋俊一郎さん
ボストン・テラン/田口俊樹訳『その犬の歩むところ』
トリの永嶋さんが用意してきたのはテランの最新作。犬を愛するすべての人必読、らしいです。『音もなく少女は』(当初の原題は Woman)で真っ向から〈女性〉を描いたテランのこと、同じく直球の GIV :The Story of a Dog and America なんてタイトルの作品でもストレートに〈犬〉と〈アメリカ〉を描くのでしょう。そこまで犬愛のない自分でも、ギヴという名の犬を触媒としてアメリカを描くのだ、という説明には、それ読みたい!と素直に思いました。
こうして五人五様のプレゼンが終わり、観客の挙手タイムになります(得票数は事務局メンバーがアナログ方式でしっかり数えます)。ちなみに自分は『晩夏の墜落(仮)』に一票投じました。集計の結果、今回の勝者は……
『その犬の歩むところ』を紹介した文藝春秋・永嶋氏!
おめでとうございます! うーむ、がさつで下品でくたびれたおっさん警官より犬のほうがいいっていうのか!(それはそう)
優勝した文春の永嶋さんには事務局より賞状が送られ、大きな拍手とともに企画は無事終了となりました。心優しい参加者の皆さんは、紹介された5作品すべてお買い上げいただけるものと信じております。ありがとうございます(先んじて礼)。
この企画が来年も開催されるかどうかは参加者の皆さんしだいで、そのとき自分がまた登壇するかどうかもわかりませんが、やはりここはこの言葉で締めたいと思います。
それでは来年、第九回翻訳ミステリー大賞授賞式でまたお会いしましょう!
第八回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンションでおこなれた「七福神でふりかえる・翻訳ミステリーこの一年」。
読書の達人である七福神のうち、北上次郎氏と吉野仁氏が降臨、当シンジケート事務局の一員でもある川出正樹、杉江松恋(司会)とともに、ときには真剣に、ときには軽妙洒脱に、そしてときには暴走しつつ、翻訳ミステリー・シーンをふりかえりました。
以下は当日配布された、書評七福神の年間セレクトの一覧表です。既読・未読のチェックに、購入本リスト作成のおともに、どうぞご活用ください。
◆あわせて読みたい「各社対抗」ビブリオバトル・レポート集
第八回翻訳ミステリー大賞受賞作!(Kindle版もあり)
●第一回大賞受賞作
●第二回大賞受賞作
●第三回大賞受賞作
●第四回大賞受賞作
●第五回大賞受賞作
●第六回大賞受賞作
●第七回大賞受賞作
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