田口俊樹

前回(☞こちら)の続篇。
私、翻訳の専門学校で講師をしてるんですが、前回の長屋を読んでくれた子育て真っ最中の若いママさん生徒に言われました。
「ウージイイーツが来てくれる先生の娘さん、めちゃめちゃ羨ましいです」
いや、もう嬉しくて、妻に自慢しました。
「な、若い女性にもおれの秀逸なギャグがうける人がいるんだよ」
すると古女房が言いました。
「何言ってんの。その生徒さんは惣菜のことを言ってるんでしょうが」
「……」

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀)

 

 


白石朗

 先日なにげなくテレビをつけたら、ウディ・アレンのミュージカル『世界中がアイ・ラヴ・ユー』を放映中でした。何度も見ているのに(ソフトも所有しているのに)うっかり釣りこまれて最後まで鑑賞。ラスト近くでゴールディー・ホーンが絶妙な掠れ声で歌う“I’m Thru With Love”と河岸でのダンスはやっぱりいいですね。翌日は仕事のBGMにYoutubeで、マリリン・モンロー(『お熱いのがお好き』)やらカーメン・マクレエやらチェット・ベイカーやらの同曲を芋づる式に流していた次第。
 このところキーボードの傍らに常備しているのは文藝別冊『我らの山田風太郎』。マイ・ベスト風太郎はなにか。そびえる鉄板の傑作群を横目に見つつ、大久保長安&本多佐渡守の『天の川を斬る(銀河忍法帖)』と松永弾正の『海鳴り忍法帖』で迷い、『おんな牢秘抄』に浮気したくなります。

(しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング&オーウェン・キング『眠れる美女たち』。〈ホッジズ三部作〉最終巻『任務の終わり』の文春文庫版につづいて不可能犯罪ものの長篇『アウトサイダー』も近刊予定。ツイッターアカウントは @R_SRIS)

 

 


東野さやか

 先月、運転免許証更新のお知らせが届きました。沖縄での更新手続きは初めて。運転免許証の更新なんて全国どこでも同じ、優良運転手なら地元警察で手続きできるものと思いこんでいたのですが……違いました。こちらでは警察署での更新はなく、わたしの場合は豊見城市にある運転免許センターでの手続きになるとのこと。例年ならば、更新ついでに去年できた大型商業施設の〈イーアス豊崎〉をのぞいてみようと思うところですが、新型コロナウイルス感染症がいまだ猛威を振るっている状況では、その気になれず。だいいち、運転免許センターでの更新手続きそのものも不安です。
 ぐずぐずしていてもしょうがないと心を決め、ついに最初の一歩を踏みだすことにしました。今週末、美容院に行ってきます。

(ひがしのさやか:最近のおもな訳書はクレイヴン『ストーンサークルの殺人』、フェスパーマン『隠れ家の女』。その他、ジョン・ハート、ウィリアム・ランデイ、ニック・ピゾラット、ローラ・チャイルズなどを翻訳。ツイッターアカウント@andrea2121

 

 


加賀山卓朗

翻訳ミステリー大賞の事務局に加わっているせいで、皆さんの予備投票の結果をいち早く見ることができるという恩恵に浴しているわけですが、そのなかで私として完全にノーマークだったのが、ノルウェーの警察小説、『警部ヴィスティング カタリーナ・コード』(ヨルン・リーエル・ホルスト/中谷友紀子訳/小学館文庫)。いいですね、これ。こういう静かな緊張感の漂う話が読みたかった。シリーズのほかの作品もぜひ読んでみたい。ヘニング・マンケルの刑事ヴァランダーが好きなかたは必読だと思います。

(かがやまたくろう:デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳。昨年末は、ジョン・ル・カレの訃報が胸にこたえました)

 

 


