田口俊樹
〔たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬と麻雀〕
白石朗
〔しらいしろう:老眼翻訳者。最近の訳書はスティーヴン・キング&オーウェン・キング『眠れる美女たち』。〈ホッジズ三部作〉最終巻『任務の終わり』の文春文庫版につづいて不可能犯罪ものの長篇『アウトサイダー』も刊行。ツイッターアカウントは @R_SRIS〕
東野さやか
目撃証言と物的証拠から残忍な殺人事件の犯人として逮捕された人物が、犯行時刻前後に離れたべつの場所にいて、それを証言する証人も複数いる。そんなことがなぜ可能なのか。それはもちろん、キングだからなんですが、そのべつの場所というのがハーラン・コーベンの講演会というところで思わずにんまり。なぜハーラン・コーベン? べつに架空の作家でもいいのに、あえて実在の作家にしたのはなぜなのかと考えはじめたら、気になって気になって夜しか眠れません。
ところで、ご好評をいただいたM・W・クレイヴンの『ストーンサークルの殺人』の続編、『ブラックサマーの殺人』がいよいよ今月十九日に出ます。タイトルに使われているブラックサマーとはなんでしょう? 答えは読んでのお楽しみ。
〔ひがしのさやか:最新訳書はジョン・ハート『帰らざる故郷』(ハヤカワ・ミステリ)。その他、チャイルズ『ラベンダー・ティーには不利な証拠』、クレイヴン『ストーンサークルの殺人』、アダムス『パーキングエリア』、フェスパーマン『隠れ家の女』など。ツイッターアカウント@andrea2121〕
加賀山卓朗
興味が湧いたので、スウェーデンの人口統計を見てみると、国外にルーツを持つ人(国外で生まれたか、両親のどちらかが国外生まれ)が総人口の2割ほどになっている。ルーツの国でいちばん多いのはフィンランドですが、2位、3位はイラクとシリア。『カリフェイト』に出てくる風景はなんら特別なものではないということですね。でも、それより驚いたのは、スウェーデン統計庁による将来の人口推計がこの先何十年も右肩上がりであること。わが国の状況から考えると、別世界のようで……。
〔かがやまたくろう:ジョン・ル・カレ、デニス・ルヘイン、ロバート・B・パーカー、ディケンズなどを翻訳。最近の訳書はスウェーデン発の異色作で意欲作、ピエテル・モリーン&ピエテル・ニィストレーム『死ぬまでにしたい3つのこと』〕
上條ひろみ
というわけで、全部は書ききれないので九月の読書日記はひとこと(またはふたこと)書評でいきます(読んだ順)。
『老いた殺し屋の祈り』マルコ・マルターニ:老いた殺し屋の苦悩と愛の深さに胸を打たれるエモーショナルなノワール。
『僕が死んだあの森』ピエール・ルメートル:シンプルさを逆手に取った、見事と言うしかない展開と着地点。
『自由研究には向かない殺人』ホリー・ジャクソン:フェアで素直で決してブレないピッパは好きにならずにはいられないヒロイン。
『黄金の檻』カミラ・レックバリ:復讐は蜜の味。魔法がとけてからの強烈リベンジは軽く引くレベル(いい意味で)。
『チェスナットマン』セーアン・スヴァイストロプ:目が追いつかないほどのリーダビリティ。読み進むにつれて刑事コンビの魅力が増していき、どんどん感情移入してしまう。
『誠実な嘘』マイケル・ロボサム:女性への視線が温かく、読んでいてすごく心地よい。逆に男性には手厳しい?
『すべてのドアを鎖せ』ライリー・セイガー:これ絶対ヤバいやつ!とわかっているけど乗らずにはいられないヒロインの事情に同情。真相がわかってからのほうが怖いかも。
『死ぬまでにしたい3つのこと』モリーン&ニィストレーム:ページをめくる手が止まらない(Kindleだけど)! ワケありすぎる捜査官のジョンにハラハラさせられっぱなし。
『彼と彼女の衝撃の瞬間』アリス・フィーニー:終始「えっ、どゆこと?」と思いながら読んだ、牽引力抜群の謎解きミステリ。
『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン:人生の酸いも甘いも知り尽くした素人探偵たちの自由さ、ほろ苦い読後感が味わい深い。
『ヒロシマ・ボーイ』平原直美:複雑な立ち位置にありながら、激動の時代をたくましく生きたマス・アライ(86)の静かな自信がかっこいい。
『誕生日パーティー』ユーディト・W・タシュラー:壮絶だけどどこまでもやさしい家族の物語。意外なところからくる衝撃に身構えるべし。
『ヨルガオ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ:期待を裏切らない、贅を尽くしたコース料理のような完成度の高さ。
〔かみじょうひろみ:英米文学翻訳者。おもな訳書はジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、ジュリア・バックレイ『そのお鍋、押収します』、カレン・マキナニー『ママ、探偵はじめます』など。最新訳書はエリー・グリフィス『見知らぬ人』〕
高山真由美
ここのところ仕事の合間に読んでいるのは “Only the Good Die Young” という、ジョシュ・パクター編纂のアンソロジーです。タイトルからピンときたかたもいると思いますが、そう、これは寄稿者がビリー・ジョエルの曲の歌詞にインスパイアされて書いた短篇を集めた本です。”Piano Man” とか “It’s Still Rock and Roll to Me” とか “Easy Money” とか “A Matter of Trust” とか、いわれてみれば、そのままクライム小説のタイトルになりそうなものも多いかも。いそいそプレイリストをつくって聴きながら読み、一篇読むごとに歌詞を再確認して「なるほど」「うまい!」と膝を打っています。これ訳して、CDとセットで発売できたらいいのに(夢見るだけなら自由……)
〔たかやままゆみ:最近の訳書はヒル『怪奇疾走』(共訳)、サマーズ『ローンガール・ハードボイルド』、ブラウン『シカゴ・ブルース(新訳版)』、ベンツ『おれの眼を撃った男は死んだ』など。ツイッターアカウントは@mayu_tak〕
武藤陽生
いろんな苦労がありましたが、5年越しでシリーズに重版がかかったことで、少し報われた思いがしました。第5作『レイン・ドッグズ』も年内発売予定です。
〔むとうようせい:エイドリアン・マッキンティの刑事ショーン・ダフィ・シリーズを手がける。出版、ゲーム翻訳者。最近また格闘ゲームを遊んでいます。ストリートファイター5のランクは上位1%(2%からさらに上達しました。まあ、大したことないんですが…)で、最も格ゲーがうまい翻訳者を自負しております〕
鈴木 恵
かたや、当かわら版のどん尻にひかえしわたくし、振り返ってみると少年少女小説を取り上げる回数が多いのに気づきました。やっぱり心が若いんでしょうかね。
というわけで前フリが長くなりましたが、今月は、これまた少年少女を主人公にしたホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』(服部京子訳/創元推理文庫)と、紫金陳『悪童たち』(稲村文吾訳/ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んで、すっかりむかしの自分に返ったような気分を味わいました。
『悪童たち』でむかしの自分に返るってどういうことだよ、とお叱りを受けそうですが、わたし、中学生のころは半分本気で知能犯になりたかったのです。あのまま知能犯を目指していたら、いまごろどうなっていただろう。遠い目をしてそんなことを考えました。今からでも遅くないかな。