上條ひろみ

 一月に読んだ本では、年末のオススメ本バトルでもとりあげられていたリズ・ムーアの『果てしなき輝きの果てに』が印象的でした。パトロール警官になった姉のミカエラと、薬物依存症の妹ケイシーの過去と現在が交互に語られる姉妹もの。読んでいくうちに印象が変わるキャラクターが多く、いい意味で裏切られました。どんなにつらくて、絶望的なことばかりでも、一筋の希望を見つけることはできる、という作者のメッセージが胸にしみます。
『アンダー、サンダー、テンダー』『フィフティ・ピープル』と、作品ごとにまったくちがうタイプの物語で愉しませてくれるチョン・セランも注目している作家。『保健室のアン・ウニョン先生』はまさかのホラー(?)・ファンタジーで、ものすごくヘビーな設定なのに、くすっと笑えるかわいい物語に仕上がっているのがすごい。どんよりした日常を打破してスカッとしたい人にオススメです。ドラマ化もされていて、アレがうまいことビジュアル化されています。
 時間を忘れて読みふけったM・W・クレイヴン『ストーンサークルの殺人』はキャラの魅力にやられました。モーリーン・ジョンソンの『寄宿学校の天才探偵2』では学園もの謎解きミステリを堪能。今年もいろんなジャンルの本を読むぞ!
(かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』など。最新訳書はハンナシリーズ第21巻『ラズベリー・デニッシュはざわめく』)
 
 
 

 


高山真由美

 日本翻訳大賞の「翻訳ラジオ」を聴きました。『精神病理学私記』を共訳された阿部大樹さんと須貝秀平さんご出演の第3夜がとくにおもしろかったです。自分が詳しくは知らない専門分野についての本を、自分とまったくちがう方法で訳した過程が語られていて、興味津々でした。
 さて、翻訳ミステリー大賞のほうも候補作が発表されました。本投票開始はすこし先ですが、5作のなかに未読がある場合には、いまからぼちぼち読んでおいてくださいませ。

(たかやままゆみ:最近の訳書はサマーズ『ローンガール・ハードボイルド』、ブラウン『シカゴ・ブルース(新訳版)』、ベンツ『おれの眼を撃った男は死んだ』など。おうち筋トレはじめました。ツイッターアカウントは@mayu_tak

 

 


武藤陽生

ラジコンが欲しい。ラジコンのことばかり考えてしまって仕事が手につかない。コロナ禍でラジコンの売れ行きがあがっているらしい。しかし公園で誰かがラジコンで遊んでいる姿などついぞ見ていない。あまりに考えてしまうので、タミヤプラモデルファクトリーというところに行ってみて、気持ちを落ち着かせることにした。でかい。実物はこんなにでかいのか。ショックを受けた私はミニ四駆を買って帰った。公園で遊ぶならワイルドミニ四駆というビッグタイヤのやつがいいという情報を聞きつけ、計3台。組み立てて公園で息子と遊んだ。楽しい。楽しいじゃないか。これがラジコンだったらもっと楽しいんだろう。ああ、ラジコン欲しい。

(むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。年末にハイスペックのノートPCを買って『サイバーパンク2077』や『マイクロソフト フライトシミュレーター』で遊んでいました)

 

 


鈴木 恵

 このごろは新刊より、前々から読みたいと思っていた本を手にとることが多い。リチャード・ヒューズ『ジャマイカの烈風』(小野寺健訳/晶文社/1977)もそんな1冊。英国へ帰国する子供たち7人が、カリブ海で海賊船にさらわれるというお話なんですが、物語は期待どおりの方向へはぜんぜん進まないのです。『宝島』や『二年間の休暇(十五少年漂流記)』のような明るく・正しい物語とも、『蠅の王』のような暗く・いけない物語ともちがい、明るく・いけない物語といったところ。一昨年公開された《マイ・ブックショップ》という映画では、「善良な海賊と邪悪な子供たちの物語」なんてふうに紹介されていて、重要な役割を果たしてましたね。わたしは海賊たちがちょっぴり不憫でした。

(すずきめぐみ:働きものの翻訳者・馬券散財家。映画好き。最近のおもな訳書は『ザ・チェーン』『拳銃使いの娘』『その雪と血を』など。ツイッターアカウントは  @FukigenM